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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第27章 2年生の夏期休暇

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738.なつやすみのしゅくだい 6

「稜真ったら、小説自体を載せるな!とは言わないんだもんね~」

 アリアがおかしそうに笑う。

「だってなぁ」

 馬鹿ップルのラブストーリーなんて心底どうでも良いと思うのに、小説は思わず一気読みしてしまった程面白かったのだ。

 もし共同研究のテーマにそぐわなければ載せるなと言えたが、それは単なるラブストーリーではなかった。


 妖精種の蜜蜂は、女王となる者が夫を見つける為、年に一度次代の男女が集まる。要するにお見合いである。

 1度でパートナーが見つかる者もいれば、何年参加しても見つからない者もいる。余りに見つからなければ、新たな群れを作る事も出来ず、元の群れからも追い出されてしまう。

 その為、地域を変えて集まりに参加する者もいるそうだ。


 ヒロインのミルティアの日常から始まる小説は、お見合いへの旅、ヤンとの出会い、女王教育、そして自分の巣を作る場所への旅と、短編小説ながらも盛りだくさんだ。

 共同研究の内容を踏まえて読めば理解が深まると分かっていて、載せるなとは言えなかった。それでもあの部分は削除して欲しかったのに、クライマックスを削るのは賛成できないと反対された。

 ルディだけは稜真の味方をしてくれたものの、他の面々の圧に負けてしまったのである。


(解せない…)


 不満顔なのは稜真だけで、共同研究の出来映えを称え合っている。


 ちなみにもっと解せない存在が、寝椅子で優雅にくつろいでいた。シュリである。

 課題用に当てられた部屋に寝椅子を持ち込むのは反対したのだが、王都伯爵邸の土地を譲ってくれたシュリには、稜真は文句を言いづらい。


 文句を言ったのはアリアだった。


「シュリったら。いい年して、若い人間を毒牙にかけるつもりなのかしら?」

 シュリはじろりとアリアを見て、あほうと言い不敵に笑った。


「お嬢よ。お主は出会った頃に比べたら、美しくなったのう」

 ぶるっとアリアは身震いした。

「シュリが私を褒めるなんて、天変地異が起こったらどうしてくれるの!?」

「お主と比べて、リョウマは出会った頃から全く変わらんではないか」


「全くではないですけど!? 身長も伸びてます!!」


「お嬢がリョウマの見た目を追い越す日も近いのじゃ」

「なんてこと言うのっ!?」


 稜真の突っ込みはどちらにも放置され、言い争いは続いたが、アリアはシュリに口ではかなわなかったのである。

 正体不明のシュリについて誰も質問しないのを稜真は不思議に思っていたが、ディアンの誘導でシュリは、お忍びで滞在している他国の高位貴族だと思われているのだ。だから下手に追求してはならない存在であるという認識になっていた。


 結局、慣れるまで時間はかかったものの、今では全員が置物だと思うようになっている。



 さて。

 元凶の馬鹿ップルは、窓辺に腰掛けてイチャイチャ──しているのかと思ったら違った。


「…おや? 南東から侵入された…か」

「担当の子、気づくのが遅かったわ」

「僕が出る?」

「いいえ。あの子達の訓練だもの。一緒に見守っていましょう」

「そうだね。ああ。心強い味方も参戦してくれるみたいだ」

「私達の愛に賛同してくれた方々ですもの。きっときっと侵入者を撃退してくれるでしょう!」


 何をやっているんだ?と稜真は窓から南東側を見る。


 そこには、蜜蜂が雲霞のごとく集まって何かを襲っている。何か──ティアラにまたがったミッキーだ。


「彼が侵入者なのか?」

「侵入者撃退訓練なの。いい加減に警戒を解いて欲しいって彼が言うから、訓練に協力してくれたらゆるめてあげると約束したのよ」

 稜真のつぶやきにミルティアが答えた。


 ミッキーを阻めたら防衛成功で、屋敷に到着したらミッキーの勝ちだそうな。

 あくまでも警戒をゆるめるだけだ。信用は出来ないから、情報を与えるつもりもないと言う。


「防衛側は蜜蜂だけじゃないんだ~」

「伯爵邸の防衛訓練だもの」


 忍者コボルトやブラン、スタンリーの姿もある。


(師匠まで…何をやってるんだか…)


 最初の侵入は気配を殺していたミッキー&ティアラ。見つかったと同時にティアラは大きくなって、ミッキーが背中にまたがる。

 蜜蜂の槍をかわし、飛んでくる手裏剣を触手で弾くティアラ。ミッキーも乗っているだけではなく、忍刀で斬りかかってくる忍者コボルトを剣で対処していた。スタンリーは小石を投げて、ティアラの動きを牽制している。


 忍びグッズをここに持ち込んだのはエリファレットだろうか。それとも、アンとペルから仕様を聞いて、こちらで発注したのだろうか。頭痛を覚えた稜真はこめかみを押さえながら窓から飛び降りて参戦しようとしたアリアの首根っこをつかんだ。ぐえっ、とおかしな声が聞こえたが無視だ。


『あるじ! そらもいっていい?』

 そらだけではなく、ももとさちも行きたそうにぷるんぷるんしている。外ではきさらが、稜真の許可を待ってうずうずしている。稜真とアリアが共同研究でいそがしくしている間、お利口にしていたのだから、運動したくなるのも分かる。


「行っておいで」

『わーい!!』

 そら、もも、さちは窓から出て参戦した。きさらがうれしそうに「クォルルル!」と叫ぶ。好戦的ではないちょこは、稜真を独り占めできると気づいて飛びついて来たので抱っこしてやる。


「ひぇええっ!? 多勢に無勢すぎでしょぉ!!」

 悲鳴を上げるミッキーに対して、華麗な動きのティアラはまだ余裕がありそうだ。


「「すっげぇ!」」

「あれを避けるのか…。さすがは変態」

「うむ」

「あれ、変態だけど腕利きの一員なんだよねぇ」

「認めたくはありませんが」

 全員で攻防を眺めている中、エドウィンだけはリリンが観戦をゆるしてくれず、窓に背中を向けて座っていた。


 同じ猫の魔獣であるティアラとリリンはウマが合わないのだ。ティアラはリリンを、未熟者の子供と下に見ているせいである。そのティアラときさらの活躍をエドウィンが見るのは嫌だった。

 リリンはエドウィンが動かないように、膝の上にのしかかっている。


 つい窓から飛び出しそうとしたアリアは、いくら規格外が知られ始めているクラスメイトの前だからって気を緩めすぎだったと反省した。

 あきらめたと分かり、稜真はアリアから手を離した。


「稜真って、エドウィン様に甘いよね~。子守歌歌っちゃうんだもん」

「弟みたいに思えてな…」

 ねだってきたのがディアンだったら、歌ったかは疑問だ。

「弟役のお仕事いくつもあったもんね~」

 アリアが言っているのは『稜真が弟役』ではなく、『エドウィンの声を担当した声優が稜真役の弟役』という意味だ。

「ツンデレな弟君が、お兄ちゃんにだけは甘える作品が好きだったな~。まさにあんな感じだったもん」

「まぁ…確かに」


「くふふふふ…。あざと可愛い弟君に振り回されるクール系のお兄様。懐かしいな〜」

 言うまでもなく、BL小説が原作のBLアニメである。歌った日の妄想についてはお仕置き済みだが、改めて妄想しそうなアリアに追加お仕置きをすべきか稜真は悩む。


「弟君が熱を出して、お兄ちゃんが看病するシーンもあったっけ。枕元でおかゆをあ~んしてあげるお兄ちゃん。弟君はムスッとするくせに、口元にスプーンを差し出されると素直に口を開けて」


 2人は小声で会話していたのだが、アリアの声がちょっと大きくなりすぎた。


「何のお話?」とディアンが聞いた。


「ええ!? あ、っとその…ね。熱を出した時のエドウィン様が可愛かったねって話してたの!」

「ぷふっ」

「ふふ。病気の時のエディが素直で可愛いのは認めますよ」

 幼なじみ2人も受け入れて笑った。


「なっ!?」と、エドウィンが顔を赤くした。


「か、か、か、可愛いのはお前だーっ!」とエドウィンは稜真を指さした。アリアはディアンと一緒に、そそくさと部屋の隅に移動する。

「可愛いと言ったのはディアンとサディアス様でしょう!? どうして俺が可愛いになるんです!!」

「みんなが言ってる!」

「みんなって誰です!?」


 シュリと、そのお世話をしているコボルトメイド以外の人間が、稜真と目を合わせないように視線をそらした。


 そして、稜真対エドウィンのどっちが可愛いか対決が始まってしまったのである。



(ふふふふっ。ほんに、ここに来て正解じゃったわ)


 毎日が楽しくてならないシュリは、ニヤニヤ笑ってどっちが可愛いか対決を眺めるのだった。




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