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16.月光の守り
その夜、カイは浅い眠りの中でうなされていた。
地下水道で目撃したアビスの禍々しい黒い泥や、狂者たちの濁った瞳が頭から離れず、うなされて体を強張らせる。
(……くっ、闇が……また……)
息を荒らげるカイのベッドの傍らに、足音もなく近づく影があった。
セレーネだ。
彼女は無表情のままカイを見下ろすと、静かに右手をかざした。心を開いているわけでも、甘やかしたいわけでもない。ただ、自分の目の前で不快な悪夢に怯える存在を放置できないという、彼女自身の長い年月が刻んだ無意識の行動。
――月光の揺り籠――
セレーネの指先から、柔らかな青白い光の粒子が降り注ぎ、カイの身体を優しく包み込んだ。
途端にカイの乱れていた呼吸が穏やかになり、深く安らかな眠りへと落ちていく。
「……愚かな小僧だ。弱いくせに無茶ばかりして」
静かに毒づきながらも、セレーネはその光を消さずにカイの傍らにしばらく留まり続けた。窓から差し込む本物の月光と、彼女の放つ魔法の光が重なり合い、静寂な夜を静かに照らしていた。




