一方で、石川県では
最初に異変に気が付いたのはミズハだった。
「マスター?」
本来なら98が停車しているはずのホームに向かっても、何もなかった。マスターである翫もいなくなっている。
「早発…?」
心配になって時計を確認した。しかし、出発までまだ二十分もある。早発するとは考えられない。
そのとき、福井方面から走ってきた521-34が隣のホームに入線してきた。
「あれ、まだ来てないか?」
翫の先輩である見上が声をかけてきた。
「いえ、先ほどまではそこに停車していたのですが…目を離した隙にいなくなってしまいました」
「…ちょっと待ってろ、指令に所在地確認してみる」
富山行きの電車がないことに戸惑っている乗客たちの横で、ミズハは回答を待った。
「は、どこにもいないっ!?」
「…!」
「TIDにも映らない…本当に消えやがった」
AK、IR、HFの全ての区間を確認しても、結局98と翫は見つからなかった。ただ、ホームの防犯カメラに手掛かりは残っていた。
「ここでは映っているのに…」
コマ送りで防犯カメラの映像を確認していた。1秒だけ先に進ませると。
「1秒後には消えている…一体何が」
「誰かが改ざんしたとか?」
「そんな不審者、見かけたら絶対話しかけにいくぞ?」
映像を見ていた駅員全員が頭を抱えていた。そんなところに、もう一つの情報が入り込んできた。
「あの、俺らの連れを見ませんでしたか?」
改札口に立っていた加賀谷のもとへ、二人の男性、いや、男女がやってきた。
「連れ、ですか?」
「こう、黒髪ロングヘアの女子大学生で…」
「トートバッグを肩から提げていたはずだよ」
「あ~、少々お待ちください」
加賀谷はミズハたちがいる事務室に入った。
「あの、迷子のお知らせがきたんですが…」
「迷子?」
「はい、ロングヘアの女子大学生だそうです。見ませんでしたか?」
「…あ」
駅構内の防犯カメラの映像を漁っていたミズハが短く声を上げた。
「もしかしてこの方ですか?」
映像には、キオスクの前で会話している三人組が映っていた。その中の二人は、先ほど加賀谷に話しかけてきた男女にそっくりだった。
「そうそう、この人たちです!」
「もう少し映像を進ませてみましょう」
女子大学生はトートバッグの中を探った後、改札口に向かう階段へ歩き出した。フェードアウトしたためカメラを切り替えると、どこにも女子大学生は映っていなかった。
「…え?」
「この方も、忽然と姿を消してしまいましたね…」
「あ~もう、何が何だか分かんなくなってきたぞオイ。誘拐なのか? それとも自分からか?」
「誘拐の可能性はないでしょう。98が消えた理由に説明がつきません。自発的に失踪する可能性は…女子大学生の方はありえますが、マスターはそんなことはしません。辛そうな表情は今日も見ていませんから」
そう説明しながら、ミズハは映像を注意深く見つめていた。
その時、あることに気が付いた。
「緑色の閃光…どちらにも映っていますね」
「え、見せて見せて!」
「俺にも!」
しかし、その閃光が映り込んだのは人の目では見られないほど一瞬だった。
「…俺には何も見えなかったな」
「ミズハはアンドロイドですから。私たちとは違うんです」
「おそらく、これがきっかけかと」
「…とんでもねえこと、言っていいか?」
見上が改まって二人を見た。
「最近あるだろ? 異世界転生だとか異世界転移のアニメ」
「マスターはよく見ていましたね」
「私はラノベで読んだことありますよ」
「…それが起きたんじゃねえか?」
「…まさか、見上さんの口からそんな信憑性の高い可能性を聞けるとは」
「ミズハは褒めてんのか、それ」
どうしても、それしか考えられなかった。




