13.汚染源(3)
セレーネは不機嫌そうに前髪を払うと、感情の失われた静かな眼差しで『黒崩』のコアを射抜いた。
ツンデレなどという生易しいものではない。彼女にとってカイへの配慮は、何千年も生き続ける中で培われた無意識の「習性」であり、ただ目の前にある護るべき存在へ無感情に差し出された必然的な行動に過ぎなかった。自身が彼に信頼を寄せつつあることすら、彼女の冷徹な自己認識の中には存在していない。
「バルド、ビビ。お前たちは左右の雑兵を叩け。……カイ、お前は私から5m以上離れるな」
「了解っス、師匠!」
セレーネが静かに指先をかざすと、凄まじい密度の絶対ゼロ度の冷気が空洞を満たした。感情を乗せない純粋な魔力の刃が、アビスのコアから放たれた黒い触手を容赦なく切断していく。
「ハッハッハ! 承知したぞ魔女殿! 俺様の炎の大剣(自称)の錆にしてやるわ!」
「ちょっとバルド、氷の領域に突っ込まないでよ! 巻き込まれたら凍死しちゃうからね!」
バルドとビビが息の合った連携で周囲の狂者を抑え込む中、カイは短剣を握りしめ、セレーネのすぐ斜め後ろを維持した。
カイの『目』には見えていた。セレーネの放つ魔力は冷徹そのものだが、カイが立つその領域にだけは、決して凍傷を負わせない限界ギリギリの温度調整が施されている。本人がそれを「情」と認識していなくとも、幾重にも重なる無意識の気配りがカイを守り続けていた。
「師匠! コアの右下、紫色の魔力が集中してる『脈』があるっス! そこが力の供給源っス!」
「……見えているな」
セレーネは淡々と応じると、一瞬の躊躇もなくその「脈」へ向けて鋭い氷の槍を放った。
氷槍は正確無比にアビスの脈を貫き、耳をつんざくような悲鳴とともに黒いコアが大きく揺らぐ。セレーネは顔色一つ変えず、ただ静かに、月明かりのように冷ややかな魔力を展開し続けた。
「終わりだ、愚かな蠢動め」
月光のような青白い閃光が空洞全体を包み込み、千年の闇を静かに侵食していく。




