表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第27章 2年生の夏期休暇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

798/801

746.鍛錬の成果発表

「今こそ猫どもに修行の成果を見せる時! 目にものを見せてくれようぞ!」

「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」


 ペルの前にひざまずいているのは、黒い忍び装束に身を包んだコボルト忍者の精鋭10名。「行けっ!!」の号令と共に、一糸乱れぬ動きで所定の場所へ散る。

 10名の気配がなくなったのを確認してから、ペルは肩の力を抜いて大きく息を吐いた。クスッ、と隣りにいたアンが笑った。


「ペル。すごく格好良かった」

「からかわないでよ、アン」

 ペルは恥ずかしそうに、指で頬をかいた。


 王都の新伯爵邸でギジェルの特訓を受けたアン達コボルトは、侵入者に気づけないなどコボルト族の名折れだと真剣に修行に明け暮れる日々を送った。


 ──のだが。


 普通の猫だけなら確実に侵入に気づけるようになっても、片目の猫が参戦する時は全敗。ギジェル1人が侵入役をした場合も全敗だ。悔しさに涙をにじませながら訓練に励んだ。


 そして、夏期休暇の間という短い訓練期間を終えた今日は、訓練成果の発表日である。


 今度こそ、猫の子1匹入れてなるものか!とコボルト忍者隊は張り切っている。コボルト忍者隊は、メルヴィル伯爵家では正式名称となった。

 それは、アリアがポロリと口にした『忍者』の言葉のせいだ。


 アリアと稜真の会話では忍者と言っていたが、この世界で広めるつもりはなかったのに、「忍者とは、忍ぶ者である!」とアリアがドヤ顔で説明したせいで、コボルトは自分達を忍者と称するようになった。──アンとペルも気に入っている。


「どうしてアリア様も忍び装束を着ているのです?」

「訓練の成果を見て下さるのではなかったのです?」

 アンとペルがじっとりと、忍ぶ方の黒い忍び装束姿のアリアを見つめる。


「見てるだけじゃ楽しくないもん! 大丈夫~。私は陽動担当だからね!」

「何が大丈夫なのです?」

「魔獣の天敵とうたわれているアリア様が参戦とは…」

「うたわれてるんじゃなくって、不本意な称号なんです~」


 称号になっている方がタチが悪いが、アンもペルも本人には言えない。アリア参戦とは、どう考えても難易度が上がっているとしか思えない。


 アリアは「それじゃ!!」と手をあげてから、シュバッと駆け去って行った。


 今日のミッションは、あらゆる所から侵入を謀る猫から屋敷を守り抜くこと。

 ゴールと定められた地点に到達されなければ忍者隊の勝ち。1匹でもその地点に到達されてしまったら忍者隊の負けとなる。


「ペル。リョウマ様が参戦した場合を考えたら、アリア様の方がましだって思おうよ」

「そ…うだね」

 猫使いの稜真が加わったら、負けが確定しそうだ。それくらいなら、強者の気配を垂れ流しているアリア相手の方がいい。訓練の成果は稜真にこそ見せたかったが、今日は約束があるからと言われてしまったのだ。


 アリアの動きなら2人には丸わかりだ。まっしぐらに敷地を出ていった。どこかで猫と合流するのだろう。

 アンとペルはアリアに合わせて、急ぎ作戦を立て直した。




 一方。侵入者サイドの猫9匹とアリアは、通訳がいないので意思の疎通は出来ていない。


『なぁ。若の代わりにいる人間、うるさくね?』

『それな』


 アリアはボブテイルのオナシにおやつを差し出し、「可愛い!!」と言いながら撫でまくっている。オナシはびくつきながら動けないでいた。

 稜真といる所を何度か見ているから警戒はしていない。

 アリアが持つ『魔獣の天敵』称号の対象はあくまでも魔獣なので、猫には効果がない。それでもただ者ではない雰囲気があるので、普通の猫はアリアに近寄らない。


 貴重な機会をたんのうしているアリアなのである。


 侵入する猫の側も今日は精鋭を揃え、マダラの右腕のミミオレが率いている。

 マダラが鍛えた猫達は、夜の町で様々な情報収集に励んでいる。まだまだ未熟なコボルトどもに遅れは取らない!と、こちらも意気軒昂である。


 我慢の限界を迎えたオナシが、アリアの手を遠慮がちに叩く。

「ニャ…」

「はっ!?」

 猫達にあきれ顔で見上げられていると、アリアはようやく気づいた。


「そ、そろそろ行こっか! 私が注意を集めるから、みんなは侵入に専念してね!」

「「「「「「「「「ニャン!」」」」」」」」」


(うふふ。猫使いの気分~)


 猫達と別行動のアリアは、出入りの業者や通りかかる人がいないのを確認してから、堂々と正門前に立った。隠密行動に体験は似合わない。今日は短剣を装備しているアリアは両腕を腰に当て、「たのも~!」と言ってから門を乗り越えた。──その途端、手裏剣が飛んできた。


「おお?」

 アリアは短剣で手裏剣の全てを弾く。


 手裏剣を投げたのはアンだ。アリアを通すまいと、ペルと組んで隙なく身構えている。好敵手とみたアリアはにんまりと笑った。


 シュバババッ! ザザザザザッ! カカカカカッ!


 宙を飛びかい、短剣を交え、手裏剣を避ける。

「あははははっ! 楽しいね!」

「そんな余裕はっ! 僕達にはありませんっ!!」

「ないのです!!」


 楽しんでいるのはアリアだけだった。



 苦戦するアンとペルに対して、忍者隊の方は順調だ。


「ニギャッ!?」

 ブチ猫が地面に隠されていた網に捕らわれて、木に宙吊りにされた。


『くそっ! ブチが捕まった』

『ミケもだ!』

『あいつ等、あちこちに罠を仕掛けてやがる!』

『落ち着け! 気をつけて動けば…ちっ!?』

 ミミオレはその場から飛びすさると、地面にカカカッ!と手裏剣が刺さる。下手に動けば罠にかかり、動かなければ手裏剣の餌食。猫達を囲む包囲網は、徐々に狭められていた。




(やり過ぎてないだろうか…)


 稜真が心配しているのは、言うまでもなく忍者隊の方である。


「リョウマ、行くぞ」

「はい、ボス」




「突破~!」

「「させません!」」

 アリア対アンとペルは別次元の戦いを続けていた。戦いを続けつつ徐々に戦場が移動している事に、アンとペルは気づいていない。


「ペル隊長! 猫共9匹、全員捕獲しました!」

「ご苦労。アリア様、陽動作戦は失敗ですね?」

 体力の限界が近いペルとアンだが、忍者隊の前で情けない姿は見せられないと踏ん張っている。


「失敗だと思う?」

 んふふ、と笑うアリアに、忍者隊10名は顔を見合わせる。


「ですが…」

「侵入した侵入した猫はもういません…多分…」

「いないよな?」

「気配を感じたのは全部捕らえた…それは間違いないぞ」

「待て。先生は侵入側と守護側を同数にしたと言っていた。猫は9匹、我らは12人だ」

「アリア様を入れても侵入側は10…まさか!?」


 捕まえた猫を抱え、忍者達はゴールへ走った。先頭を駆けるのはアンとペルで、アリアはスキップしながら併走している。


 あっという間にゴール地点に着いたアンとペルは待ち受けていた人間を見て、力尽きて膝をついた。ピルピルとふわふわな耳をふるわせているアンに悶えつつ、アリアは言った。


「最初に、私は陽動担当って言ったでしょ?」

 続いて到着した忍者隊も頭を抱えたり、膝をついたりしている。


 ゴール地点は建築中の屋敷が見える庭だ。


 そこにはフォーテスキュー侯爵家と同じガゼボがあり、これまた同じ薔薇園があった。──クラウディアの実家と同じ物を作って欲しい、これは他に要望を出さなかった父の唯一の願いだった。建築中の屋敷に対して薔薇園とガゼボが美しく仕上がっているのは、精霊達のやらかしの成果である。


 そのガゼボに3人の男がいた。

 中の1人、忍者隊を指導したギジェルが立ち上がって忍者隊を見下ろした。


「──未熟者」のひと言に多大なダメージを受けた忍者隊は、しばらく立ち直れなかった。




 ギジェルは、侵入側と守護側を同数にした。自分は審判なので数に含まない。


 守備側はアンとペルを含めた忍者隊12名。

 侵入者側は猫9匹にアリア。残りの2名は──。


「言わなくて悪かったね」と稜真は謝り、マダラはふんっと鼻を鳴らした。


 今朝稜真は、アンとペルに「予定があるんだ」とだけ言って先に出た。嘘はついていない。その予定が先日受け取ったマダラからの手紙に書かれていた「ギジェルをリョウマに紹介したい」であり、紹介の場がゴール地点だっただけだ。


 一応スタートと共に侵入し、忍者隊の目をかいくぐってゴールしているが、それを言えば更なるダメージを与えてしまう。

 気をつかった稜真に対して、ギジェルは容赦なかった。


 忍者隊が駄目だった点を上げ連ね、追い打ちをかけまくったのである。




…新学期…は次の次かな…?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ