12.汚染源(2)
ギギギ……と重雷のような音を立てて、古代の石扉がゆっくりと開放されていく。
扉の向こうに広がっていたのは、広大な地下大空洞だった。その中心、天井からへばりつく巨大なつららのように、紫黒く脈打つ『黒崩』のコアが異様な存在感を放っている。そこから溢れ出す濃密な負の魔力が、冷たい風となって一行の肌を撫でた。
「うわ……なんだよこれ……息が、詰まりそうっス……」
カイは足元をふらつかせながら、必死に短剣を構えた。強烈な悪意の波に脳が揺れるような錯覚を覚える。
「シャキッとしな、カイ! 支援魔法を重ねておいてあげるから!」
ビビが即座に杖を掲げ、温かな聖光でカイの精神を包み込む。バルドも大剣を前に突き出し、背中でカイとビビを庇うように立ちはだかった。
「フン、どれほど禍々しかろうと、俺様の剣で断ち切れぬ闇などない!」
「威勢だけは良いね。……さて、魔女殿」
エレンが冷静に眼鏡のツルを指で押し上げ、隣のセレーネへと視線を向ける。
セレーネは深くフードを被り直したまま、無表情にアビスのコアを見つめていた。そのオッドアイには感情の揺らぎ一つ浮かんでいない。……少なくとも、表面上は。
(……足手まといだと言ったのだ、この小僧は)
セレーネは心の中で冷たく呟く。
命を救ったのも、弟子入りをうやむやに認めたのも、ただの気まぐれ。千年の孤独を生きてきた自分にとって、人間の一生など瞬きにも満たない。この者たちもすぐに亡くなる――セレーネは固くそう自分に言い聞かせていた。
だが、無意識のうちに、彼女の右手は微かな動きを見せていた。カイの前に一歩踏み出し、漏れ出る悪意の風を遮るようにその背中を庇っている。自覚すらない、無意識の信頼と庇護の仕草。
「カイ」
「は、はいっス、師匠!」
「……後ろに下がっていろとは言わん。だが、私の側から外れるな」
冷たく、淡々とした声。けれど、その瞳はカイが暗闇で倒れないよう、そっと月光の防御陣を彼の足元に展開していた。本人はただ「無駄な世話を焼いているだけ」と思っているが、その手厚さは彼女自身の冷徹な理屈とあきらかに矛盾している。
「…お前に死なれると、エレンへの言い訳が面倒なだけだ」
「あはは! 了解っス、師匠! しっかりついて行くっス!」
カイは屈託のない笑顔で頷いた。セレーネの「素直になれない温かさ」を、誰よりも理解しているかのように。
セレーネはフイと顔を背け、指先に圧倒的な密度の氷華を咲かせた。
「いくぞ。……千年の禍根、ここで少しだけ削り落としてやる」
月明かりのような静かな魔力が爆発的に膨れ上がり、最深部での決戦の火蓋が切って落とされた。




