15.再開の約束
地下大水道から無事に脱出した一行を待っていたのは、夜の静寂に包まれた王都の街並みだった。
「ふはぁ〜! やっぱり地上の空気は美味いっスね!」
カイが大きく背伸びをしながら、深呼吸をする。アビスの魔力が和らいだ街には、穏やかな夜風が吹き抜けていた。
「ハッハッハ! 奇妙な一行だったが、最高の戦いだったぞ! ……しかし、そちらのお嬢さん」
バルドが大剣を担ぎ直し、セレーネのほうへと視線を向けた。
「幼い身でありながら、恐ろしいほどの氷魔法だったな。一体何者なんだ? どこかの名門魔導士家系のお嬢様か?」
「……ただの旅の者だ。詮索するな」
セレーネはフードをぐっと深く被り直し、興味なさそうに視線を逸らした。
実はバルドとビビの二人は、王家に直接仕える精鋭騎士団の隠密部隊員。今回は地上での異変を察知し、極密裏に地下大水道の調査へ派遣されていたのだ。しかし二人は、目の前の可憐な少女が、歴史書にしか登場しないあの伝説の「不死の魔女」だとは夢にも思っていない。
「まあまあ、命の恩人のプライベートを暴くもんじゃないよ、バルド。……はぁ、それにしてもお腹空いたなぁ」
ビビが自分のお腹をさすりながら、力なく呟いた。
「よし! ならば俺のおごりで、噂の酒場に繰り出すとしよう! 腹が減ってはなんとやらだ!」
「やったぁぁぁ! バルドさん太っ腹っス!」
◇
街の隅にある賑やかな酒場へとなだれ込んだ一行は、テーブル一杯に運ばれてきた温かい肉料理やパンを囲んだ。
「美味い! 激闘の後のメシは最高だな!」
「……生き返る……。このスープ、味が染みててすごくいい……」
豪快に肉を頬張るバルドと、さっきまでの脱力感が嘘のようにスープを味わうビビ。カイも一緒になって勢いよく料理を口へ運び、エレンは優雅にワイングラスを傾けている。
セレーネは少し離れた席で、小さく千切ったパンを静かに口へ運んでいた。相変わらず無表情ではあったが、賑やかな喧騒に嫌がる様子も見せず、ただ静かにその場に居合わせていた。
「……美味いか、小僧」
「はいっス! 師匠ももっと食べるっスよ! このお肉、すごく柔らかいっス!」
カイが差し出したお肉を、セレーネは「いらん」と一蹴しつつも、どこか口元を微かに緩ませていた。
◇
食事が終わり、酒場の外へ出ると、夜空には美しい満月が浮かんでいた。
「さて……楽しかったが、俺たちはこれで失礼するよ」
バルドが表情を引き締め、騎士らしい凛とした佇まいに戻った。
「今回の地下の異常事態、すぐに上の者たちへ報告せねばならん。王都の安全を守るのが俺たちの務めだからな」
「はぁ……報告書書くの絶対あたしじゃん……鬱だなぁ……」
ビビは文句を言いながらも、しっかりと杖を握り直した。二人には王家へ戻り、事態の推移を報告するという重要な任務が残っているのだ。
「バルドさん、ビビさん! 今日は本当にありがとうございましたっス!」
カイが勢いよく頭を下げると、バルドは豪快にカイの肩を叩いた。
「礼を言うのはこちらだ、カイ! お前のその鋭い『目』と度胸、見事だったぞ! お互い、王都のためにこれからも頑張ろうな!」
「うん、カイもその変なお師匠様も……元気でね。またどこかで」
ビビがひらひらと手を振り、二人は夜の闇の中へとお互いの健闘を称え合いながら走り去っていった。二人が去った夜道を見送りながら、カイは短剣の柄をぎゅっと握りしめる。
(またいつか、胸を張って再会できるように……俺ももっと強くなるっス!)
この時はまだ誰も知らなかった。
次に彼らが巡り会うのが、華やかな「王家の貴族パーティー」という予想もしない舞台であり、そこでバルドたちはセレーネの真の姿と衝撃の真実が明かされることになるのを――。




