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3話 流れ着いた現地の少女

「お前だけでも生きろ。大丈夫、俺は運が良いから」

 それが、私が聞いた彼の最後の言葉だった。

 彼は私の身体を押し、川へ落ちた。その衝撃で私は意識を失い、川には大きな水柱が立った。

 転移してきた時は夕方だったみたいで、98は夕日に向かって空を駆けていた。

「やっぱりそうだ! これが『空走列車』なんだ! 初めて乗った!」

 運転室の助士側で、カバンの少女が大騒ぎしていた。はしゃぎすぎだって…。

「そういえば、まだお互いに名乗っていませんでしたね」

「あ、そうでした。初めまして、『(いとう) かなで』です。長野の大学に通っています」

「え…?」

 自分の耳を疑った。ついにイヤホンのつけ過ぎで難聴が始まってしまったのか?

「どうかされましたか?」

「いや、僕もなんだよね。『翫 かなで』って名前」

「……そんな偶然、あるんですね! 運命でしょうか」

「…さぁ?」

『翫』って苗字、珍しいほうなんだよね。『伊藤』や『伊東』のほうが多いはずだし。

「あ、それと、別に敬語じゃなくてもいいんだよ。これからは長い付き合いになりそうだし」

「…敬語のままで話させてください。その方が慣れていますから」

「あ、そうなんだ…」

 敬語で話されるのは、こっちは少しばかり慣れていないんだよね。


 98が置けそうな広いスペースを見つけたのでそこに着陸した。近くには川もあるから、水には困らない。飲むのなら、さすがに煮沸したいところだけど。火は僕のカバンにあった虫眼鏡でなんとか起こせるだろう、多分。

 虫眼鏡は異音がした際、台車や車輪を確認するのに使う。持っているのは会社内でも僕だけだろう。

 寝る場所は…かなでさんにはクモハのロングシートを使ってもらって、僕は簡易シートを出して寝ることにしよう。もちろんクハで。

 換気は窓を開けずに空調で行う予定だ。異世界って何があるか分からないからね。突然盗賊に襲われる可能性だってゼロなわけではない。

「うわっ、ちょちょちょ…翫さ~ん!」

 運転室の助士側にあった僕のカバンの中身を整理していると、外からかなでさんの慌てた声が聞こえてきた。

「ど~したの?」

「ちょっと手伝ってほしいです!」

「はいは~い」

 かなでさんはついさっき『ちょっと辺りを見てきますね』と言ってどこかへ行ってしまったのだ。僕にはできない芸当だ。RPGみたいな冒険ゲームはやりたいと思えない。全ロスが怖いんだよ…。

 もしも大きな熊とか背中に抱えていたらどうしよう…と思いながら向かうと、川の側で金髪でお団子ヘアの少女が横たわっていた。

「え?」

「この人、流れ着いちゃったみたいですねえ」

「…僕らみたいに転移してきた人じゃないよね?」

「こんな服着ますか?」

 少女の服装はいかにも『冒険者』というもので、動きやすさと威圧感を両立させた黒を基調とした軍服に近い戦闘服を身にまとっている。身体にほどよくフィットする上着は、胸元から袖口にかけて赤い装飾が走っていた。スカートは短めで、無駄のないシルエットだ。太ももまで覆う黒のストッキングと、硬質な革のブーツが脚線を引き締めている。

「確かに。日本でこんな服は着ないね」

「ですよね」

「ひとまず、クモハのロングシートに寝かせようか」

「は~い」

 僕は少女を、かなでさんは少女が帯刀していたレイピアを抱えてクモハの中に入った。ロングシートは大人が三、四人は座れる長さなので、ちゃんと少女も寝かせられた。

「あ、あとこういうのも見つけてきましたよ」

 かなでさんはビニール袋を取り出した。ビニール袋は自前らしい。中身はスーパーで見たことのある野菜たちが入っていた。

「ほうれん草に小松菜、キャベツ」

「それレタスです」

 大人になった今でもこの二つの見分けがつかない()

「食料は確保できたんだ」

「食料…ホントは肉とか魚が良かったんですけど…武器はないですし」

「あの少女が目覚めたら街のある場所とか聞けるかな?」

「行ったとしても、手配されてるかもしれないんですよ」

「あ、そっか。派手にやっちゃったから…その時はいろいろ工夫してみようか」

 久々に野菜を生で食べたけど、マヨネーズが欲しくなった。食べ終えた後、僕らはそのまま就寝した。

 ピアノの音色が睡眠導入剤スヤア…(っ˘꒳˘c)

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