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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第10章 石窯と念話

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209.報告と採寸と

「本っ当に懲りないよね、アリアは」

「うう~。いい加減、私の妄想については、諦めてくれないかなぁ…」

 頭をさすりながらアリアが言う。

「諦めたら妄想しっぱなしになるだろう。突然にやけた表情をしだすなんて、怪しすぎるよね。今の内に少しでも矯正しておかないと、人前に出せなくなりそうだ」

「………」

 アリアは無言で目をそらした。


「ここは否定して欲しかった」

「か、顔に出さない練習をすればいいのよね!」

「そうじゃないだろう……」


(だって、稜真がいるとつい妄想しちゃうんだもん。妄想のネタが他にあればいいのよね…。そうだ!)


「稜真! 本屋さん行こう!」

「また突然何を言い出すのやら」

 呆れた稜真だが、本屋には興味があるので付き合う事にした。イネスの絵本を探しに行った時は、余り時間がなかったのだ。




 アリアはスケア村で見るまで、この世界にロマンス小説が存在する事を知らなかった。

 本屋のない村や町では行商人が持ち込んだり、他の町に行った者が土産に購入して来るのだと、村長夫人に教えて貰った。

 他の領地と違って、識字率の高いメルヴィル領では本を購入する者も多い。豊かになって来た証なのだろう。それを知っている旅商人は、必ず何冊か持ち込む。


 これまでアリアは本屋の存在を知っていても、中に入った事はなかった。

 前世は読書好きだったが、こちらの本は歴史書や地理の本等、小難しい本ばかりだと思い込んでいたからだ。──屋敷の図書室にはそんな本ばかりで、アリアは敬遠していた。


 本屋の薄暗い店内に入ると、アリアは小説を物色し始めた。稜真はのんびりと店内を見て回る。店内が薄暗いのは、本の日焼けを防ぐためだろう。火を使わない魔道具のランプが、優しく店内を照らしている。狭い店内に天井までの高さの書棚が並ぶ。

 料理書や観光ガイドのような本まである。装丁のしっかりした本から、村で見たペーパーバックのような本まで、形式は様々だ。


 稜真は、マーシャとイネスに絵本を買う事にした。

 マーシャには登場人物に偏りのない、女の子が主役の本をあげたい。アリアが邪な思いを抱かない内容の話を探すのに、少々手間取った。


 アリアはまだ時間がかかりそうなので、稜真は店主に話かけた。


 店内に置いてある本の値段は黄銀貨5枚から銀貨5枚までだそうだ。それ以上の本になると前金で半額を支払い、王都から取り寄せている。歴史書や図版入りの本になると金額が跳ね上がり、金貨10枚以上の本もあるらしい。

 以前バインズで、図鑑を2冊金貨1枚で購入した話をしたら驚かれた。どうやら破格の値段だったようだ。購入したのは雑貨屋で、あの町で本屋は見かけなかった。メルヴィル領が豊かになって来たと言っても、本にお金を出せる人はまだ限られ、大きな町にしか本屋はないのだ。




 アリアは大量の本を購入したのに、その表情は優れない。


「欲しい本がなかったのか?」

「ううん。この本も欲しかったからいいんだけどね。BL本がなかったのよ~」

「何を探しているのかと思えば……」

「ロマンス小説があるんだから、きっとあるよね! 王都に行ったら探してみようね!」

「…1人で探して下さい」


(さすがにBL本はない…よな。ないと信じたい…な)


 ルクレーシアが創造神のこの世界。ないと言い切れないのが、また頭の痛い所である。ちなみにアリアが購入したのは、ジークフリード本、全10巻だ。


「帰ったら早速読もうっと。稜真様の声で脳内再生するんだ~」


 うきうきのアリアだったが、玄関で待ち構えていたメイド長に捕まって、引きずられて行ったのだった。






 領内の調査結果が集まり、稜真とアリアは伯爵に呼び出された。


「幸い、他の地域には追加の被害はありませんでした」

 オズワルドが言う。


「アリアヴィーテ。手助けしてくれた淵の主とは、何者だったのだ?」

「あれ? リョウマは報告していなかったのですか? ドラゴンですよ、お父様」

 伯爵は頭を抱え、オズワルドは固まっている。この反応に予想がついたので、聞かれなければ隠そうと稜真は思っていたのだ。


 ともあれ、ため息と共に感謝の言葉を頂いた。


「他に問題はなかったか?」

「特に──」ありませんと稜真が答えかけたのに、アリアが余計な事を言った。

「それが大変だったのよ、お父様。そのドラゴンが稜真に惚れ込んで、危うくお嫁さんにされそうだったのです!」


(どうしてそれを言うかなっ!?)


「惚れた? 嫁? そのドラゴンは雄なのか、雌なのか?」

「……男性…です」

 伯爵とオズワルドの生暖かい視線が、稜真に突き刺さる。

「断っても断っても、蒸し返して来るの。気が気じゃなかったのです! そうだお父様。お土産の追加です。補助金の足しになると思いますから、どうぞ!」


 アリアは真珠色の鱗を2枚取り出した。

「これは?」

「ドラゴンの鱗です。剥がれかかっていたのを、むしって来ました!」

「むしって来た、だと?」

 あちゃー、と稜真は額を押さえた。

「──リョウマ」


「その…、お嬢様がドラゴンと手合わせをした際に、鱗が何ヵ所か剥がれかかっておりまして…」

「助力してくれたドラゴンなのだろう? ──生きておるのか?」

「はい」

「手合わせですもの、お父様。その後で稜真もやりましたし」

 稜真はこっそりとアリアの足を踏んだ。

「ふえっ!?」


「リョウマもだと?」

「お嬢様にお膳立てされまして、やむを得ず」

「勝ったのか?」

「もっちろん!」

 アリアが嬉々として答えた。

「災害を防ぐ力を持つドラゴンに勝ったのか、お前達は…」

 伯爵が力なく頭を振る。


 精霊の助力についても伝えると、伯爵とオズワルドの呆れた視線に拍車がかかった。


 村でのワイバーン討伐の話やマーシャの親戚については、詳しい報告書を提出してあったが、伯爵は実際の旅の様子も聞きたがった。腰を据えて話が聞きたいと、伯爵とアリアはソファに座る。

 アリアが身振り手振りで楽しそうに話す様子を、伯爵は目を細めて楽しそうに聞いている。


「ふふ。あのように、お嬢様の報告を楽しそうに聞く旦那様は初めてです」

 オズワルドが微笑ましそうに、伯爵を見ている。

「初めて…ですか?」

「これまでお嬢様が出かけていた時の話と言えば、どこそこで魔物を倒した。あるいは盗賊を、魔獣の群れを殲滅して来た。そのような話ばかりでしたから」

「あ、はは…」

「これもリョウマのお陰ですね」

「領地が平和になって来たのは、旦那様やお嬢様の尽力のお陰でしょう」

「…君は…全く。ともあれ、お疲れ様でした」


 まだ話し込む主人達の為に、稜真はお茶の準備を始めた。





 この日マーシャは、エルシーに採寸をすると言われた。何故か稜真も呼ばれ、連れて行かれた部屋では仕立て屋が待っていた。初老の女性と見習いらしい少女だ。


「マーシャ。採寸して貰いましょうね」

「さいすん?」

「マーシャのメイド服を作るのよ」

 屋敷には大人サイズしかないのだ。


「…マーシャはともかく、俺はどうしてここにいるんです?」

「リョウマ君にも仕事着が必要でしょう?」

「え!? 稜真にもメイド服作るの!?」

 いつの間にか紛れ込んだのか、アリアが嬉しそうに言う。


 そんな訳あるか!?と、叫びたかった稜真だが、エルシーの手前飲み込んだ。


「リョウマ君にメイド服は似合いそうですけど。違いますよ、お嬢様」

「エルシーさん、ひと言余計です」

「くすっ。ごめんなさいね。マーシャとお揃いの姿を想像してしまったわ」

「リョウマおにいちゃんと、おそろい?」

 マーシャが目を輝かせる。

「…違うからね、マーシャ」


「マーシャにはメイド服。リョウマ君には執事服を仕立てるように、旦那様からのご指示ですよ」


 お屋敷では各種作業服の在庫は、ある程度揃えてある。標準サイズのイネスには、ぴったりの作業服があった。ないのは小さなメイド服と稜真サイズの執事服なのだ。

 これまで稜真は、白シャツと黒ズボンで執務の手伝いをしていた。調理の際はプラス、エプロンだ。この機会に一緒に作って貰えとの事らしい。


 仕立て屋が測り、少女がメモをする。マーシャを測り終えると、次は稜真だ。袖周りや首回りまで、きっちりと測って行く。

「成長期ですから、心持ち大きめに作りましょうか」

 男の子の成長は早いですからと言われ、エルシーと仕立て屋が相談を始めた。


(……執事服ねぇ。月の半分しか屋敷にいないのに、もったいない気がするなぁ)


 稜真は見本に置かれている執事服に触れた。メイド服も執事服も、アニメやコスプレのイメージが強い。まさか自分が着るとは思ってもみなかった。

 ふと気づくと、エルシーと仕立て屋に、アリアがこそこそとにじり寄る姿が見えた。後ろからマーシャも、同じ姿勢でついて行く。マーシャが真似をする姿は可愛らしいが、行動には問題があるので後で注意しようと思う。


「──え? それは…、はぁ。私共は構いませんが、本当によろしいのですか?」

 女性がちらりと稜真に視線を投げる。そのもの言いたげな視線に、稜真は嫌な予感がした。「どうかしましたか?」と近づくと、女性は困ったようにアリアを見た。


 アリアは「しーっ!」と指を立てた。


「あのね。リョウマおにいちゃんとおそろいなの」

 アリアの仕草に気付いていないマーシャが、嬉しそうに言った。

「お揃いって、まさか?」


「お嬢様がお小遣いから支払うから、リョウマ君のサイズでメイド服を作って、と仕立て屋さんにお願いしているのよ」

 先程からずっと笑っているエルシーが教えてくれた。

「あ~!? バラしちゃった!」

「……お嬢様?」

 稜真は冷たい視線を向ける。


「だって、絶対似合うもん!」

「似合う似合わないの問題じゃない!」

「マーシャは、おにいちゃんとおそろい、きたい」

「…勘弁してくれ…」

「あの…作ってもよろしいのですか?」

「作らないで下さい!」

「え~? 私のお小遣いだし、いいじゃない」

「似合いそうです」と、見習いの少女までが言い出した。

「ね、そう思うでしょ~」


 意気投合した少女とアリアが、手を取り合う。

 エルシーはずっと笑っていて止めてくれないし、どう収拾を付ければいいのだろうか。頭の痛い稜真だった。





 稜真は厨房の手伝いをしながら、先程の騒動を思い出していた。アリアの野望は阻止したが、お揃いになると喜んでいたマーシャの説得に時間がかかったのだ。


「どうした? 採寸して来ただけだろうに、どうしてそんなに疲れているんだ?」

 料理長が心配している。

「危うく…、メイド服を作らされる所でした…」

 稜真は力なく答えた。


「ははっ、お嬢様か。お疲れさん」

「……リョウマさんのメイド服」

「イネス…、想像しないでくれよ…」

「すみません、つい」

 そこでイネスは、じっと稜真を見つめた。

「あのリョウマさん、どうかしました?」

「何が?」

「疲れてませんか? 突っ込みにキレがないですし」

「突っ込みにキレって…。あー、いじられすぎて、ちょっと疲れたかな」


 調理場にほぼ常駐しているももが稜真の肩に乗り、ぽよんと揺れる。心配してくれたのだろう。「大丈夫だよ」と言いながら触れると、そのもちもちな手触りにホッとする。

 他の従魔達はどうしているかと言うと、きさらは馬達と一緒に放牧場で過ごしている。そらは稜真の姿が見える場所にいる事が多いが、基本は屋敷の周りで遊んでいる。




 イネスとマーシャの勉強時間になった。従魔達が大人しく授業参観をしているかどうか、稜真は様子を見にやって来たが、特に問題なさそうだ。

 稜真は勉強の邪魔にならない場所に座り、ぼうっと勉強の様子を眺めた。


「稜~真!」

「アリア。また抜け出して来たのか」

「ちゃんとノルマを終わらせて来たもんね!」

 アリアは稜真の隣に座り、顔をのぞき込んだ。

「帰ってから、なんだか落ち込んでない?」

「ちょっと…ね」


 稜真はあの日、瑠璃が楽しかったと泣いていた事を話した。夜に念話で話す日課は欠かしていないが、どこか無理をしているように感じられてならない。


「そっかぁ。──そうだ! マーシャがお休みの時に、屋敷に連れて来たらどうかな。どっちの為にもいいと思うの!」

「そう出来たらいいんだけど、1つ問題がある」

「問題?」

「料理長だよ。収穫祭の時に、瑠璃に会っているだろ?」

「そうだった~。でも、妹って言えば誤魔化せないかなぁ」

「見た目は行けそうだけど、名前を名乗ったからね」

「悩んでても仕方ないし、確認してみようよ!」


 アリアは稜真の手を引いて、厨房へ移動した。


「料理長~。収穫祭の時に毒の確認してくれた人、覚えてる?」

「覚えていますよ。綺麗な方でしたね。ルミさん…ルイさん…、それともルリさんでしたか?」

「ルミだよ! その妹がマーシャと友達で、今回の旅も一緒に行ったんだ~。今度連れて来るね!」

「おやおや、ルミさんでしたか。分かりました」


 アリアは稜真に向けて、Vサインをした。これで、瑠璃を屋敷に呼ぶ事も可能だろう。早速今夜伝えてやろうと、稜真は微笑んだ。




黄銀貨5枚で5千円。

銀貨5枚で5万円。

金貨10枚で百万円。


比較的流通しているとはいえ、本は高価です。

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