742.振り返りとやり残し
何事もなく?ドラゴニアを出た稜真達は、1度伯爵邸に戻ってから湖の家へ移動した。
「まさに怒濤の日々だったよね~!」
「……この間も同じセリフを言っただろうに」
「そうだけど! こうして仲間だけでゆっくりしてると、特にそう思えるんだもん!」
「まぁな」
湖の家が落ち着くのは、土足厳禁でくつろげるからでもある。
稜真はきさらにもたれて足を伸ばして座り、チプレを足に乗せていた。──本当は膝枕がベストなのだろうが、それはアリアだけの特権となっている。チプレの頭は稜真の膝辺りにある。固くて痛いだろうから、さちが平べったく広がってクッションになっている。
そしてアリアは稜真の膝枕を堪能していた。
「お父さん。チプね。お父さんのお話聞きたい!」
そんなおねだりをするチプレに、伯爵邸での話をしてやっていたのだが、いつしかチプレは眠ってしまった。足の上で眠ってしまったので起こすのも忍びなく、ついでにアリアも動こうとしない。いや、動かないどころか、頭をグリグリ動かしている
「頭を動かすな…」
「寝心地のいい場所を探してるの~」
「膝から降りて枕を使えば良いだろうに…」
「却下しま~す」
稜真の顔を見上げて、アリアは思い出し笑いをした。
「うぷぷ。エドウィン様、すっごく似合ってたよね~」
「あれなぁ」
それはエドウィンがやって来てすぐの話。
基本的に稜真は屋敷では執事服を着ているのだが、その姿を見てビリーとステファノが笑ったのだ。
「リョウマが出来る男に見えるぜ!」
「そーいう服着てると、リョウマも年齢相応に見え…。悪い。やっぱ見えないや!」
「「ぶわっははは!」」
稜真が爆笑する2名に拳骨を入れれば、他の面々はそそくさと顔をそらした。同じ感想を持ったのか?と稜真は憮然としたが、1人だけ稜真を凝視している。
それに気づいたアリアがぽん、と手を叩いて部屋を出たかと思うと執事服を手に戻って来た。
「どうぞ!」と言ってそれをエドウィンに差し出した。
「何の真似ですか、お嬢様」
「稜真とお揃いが着たいのかと思って!」
「違うだろ!?」と稜真は突っ込んだが、エドウィンは嬉しそうにそれを受け取ってそそくさと着替えるではないか。
王子らしさが家出しているエドウィンの執事姿は悪くなかった。──というか、違和感なく似合っていた。
それを見たサディアスはため息をついて、アリアに予備を頼み、アリアは嬉々として予備を運んで来たのである。
──結果として。サディアスとディアン、巻き込まれたルディが執事姿になった。エドウィンに続いて着替えた訳は、王子だけに使用人の服を着せる訳にはいかないから、だそうな。
先輩2人と護衛2名は、堅苦しいのは無理!と断って、初々しい4人の執事をながめている。
伯爵家には、標準サイズの執事服とメイド服が常備してある。金銭的に危うかったメルヴィル領伯爵家なのに、何故数をそろえてあったのかと言えば、使用人の数が少ないからだ。ギリギリ屋敷を回せる人数しかいないので、いざという時には困ってしまう。
そんな時には、ギルドに依頼を出して頭数をそろえている。
多少予算に余裕が出たので、古びた物は整理したばかりだった。お陰で王子と高位貴族にお古を着せなくてすんだのは幸いであった。
「稜真の予備じゃ小さいもんね〜」
「やかましい!!」
結局彼等が執事服を着たのはその時だけだった。伯爵家の人々の胃が持たないからだ。
「──あの時の執事服。お土産にするんだって持って帰ったけど、どうするんだろ?」
「は? 持って帰った?」
「うん。稜真とお揃いだからって大切そうにしてるから、返してもらうのは忍びなくって」
「4人全員?」
「全員」
ちなみにフレアも使用したメイド服を貰っている。平民のルディはさておいて、残りの3人はいいのだろうか。
「城で着たらどうなると……どうなるんだ?」
「分かんない」
あのご両親なら、笑って許しそうな気がする、と稜真は思う。
(みんな稜真とお揃いが嬉しそうだったっけ。特にエドウィン様。うふふふっ。エドウィン様ならメイド服も似合いそう。きっと、可愛いメイドさんじゃなくて、凛々しいメイドさんになるね。例のメイド服を着た稜真と並んだら絵になるだろうなぁ…。あ~!! 見てみたい!!)
膝の上でニマニマしているアリアに、稜真は眉をひそめた。
「………お嬢様。おかしな妄想をなさっていませんか? 執事服からのメイド服…とか」
ギリリ、と稜真の指が頭に食い込む。
「どうしてバレたの!?」
「やっぱりか」
「いたたたっ!?」
痛みから逃げようとしたアリアの頭が、ゴン!とチプレの頭とぶつかる。
「……いた…い? 痛い! うわーん、痛いよお父さん!!」
痛みで起こされたチプレが大泣きし、稜真とアリアはなだめるのに大忙しとなったのである。
その夜。
「私がいない時にそんな事が…」
「おほほほほ〜」
「笑い事ではありませんわ!」
マーシャが眠ってから宿から抜け出して来た瑠璃が、チプレをいじめるなんて!とプリプリしている。
「反省してます。そんな事はさておいて! やって来ましたお楽しみタ〜イム!!」
「はぁ……」
稜真は重苦しいため息をついた。
瑠璃がわざわざ、隙を見て湖の家に戻った訳。それは稜真の変身を見る為であった。
「猫は見ているんだから、わざわざ狼にならなくてもいいと思うんだが…」
「猫と狼じゃ大違いだもん! やっぱりこの目で見ておかないと!!」
「アリアに同意しますわ!」
こういう時、2人の息はぴったりとなる。
「まずは猫からね!」
「狼だけじゃないのか?」
「きさらにも見せてあげないと!」
「…分かった」
そのひと言で、稜真は灰色の猫に姿を変えた。青みがかったその毛色は、マダラが月色と言うのも頷ける色味だ。
「そらみたいな変身シーンはないんだねぇ
「あってたまるか…」
稜真はニャフゥ…とため息をついた。
初めて猫に変身した稜真を見たきさらが、目をまんまるにしている。
『主が小さくなった!』
初めての感想がそれか!?と思ったが、きさららしいとも思う。変身は普通に受け入れている。
次に稜真は狼へと姿を変えた。
「わぁ! 猫と違ってモッフモフだ〜」
早速アリアは稜真に抱きついた。
「グルルゥ!」
「あれ? もしかして稜真、話せないの?」
「猫の時は話せるけれど、狼の時は話せないそうです」と、瑠璃が通訳した。
「ほえ〜。キャラクターへの変身だからって、そんな縛りがあるなんて、びっくり」
「ウォン(俺も最初は驚いたよ)」
アリアは稜真から離れて、しげしげと観察した。
「こっちの魔狼と比べると小さいね。そっか! 稜真が反映されてるからか!」
「ガウッ!?(それは俺が小さいと言いたいのか!?)」
「冗談で~す。向こうの世界の狼と魔狼の差だと思うよ。獣人が変身した狼はどうなのかな?」
「ワフゥ…(比べる機会がない事を願うよ…)」
「他にも差があるの?」
「ウォン? グルルゥ、ワウ(ボスから貰ったイヤーカフのお陰でセットしてある服が着れるが、最初は脱げたな)」
「ああ! 天翔君はヌードシーン多かったもんね! ……と言うことは、今の稜真は全裸って事!?」
アリアは真っ赤になって飛び退いた。
「ガウッ!?(全裸言うな!?)」
「気を取り直して検証しよ~!」とアリアがはしゃいでいるが、稜真ができる検証はしてある。夜も遅いし、変身のお披露目ならこれで充分だと言ったのだが、アリア&瑠璃と従魔達は聞き入れてくれなかった。
結局稜真は、呪力解放からの狐耳と九尾の獣人姿。からの九尾の狐、普通の狐への変身等々を披露させられたのである。解放された呪力が帯状になって全身を覆い隠し、体の線があらわになる変身シーンは、全員釘付けだった。
疲れ果てた稜真は、今後はこっそり検証するのは止めようと心に誓った。
(うっふふふ~。色味はキャラ設定のままだけど、変身した猫も狼も狐もどことなく稜真似な所がいいよね~。腕が鎌になるかまいたち君にもなれたのはびっくりした……あれ? 前にかまいたち君の夢を見たような…まいっか! あ~、楽しかった!!)
ぐったりする稜真に対し、良い夏期休暇だった!と歓喜し生き生きしているアリアであった。
翌日には王都へ向けて出発しようと考えていたのに、シプレとセイレンが稜真の帰宅を精霊&ドラゴンに伝えて回ったせいで、早朝から湖の家に勢揃いされてしまった。
そして変身の再現をさせられたのである。
「今後何か起こった場合、お主の力を知っておるのとおらぬのでは、対処法も変わるのじゃぞ?」と、ソルに真顔で言われれば、それ以上拒否できなかった。
それぞれが秘蔵の酒を持ち込んでいるのは、宴と勘違いしているのか。これでは出立が遅れてしまう…。
これまでにも増して、ひどい裏技移動となる予感に脱力する稜真であった。
閑話にしようと思っていたのですが、検証を忘れていたので変更しました(^_^;)




