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ヴィオラ王女

 また、いつもの夢を見ている。


 わたしは、戦場に立っていた。


 敵をたくさん、殺した。


 そしてわたしの後ろには、たくさんの倒れた味方。


 わたしは、足元に倒れる部下を抱き起した。


 彼は、「中尉、死にたくないです」と震える声で言った。


 わたしは、彼を励ました。


 だけど、彼は死んだ。


 顔をあげれば、たくさんの仲間が、死んでいた。


 彼らは、わたしを見つめていた。


 ここで、いつも目覚める。


 またいつもの、夢を見ていたのだ。


 朝だ。


 目覚めて、歯磨きをして、シャワーを浴びる。


 十月十三日。


 服を着て、窓を開けて、空気を吸い込んだ。


 今日も、わたしは生きている。


 ドアが、叩かれた。


「失礼いたします」


 入室してきたのはイリーナで、彼女の後ろには、化粧道具を抱えた女性が三名。


「おはようございます、アリシア様。化粧をさせて頂きます」


 イリーナは、人がいるところでは完璧な侍女だ。


 わたしが黙ってうなずくと、彼女はわたしの背後にまわった。


 これからは毎朝、こうして化粧をされる身分なわけか……。


 身構えたところで、今さら変わらないけど。


 鏡に映るわたしの顔を見て、イリーナがわたしだけに聞こえる声で言う。


「昨日はお疲れ様。宮中が、大騒ぎよ」


 イリーナの笑みと、わたしの笑みが鏡に映る。


 彼女は、他の三名にも聞こえる声で言った。


「昨日の舞踏会、がんばりましたね!」

「はい。ありがとう」


 三名の女性たちも、笑顔で労ってくれた。




 -・- アリシア -・-




 この日、隣国のガーベイン王国国王レオン陛下はご帰国となったが、ヴィオラ王女は帝都に留まることになった。


 彼女の住まいは、わたしと同じ殿下の居住館だけど、階は一階となる。


 表向きは、花嫁候補。


 実際には、帝国に預けられた人質だ。


 ガーベイン王国のレオン王は、人質であっても殿下の子をヴィオラ王女が身ごもれば良しという魂胆なのだろうか?


 お妃様は、親戚筋のご令嬢も殿下の居住館に送り込もうとしたようだけど、殿下がきっぱりと断ったと聞いた。


「ヴィオラ王女は実質、人質。その彼女と同じ時に招いたら、国内の諸侯からも人質を取るのかと、俺が悪く言われます。お許しください」


 彼の断る理由に、お妃様も承知するしかなかったとイリーナから聞いた。


「で、そのヴィオラ様がアリシアに会いたいって。どうする?」


 素の時と侍女の時の差がすごいな、この人は!


「断るのも失礼ですから、お伺いします」

「え? 向こうが来るって言ってるよ?」

「ダメダメ、相手は王族だもの」

「そういうところは、騎士だよね」


 騎士でなくても、気にします。


 でも、どうしてわたしに会いたいのだろう?


 いい御方みたいだし、喧嘩を売られるってのはなさそう。


 対皇帝陛下ご夫妻共同戦線の相談をされたら、心が揺らぐかもしれない……。


 殿下は政務中ということで、イリーナは殿下のところに戻り、わたしは一人でヴィオラ様を訪ねる。


 舞踏会翌日の今日は、殿下のご配慮でゆっくり過ごしていいと言われていたのだ。


 ヴィオラ様の侍女が、彼女の室の前で立っている。


 わたしと同じくらいの年齢……王女の家庭教師から侍女になったと想像した。


「アリシアと申します。王女殿下にお目通りをお願いいたします」

「少々お待ちください」


 ガーベイン訛りのヴァスラ語を発した彼女が、室内に入る。


 待つことなく、扉が大きく開かれ、中に招かれた。


 ヴィオラ様……超絶美人! ……わたしでも見惚れる。


「アリシア様、わざわざお越し下さりありがとうございます」


 彼女が椅子から立ち上がろうとしたのを、侍女が止めた。


「姫様」

「フィア、いいのよ。あなたも昨日、見たでしょう?」


 フィアと呼ばれた侍女が、わたしをちらりと見て会釈をすると、部屋の隅へとさがる。


 笑顔の王女が、わたしに歩み寄った。


 わたしが腰を折ると、同じく腰を折った彼女が言う。


「昨日はすばらしかったです。感動しました」

「……お褒めくださり、恐縮です」

「ああ、そんなにかしこまらないでください。わたしのほうがずっと年下なんですから」


 嫌味なく言われたものだから、わたしはきょとんとする。


「アリシア様は、かの有名な帝国の戦乙女ヴァルキリーとうかがいました。それに、昨晩の舞踏会、すばらしかったです!」


 目を輝かせて、一生懸命に喋る女の子を前に動揺する。


「ヴィ――」

「ああ! もう最高でした! アリシア様はどこで踊りを学んだのですか!? やはり騎士様は皆様、嗜まれるのでしょうか? それともアリシア様だけ特別なのですか!? わたしは本当――」

「姫様」


 フィアが喋りまくるヴィオラ様を止めた……。


「あ……失礼しました。わたしったら」


 照れる王女……呆れる侍女……苦笑いのわたし。


 わたしは、彼女をソファに座らせ、その横に膝をつく。


「ヴィオラ様、わたしは踊りなど全くしたことがありませんでした。殿下に言われた通りに、動いただけです」

「ええ!? それであんな素晴らしい踊りができたのですか!? わたしなんて五つの頃から学んでいますが全く上達しないどころかフィアには叱られてばかりで困――」

「姫様」


 この王女……超絶お喋りなんだ!


 わたしがフィアを見ると、彼女は動揺しつつ口を開く。


「姫様、帝国の方を前に失礼ですよ」

「嬉しかったんです」


 ヴィオラ様は少し拗ねたような表情となるも、わたしを見て笑顔となる。


 可愛い……かもしれない。


 なんだろう? この子、かわいい子だ。


「アリシア様、では基本のステップもご存知なかったのですか? わ……」


 ヴィオラ様は慌てて口を閉じる。


 目をきょろきょろさせて、フィア、わたしと見た。


「っぷ! ふふふふふふ!」


 笑ってしまった。


「……ふふふふ……くくく」


 フィアも、我慢できないとばかりに口を手で押さえる。


「ふふふふふふふ……あはははは」


 ヴィオラ様が、お腹を抱えて笑いだす。


「姫様、はしたないですよ。ふふふふ」

「ごめんなさい! ふふふふふ。おもしろくて」

「あははははは……苦しいぃ」


 わたしも、遠慮なく笑った!


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