↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/21

12.汚染源(2)

ギギギ……と重雷のような音を立てて、古代の石扉がゆっくりと開放されていく。


扉の向こうに広がっていたのは、広大な地下大空洞だった。その中心、天井からへばりつく巨大なつららのように、紫黒く脈打つ『黒崩』のコアが異様な存在感を放っている。そこから溢れ出す濃密な負の魔力が、冷たい風となって一行の肌を撫でた。


「うわ……なんだよこれ……息が、詰まりそうっス……」


カイは足元をふらつかせながら、必死に短剣を構えた。強烈な悪意の波に脳が揺れるような錯覚を覚える。


「シャキッとしな、カイ! 支援魔法を重ねておいてあげるから!」


ビビが即座に杖を掲げ、温かな聖光でカイの精神を包み込む。バルドも大剣を前に突き出し、背中でカイとビビを庇うように立ちはだかった。


「フン、どれほど禍々しかろうと、俺様の剣で断ち切れぬ闇などない!」


「威勢だけは良いね。……さて、魔女殿」


エレンが冷静に眼鏡のツルを指で押し上げ、隣のセレーネへと視線を向ける。


セレーネは深くフードを被り直したまま、無表情にアビスのコアを見つめていた。そのオッドアイには感情の揺らぎ一つ浮かんでいない。……少なくとも、表面上は。


(……足手まといだと言ったのだ、この小僧は)


セレーネは心の中で冷たく呟く。


命を救ったのも、弟子入りをうやむやに認めたのも、ただの気まぐれ。千年の孤独を生きてきた自分にとって、人間の一生など瞬きにも満たない。この者たちもすぐに亡くなる――セレーネは固くそう自分に言い聞かせていた。


だが、無意識のうちに、彼女の右手は微かな動きを見せていた。カイの前に一歩踏み出し、漏れ出る悪意の風を遮るようにその背中を庇っている。自覚すらない、無意識の信頼と庇護の仕草。


「カイ」


「は、はいっス、師匠!」


「……後ろに下がっていろとは言わん。だが、私の側から外れるな」


冷たく、淡々とした声。けれど、その瞳はカイが暗闇で倒れないよう、そっと月光の防御陣を彼の足元に展開していた。本人はただ「無駄な世話を焼いているだけ」と思っているが、その手厚さは彼女自身の冷徹な理屈とあきらかに矛盾している。


「…お前に死なれると、エレンへの言い訳が面倒なだけだ」


「あはは! 了解っス、師匠! しっかりついて行くっス!」


カイは屈託のない笑顔で頷いた。セレーネの「素直になれない温かさ」を、誰よりも理解しているかのように。


セレーネはフイと顔を背け、指先に圧倒的な密度の氷華を咲かせた。


「いくぞ。……千年の禍根、ここで少しだけ削り落としてやる」


月明かりのような静かな魔力が爆発的に膨れ上がり、最深部での決戦の火蓋が切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。