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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第3章 再会

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62.お屋敷の一夜

 ドラゴンと別れた後、試したい事があった稜真は、屋敷へ戻る前に洞窟の外へ向かった。ドラゴンが配慮してくれたのか、洞窟の明かりは灯ったままである。

 洞窟の外は、すでに真っ暗になっていた。


『ライト』


 1つだけ出した明かりを自らの前に浮かべ、歩き出す。明かりはふわふわと稜真の前を進む。少し歩くとブレスの通り道にぶつかり、その余波で枯れかけた木を見つけた。

 木は見上げる程の高さがあるが、葉は全て落ち、幹には焼け焦げた跡がある。

 稜真は幹にそっと触れると、思いつきを試した。


 ──その結果。


「あ…ははっ…。まさかこんなに上手く行くとは思わなかったな。…はぁ、明日は早起きするか」




 稜真が屋敷へ戻ると、アリアが表に立っていた。どうやら少し時間をかけすぎたようだ。

「どこに行ってたの?」

「ちょっと…ね」

 いつから待っていたのか、濡れた髪が冷たくなっている。


「執事さんがあいつに会いに行ったって、教えてくれたけど…」

「主さんにね。瑠璃達を呼ぶ許可を貰って来たんだ。アリア。髪が濡れたままだと、風邪引くだろ?」

 心配をかけ、待たせた事を申し訳なく思いながら、稜真は生活魔法でアリアの髪を乾かした。

「…ありがと」


「それじゃ、アリア。瑠璃とそらを呼ぶね」

「う、うん…」

 アリアは引きつった顔をしている。その頭をくしゃりと撫で、稜真は瑠璃に呼びかけた。

『瑠璃、待たせたね。そらとこっちにおいで』


 稜真からの連絡を待ちわびていたのだろう。あっという間に、そらを肩に乗せた瑠璃が現れた。

あるじ!! 大丈夫でしたか? 倒れたりしませんでしたか!?」

「クルルッ!」

 1人と1羽に、ものすごい勢いで詰め寄られた。

「倒れてないよ。大丈夫」


 安心して、ほっと息をついた瑠璃に、アリアがおずおずと話しかけた。

「…あの、瑠璃もそらも…ごめんね。私、1人で突っ走っちゃって…」

「アリアには、言いたい事がたくさんありますの。とりあえず、そこで目をつむって、じっとしていて下さい。……そら」

 瑠璃はそらを手招きすると、こそこそと話をしている。


「えっと…。何されるのかな? ものすごく怖いんだけどな…」

 アリアは以前、丸洗いされた記憶が蘇って落ち着かない。自分が悪かったのだから、何をされるにせよ、甘んじて受けようと思ってはいるのだが、不安でならない。


「行きますわよ、アリア」

 瑠璃がにっこりと笑う。


 瑠璃とそらが何をするつもりなのか見当がつかないので、稜真は静観する事にした。

 そらが瑠璃の合図で飛び立った。そして、一直線にアリアのみぞおちに突っ込んで行ったのである。


「うぐっ!?」

 アリアはそらの勢いで尻餅をついた。みぞおちの痛みに声も出ない。


(……そう言う事…ね)

 稜真は苦笑した。


「そら、おいで。あそこは痛い場所だから、駄目だって言っただろう?」

 いつもは素直に頷くそらが「クゥッ!」と鳴くと、そっぽを向いた。

「主、だからですわ。私達からアリアへのお仕置きなのですもの。──いいですか、アリア」


 座り込んでいるアリアの前で、瑠璃は仁王立ちになった。そらも瑠璃の隣に立ち、アリアに対して体をふくらませ、威嚇して見せる。アリアはみぞおちの痛みをこらえて正座をした。

「はい」


「私とそらの気持ちが分かりますか? 私は主の危機が分かるのに、お側に行く事も出来ず、看病する事も出来ませんでしたわ。そらは何も出来ずに、苦しんでいる主を見ている事しか出来なかったのです。アリアは主に手を貸して、助けになれたではありませんか!」

 瑠璃には、稜真に危険が迫るのが伝わった。命に関わる怪我をしたのも分かった。それなのに、行った事のない場所には、1人で転移出来ないのだ。


「主にやっと呼んで頂けたと思ったら、1人でアリアを追うと言われたのですよ!」

「クルルゥ!」

「そらも主について行けず、留守番させられたと言っていますわ」


 稜真はアリアの隣で正座をし、2人で一緒に頭を下げた。

「「すみませんでした」」

「あら? 私はアリアに言いましたのよ?」

「クゥ?」


「いや、だってね。俺も悪かったからさ」

 瑠璃は稜真の手を取って、立ち上がらせた。アリアは正座のままだ。


「アリア、あなたは私達の中で1番お姉さんなのです。姉がそれでは、この先困りますわ。主を心配したのはアリアだけじゃないって事、しっかり覚えておいて下さいませ。今のは、私もそらも謝りませんからね!」

 そらと一緒になって、そっぽを向く姿が可愛らしい。


 瑠璃に叱られたアリアは、お姉さんと呼ばれ、思わずにんまりしてしまった。

「何をにやけているのですか! 私達は怒っているのですよ!?」

「クルルッ!!」

「ねぇ瑠璃…。私、お姉さん?」

「2番目が私で、1番下がそらですわ」

「クルルゥ」

「お姉さん…。うふふ」

 痛いし、嬉しいしで、アリアは泣き笑いしている。


「ありがとう。もう絶対に1人で突っ走ったりしない。約束する。もし何か起こった時は、必ず誰かに相談するわ」

「約束ですよ? 絶対ですよ? 嘘ついたら、丸洗いの刑ですからね?」

「クルルッ!」

「そらは、もっと高く飛んでから、突っ込んでやる! と言ってますわ」

「うん、うん。約束する。嘘ついたら、丸洗いでみぞおちね」


 ──許されたアリアを含めた全員が揃って屋敷へ入り、コボルトが用意してくれた夕食を堪能したのだった。




 夕食後、一行は屋敷の2階を見て回っていた。コボルトの執事がついて来てくれている。休む部屋を決める為であった。

「どこでも好きなお部屋をお使い下さい」

 どの部屋も手入れが行き届いており、執事は自慢げに尾を振っている。


 適当に隣り合った部屋を2つ借り、稜真とそら、アリアと瑠璃で使おう。稜真はそのつもりだったのだが、瑠璃が稜真と離れるのを断固として拒否した。

 そらは、いつもの肩ではなく頭に乗り、羽を広げ足と嘴を使ってしがみついている。髪の毛が引っ張られて地味に痛い。

 瑠璃は稜真の背中に張り付いている。


「そら、痛いって…」

「主からは絶対に離れませんわ!」

「クルル!」

「2人が離れないのなら、私も離れないもん!」

「いや…困るよ…」

 アリアは稜真の腕にしがみついている。


「アリアと宿の部屋は別にすると、旦那様とお約束したんだよ」

「ここは宿屋じゃないから、セーフだもの!」

「そんな屁理屈を…」

「主。アリアだけ別の部屋は、可哀想そうですわ」

「瑠璃と一緒も駄目だって…」

「嫌です。私は絶対にお側を離れません!」


「お願い…。今離れたら私、眠れないと思うの…。昨日の稜真の姿が…だから……」

 アリアは稜真を潤んだ目で見上げる。そんな風に言われてしまうと、稜真も強く言えなくなる。

「それは……」

 瑠璃とそらが離れたがらないのも、同じ気持ちだからだろう。


 困ったように首を傾げて見守っていた執事が、何やら思いついたかのように晴れやかな顔で言った。

「お客様。良いお部屋がございますから、こちらへどうぞ」

 そう言われて案内されたのは、この屋敷の主寝室だった。キングサイズのベッドが存在感を主張している。


 ちなみに、瑠璃とそらは、移動中も稜真に乗ったままであった。とは言うものの、瑠璃は体重をかけないように宙に浮いて背中に掴まっていたし、そらは軽いのだ。稜真に負担はかかっていない。


「確かに良い部屋ですが…」

「こちらならば、皆様でお泊まり頂けます!」

 自信たっぷりの執事である。尻尾をぶんぶん振っている姿は、なんとも可愛い。だが稜真にとってはありがたくない。


「執事さん、気が利くのね。これなら全員で眠れるね!」と、アリアは嬉しそうだ。


「いやいや。部屋が一緒になるのはやむを得ないとしても、同じベッドは不味いよ……」

 同じ部屋になるのは仕方ないと諦めた。だが、同じベッドは不味すぎる。ベッドがいくつかある部屋を尋ねようとしたのだが、執事は既に立ち去った後である。


「主は真ん中ですわ。アリアと私で両脇をガードしますわね」

「……ガード? なんの必要が…」


「そら。このクッション、大きくてふかふかだよ。これを稜真の枕の上の方に置いて…っと。いいよ、乗ってみて!」

「クルゥ」

「アリア。そらはちょうど良いと言っていますわ」

「良かった。これで皆、一緒のベッドで眠れるね!」

「……だから、同じベッドは…」


 アリアと瑠璃はベッドに乗って、3人分の枕の位置を調整している。そらも参加し、和気あいあいと楽しそうだ。

「……誰も…俺の言う事は、聞いてくれないんだ…ね」


 稜真としては、同じベッドだけは回避したい。部屋にあった大きな長椅子に腰かけた。この大きさなら、稜真1人、ゆったりと横になれるだろう。


「俺は、ここで寝──」

「駄目!」

「駄目ですわ!」

「クウッ!」


(……ちゃんと聞こえているじゃないか)


 瑠璃がアリアに耳打ちしている。頷いたアリアが稜真の隣に座り、手を握った。


「あのね。稜真がお父様との約束を、大切に考えているのは分かるの。だけど私達、どうしても稜真から離れたくないの。お願い…」

 そう言って稜真を見上げるのだ。瑠璃も反対側に座り、潤んだ目で見上げて来る。

「主ぃ…」

 そらは稜真の膝に乗り、やはり稜真を見上げている。

「クルルゥ…」


 3対の潤んだ目に見つめられた稜真が勝てる訳もなく。

「……今回…だけ…だからね…」


「やったね!」

「作戦成功ですわ」

「クゥ」

「主は押しに弱いと、女神様が仰った通りでしたわ」

「このままじゃ心配だよね。私達で目を光らせておかないと!」

「クルル!」

「…ははっ。…女神さんの入れ知恵か…。もっと突っ込んでおくべきだったよ…」


 とは言え、皆に心配をかけてしまったのは、事実であったから、稜真は真顔になった。

「改めて、皆にお礼を言わせて。そら」

「クルル」

「助けを呼んでくれてありがとう。サージェイの案内もね。助かったよ」


「瑠璃」

「はい」

「瑠璃が回復してくれたから、アリアを止めに行くのに間に合ったんだ。ありがとう」


「アリア」

「…はい」

「手当てしてくれて、ありがとう」

 アリアは複雑そうな顔でうつむいた。


「もう1人、お礼を言わなくちゃいけない奴がいるなぁ」

「もう1人?」

 アリアが聞き返した。

「ピーターだよ。目潰しのお陰で時間が稼げたんだ。あれが無かったら、サージェイと逃げる事も出来なかった」

「うう…あの回復薬が無かったら、稜真助からなかったと思う…。1番の功労者って、ピーターさんなのかも……。なんか悔しい…」


「回復薬も使ったのか」

 その上で巫女を呼んだとは。自分の怪我は、そこまで危なかったのだと実感した。

「アリアがあの金額でも買うと決めたんだ。だからオマケも付けて貰えた。看病もしてくれたんでしょ?」


(そ、そう言えば私、稜真の体を何回も拭いたんだっけ! 下はアーロンさんが拭いてくれたけど、素肌に触れたんだよね! ああっ!? 稜真の胸に顔を埋めるとか、心臓の鼓動を聞くとか、なんて大胆な事を!! あの時はそれどころじゃなかったけど、今思い出すと~~~~!!)


「アリア、どうしてそんなに真っ赤になっているのですか? ……主に何かしましたの?」

「な、な、何もしてないよ~。か、看病しただけだもん!」

「怪しいです…。まさか、主に不埒ふらちな真似をしたのではないでしょうね?」

「不埒って何!? し、してないもん!」

 明らかに挙動不審なアリアの様子に、稜真は苦笑する。


(アリアが何を考えたか、大体の想像はつくな。傷の手当をしてくれたのは、アーロンさんとアリアだろうね。着替えは誰がしてくれたのか知らないけど、アリアはずっと付き添ってくれていたんだよね)


 部屋には魔石が使われたランプが、いくつか壁に取り付けられている。稜真は1つだけを残して明かりを消し、ベッドの中央に横になった。

「はいはい。明日は早く起きたいから、もう寝ようね」

 頭の上にそら、右側に瑠璃、左側にアリアが横になる。


「お休み。あ、そうそうアリア」

 稜真が体勢を変えてアリアと視線を合わせる。

「な、何?」

「……襲わないでね?」と、怯えた風に声を震わせて言ってやった。


「稜真ぁ!? お、襲わないもの!」

「あはははは、お休み」

「主の笑い声って、大好きですわ。お休みなさい」

「クルルゥ」

「う~! お休みなさい」




 疲れ切っていた稜真は、もう寝息をたてている。


(無理させちゃった…。動く前に考えるって約束してたのに。…ごめんなさい。稜真の顔色…悪いな……)

 アリアはそっと稜真の髪に触れた。


「……アリア、主を襲っちゃ駄目です…」

「…クゥ」

「だから…襲ってないってば……」




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