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4話 『繰り返し』

「ひ、ひとまず剣先を下に向けてください…!」

 そんな悲鳴のような声で僕は目覚めた。剣先…?

「…かなでさん!?」

 急いで立ち上がり、連結部の扉を開けた。

 その先で、昨日川から流れついた少女がかなでさんに向かってレイピアの剣先を向けていた。剣先は鋭く、裁縫針みたいだった。

「答えて、アンタは誰?」

「翫 かなでです」

「私とは違う、独特の名前…あの人と同じ」

「え~っと、どういう状況で?」

 僕は状況を呑み込めずにいた。なにこれ、てえてえの真っ最中?

「と、とりあえずレイピアは下げて。そんなの向けられたらビビッて話もできやしないんで」

「アンタにも尋ねるわ。アンタは誰?」

「ぼ、僕ですか? 翫 かなでです」

「…は?」

「僕と同じ名前なんですよ、彼女」

 少女はきょとんとしていた。先ほどの緊張感はきれいさっぱりなくなっていた。

「そういう君は?」

「教える必要なんてないわ」

「まあまあ、そう言わずに」

「…『イア・リフレイン』。それが私の名前」

 少女はそう名乗った。なんかかっこいい。

「イアさんね。川に流されたの覚えてる?」

「ええ、覚えているわ。魔王の追手から逃げている時に突き落とされたの」

 そういえばあの王、確か『魔王が~…』とか言ってたね。すっかり忘れてた。

「ちなみに、誰に突き落とされたの?」

「……私が、恋をした人」

「「マジか」」

 僕とかなでさんの声が重なった。恋人が敵側だったパターンか?

「彼は私を川に突き落として助けてくれたの。その後のことは知らないわ」

「あ、てっきり裏切られたんだとばかり…」

「私もそう思ってました」

「…なんでその発想になるのよ」

 おそらく、たくさんの物語を読んできたからだろう。


 イアさんが恋をした人は『コウサカ リクミチ』という名前らしい。名前が日本人すぎる。

「彼は他の冒険者とは何かが違った。それが気に入らなくて、私は決闘を申し込んだの」

「それって、自信で溢れていたから?」

「…それもあるわね。その前に高難度の依頼を完了させていたから、自分の力に己惚(うぬぼ)れていたのかもしれない」

「それで、結果は?」

「最初は私が優勢だったわ。でも、彼が武器を持ち換えてからは立場が逆転したの。急に破裂したような音が聞こえたと思ったら、何かが私の頬を掠めていったわ」

「まさか、銃?」

「日本じゃ銃刀法違反なので、外国在住の日本人かもしれませんね」

「私には『銃』というものは分からないけど、黒い筒に穴が開いていたの」

 やっぱり銃じゃん。

「さすがに防げないと感じたから、降参したの。そしたら彼、『良い戦いだったよ』って言って私の手を取ってくれたわ」

スポーツマンシップ(誉れ)を持ってるみたいだねぇ…その瞬間に?」

「そう、惚れてしまったの。私が一方的に敵意を向けていたのに、それでも怒りもせずに私のことを気にかけてくれた。あんなの、惚れないわけがないわ…///」

 イアさんの頬は真っ赤だった。恥ずかしさからなのかな?

「…よし、じゃあ今から、その人を見つけに行こうか」

 僕はイアさんにそう提議した。

「魔王領に乗り込むの? やめておいた方がいいわよ! そんな見たこともない服で!」

「あ、そう?」

「あそこは生半可な装備で行くと確実に命を落とす。それなりの準備をしないと」

「準備って言われても、どこに街があるかなんて…翫さん、地図とか持っていませんか?」

「そんなのないよ」

 かなでさんは僕のことを何だと思ってるんだ。

「私、地理はある程度頭に入っているから案内できるわよ」

 イアさんがそう言った。なんと頼もしい。

「じゃあ、道案内をお願いしていいかな?」

「もちろん、でも徒歩で行くとなると相当の時間がかかるわね…」

「あ、そこは問題ないんで」

「私たちにはこれがあるので!」

 僕たちは98を指さした。それを見たイアさんはというと。

「…馬のいない馬車なの?」

 かなり近い答えを呟いていた。

「馬がいなくても動く馬車とでも思って。コウサカさんがいた世界のものだよ」

「コウサカさん、多分私たちと同じ世界の出身なんです」

「…そう、これも天命なのね」

 イアさんはしみじみと呟いていた。

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