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2話 新世界

「面を上げよ」

「…ん、んん? あれ、どこ?」

 声が聞こえて目を開けると、大勢の貴族っぽい見た目の人たちと、豪華な装飾が目に入ってきた。金や銀を大量に使っていて、足元はレッドカーペットだった。ずっとテレビでしか見たことがなかったけど、乗ってみたら意外と普通のカーペットなんだなぁ。

「此度も『勇者召喚』は成功じゃな」

「そのようですね。へブエレス陛下」

 目の前の玉座に座っているのが王様…太った中年男性の間違いでは?

 それにしても、勇者…僕が!? いやいやいや、僕なんてただのボカロ好きな鉄道運転士ですよ!

「しかし、三人だけというのは少々誤算でした。五人以上だと予想していましたが」

「え?」

 後ろを振り返ると、肩からカバンを提げた少女と、セーラー服を着た目がシイタケな少女が立っていた。カバンの少女は混乱しているのか、ただ突っ立っていた。しかし、セーラー服の少女は目を輝かせて周りを見渡していた。

「いやいやいや、勇者なんて! 私なんてただのウニ勢な大学生ですよ!」

「勇者…まさしく私にふさわしい!」

 なんだろう、セーラー服の少女から狂気を感じる。

「実は今、魔王によって前に召喚した勇者たちが連れ去られているのじゃ。そのせいで我が国の信用は地に落ちてしまっている。国民の生活も苦しくなっていくばかり…どうか、魔王を討伐してはくれないか?」

 信用が落ちたからって、生活は苦しくなるのだろうか…?

 けれど、セーラー服の少女は疑いもしなかった。

「お任せ下さい! この私、『ユミカ』が魔王を討伐してみせます!」

 彼女は堂々と宣言した。

「よろしい。ピエア宰相よ、あの三人のスキルを鑑定せよ」

「承知しました、陛下」

『宰相』と呼ばれた高貴そうな男が、丸い水晶玉越しに僕を見た。

「……!」

 少し驚いた表情をしたが、そのままカバンのの少女、セーラー服の少女を見た。

「……結果が出ました」

「どうじゃったか!?」

「男の方は『運転士』、女の方は『無反応』、幼子の方は『勇者』と出ました」

「……つまり?」

「あの二人は無能です」

 宰相は僕とカバンの少女を指さしてあっさりと告げた。

 はいはい、僕は結局凡人ですよ。願ったって叶いやしない。

「こ……このゴミ共が!! 召喚にいくつの時と金を費やしたのか分かっておるのか!!」

「知りませんよそんなの!!」

 こんなに理不尽に怒られたのは久しぶりだった。区長はもっと優しかったのに。

「ええい! こうなればもうどうでもよい! 勇者よ、そのゴミを斬り捨ててしまえ!」

「お任せを!」

 王の指示で、セーラー服の少女が剣を受け取ると、僕とカバンの少女に剣先を向けた。

「さあ、選べ! 主人公である私の配下となるか、死か!」

 ……ん? どこかで聞いたようなセリフだ。

 いやいや、そんな悠長なことを考えてる場合じゃない。今、生死の狭間にいるんだ。

「な、何か打開策とかはないんですか…!?」

 カバンの少女が僕にしがみついてきた。

「いや、業務用のカバンは521の中に置いてきちゃって何もないんだよ。今、手元にあるのはスマホと……ん?」

 胸ポケットの中に何か硬いものが入っていた。ミニカーみたいな重さとサイズ感だ。

 …くそったれ。

「ああもう、どうだっていい!! 最後に悪あがきぐらいはしてやるっ!!」

 胸ポケットの『それ』を僕は放り投げた。

 僕が放り投げたのは521のキーホルダーだった。

「うん、終わりだな()」

 その時、キーホルダーが急に大きくなった。僕が瞬きをした瞬間だった。

「……」

「え、ええっ!?」

 銀色の車体、青色の帯、二両編成。そして側面に貼られたネームプレートには『98』の数字。

 間違いなく521-98だった。

「どっからクハが生まれてきたの!?」

 僕が投げたのはクモハ側だった気がする。でも98はパンタグラフがないから、クモハが生まれてきたのかもしれない。

 ちなみに今、98は僕の少し斜め上で自由落下を始めている。自重は二両合わせて87トン(標準仕様の場合)もある。すなわち。

ズドンッッ!!

「ぬおわぁ!」

「くっ…!」

「ま、マズいですって! 崩れますよここ!」

 異世界の城が耐えられるわけがなかった。一瞬にして床をぶち抜き、王や宰相たちが落ちていく。

「手!」

「え!?」

「早くつかんで!」

「は、はい!」

 カバンの少女の手を握り、タイミングを見て98の屋根に向かって飛び込んだ。

 運よく空調装置には当たらず、背中から屋根に着地した。危うくノンブレスになるところだったけど。

「あたたた…今日はそういう日なのかな」

 目を開けると、そこは牢獄みたいな場所だった。王の謁見室(?)の下が牢獄って悪趣味すぎるって。

「あ、大丈夫ですか?」

「はい、何とか」

 少女は屋根に手をつきながら立ち上がった。見た感じは大丈夫そうだ。

「それで…どうするんですか?」

「とりあえず、98が動かないか試してみますね」

 屋根から降りて運転室へと向かった。鍵はかかっておらず、ドアノブを捻っただけで乗務員扉は開いた。

 水素の残量は満タン。ならシステムさえ起動できてしまえばこっちのものだ。目の前には運よく98が通れそうな穴が空いてるし。

 僕は98を難なく起こし、発車ができる状態にした。落ちた衝撃でどこか壊れたんじゃないかと思ったけど、どこにも異常はなかった。

「もしかして…もしかしてこれが噂の521-98なんですか!?」

「噂の…? どういう噂かは知らないですけど」

 反重力装置を起動させると、フワリと地面から浮いた。きっかけがなくても装置が起動するとはね…。

「よし…出発進行」

 マスコンを引き、521-98は穴を通り抜けて脱出した。

「異世界…いや、[新世界]か。ちょっと見てみたいけど、この調子じゃ指名手配されそうだしなぁ…」

 さて、どうしたものか。

 521-98が発車していった直後、瓦礫の中から一つの人影が現れた。

「これが、主人公補正…!」

 人影の正体はユミカだった。

「いずれ、あの二人には復讐してやらないと…その前に、勇者としての地位を高めなくては!」

「う、うう…」

 背後からうめき声がした。振り返ると、ボロボロになったへブエレス王が地面を蛇のように這って進んでいた。

「誰か…」

「まだ生きておられたのですね!」

「お、おお、勇者よ…! どうか私を…」

 へブエレス王はユミカを見つけた途端、泣きながら這い寄ってきた。

 けれど、ユミカは無慈悲に突き放す。

「それは無理ですね!」

「…は?」

「だって貴方は、既に用済みですから! 事情も、剣も、何もかも与えてくれました!」

「ま、待て…!」

「では、お疲れさまでした! おやすみなさい!」

 ユミカはあっさりとへブエレス王をこの世から消した。

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