17.息抜き
翌朝、すっかり元気を取り戻したカイは、ベッドから勢いよく起き上がった。
「ふはぁ〜! すごくぐっすり眠れたっス! なんだか身体が軽いっスよ!」
「……それは重計の負荷が消えたからだ。勘違いするな」
セレーネは冷ややかに応じながらも、暖炉の火を静かに整えている。
「まあまあ魔女殿、今日くらいは休ませてあげようじゃないか。カイ少年も本当によく戦った」
エレンが楽しそうに温かいお茶をテーブルの上に並べた。
「そういえば……バルドさんたち、王家に報告するって言ってたっスよね。俺たちのこと、変に怪しまれたりしないっスかね?」
カイがカップを両手で包み込みながら尋ねる。
「心配ないよ。あの二人には『通りすがりの腕利きの旅人』としか映っていないさ。ただ……」
エレンはちらりとセレーネに視線を送った。
「王家がアビスの異変を重く受け止めているのは確実だ。……近いうち、事態を収束させた『隠れた功労者』を探す動きや、大規模な戦勝・安全祈願の貴族パーティーが開かれるかもしれないね」
「貴族のパーティーっスか……! 俺、そんな華やかな場所行ったことないっスよ!」
カイは目を丸くする。元は王家の血を引く身でありながら貧民街で育った彼にとって、パーティーなど遠い世界の話だった。
一方、セレーネは心底鬱陶しそうに眉をひそめた。
「くだらん。貴族どもの腹ぐろい宴など、関わるだけ時間の無駄だ。私は絶対に行かんぞ」
「ふふ、どうかな? 運命というものは、思いがけない形で人々を引き寄せるものだよ……?」
エレンは意味深に眼鏡のツルをクイと押し上げ、フッと優しく微笑んだ。
(……あの猪武者と怠惰な修道女、そして千年の時を生きる『不死の魔女』。彼らが次にどんな顔で再会することになるか、今から実に楽しみだね)
エレンが胸の中で妖精としての悪戯心を静かに躍らせる中、三人の束の間の穏やかな時間は、静かに流れていくのだった。




