14.汚染源(4)
閃光が収まると、脈打っていたアビスのコアは、まるで氷漬けにされたかのようにその胎動をピタリと止めた。
「や、やった……のか……?」
バルドが息を荒らげながら大剣を石畳に突き立てる。ビビもその場にへたり込み、安堵の深い息を漏らした。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……。でも、コアの表面がカチコチに固まってるね……」
「……いや、まだ完全に破壊できたわけではない」
セレーネの静かな声が空洞に響いた。彼女は視線を揺らすことなく、白く凍りついたコアの奥を見据えている。
「これはあくまで仮死状態に追い込んだに過ぎん。アビスの本質は地下の地脈そのものに根を張っている。このコアの封印が持つのも、せいぜい数ヶ月……いや、数週間というところか」
「そんな……じゃあ、根本的な解決にはなってないってことっスか!?」
カイが呆然と呟くと、背後から優雅な足取りで近づいてきたエレンが、眼鏡の枠を指で押し上げながら口を開いた。
「そう失望することはないよ、カイ少年。一時的とはいえ、王都を襲っていた『蝕心』の蔓延はこれで食い止められたんだ。時間を稼げたこと自体が大きな成果さ」
「エレンの言う通りだ」
セレーネは振り返り、淡々とした口調でカイを見つめた。
「引き揚げるぞ。これ以上の調査は、地上で体制を整えてからだ」
「……了解っス、師匠!」
カイは短剣を鞘に収め、力強くうなずいた。根本的な解決には至らなかったものの、確かに自分たちの手でひとつの危機を乗り越えたのだ。
崩落の危険が去った地下空洞をあとにし、一行は再び地上へと続く長い階段を登り始める。
「ハッハッハ! なにはともあれ大勝利だ! 街に戻ったら美味いものでも喰おうぜ!」
「あたしはもう一歩も歩きたくないから、バルドがおんぶしてよね……」
賑やかに前を行くバルドとビビの背中を追いかけながら、カイは隣を歩くセレーネの横顔をそっと盗み見た。
千年の孤独を抱え、感情を殺して戦う伝説の魔女。その冷徹な佇まいの裏にある、自分でも気づいていないほどの小さな変化を、カイは確かに感じ取っていた。
(俺がもっと強くなって……絶対に師匠を一人にさせないっス)
少年の胸に灯った決意の光は、地上を照らす月のように、静かに、けれど強く燃え上がっていた。




