23話 没
先手はユミカから。いきなり突っ込んできた。
…でも、弾丸よりは遅いかな。私は軽く横へ回避する。
「避けるだけじゃあダメですよ!」
ユミカは返す刀で剣を振った。何の溜めもなく、シームレスでやってくるとは。
「お主にしては珍しいのう。予測しとらんかったのか?」
「…すまないね」
ラナドールが寸のところで間に入った。そのまま花札で剣を受け流す。
「ボケっとするでないぞ」
「分かってる」
でもあの子、隙がない。ただ突っ立っているように見えて、すぐに動ける体勢を取っている。一筋縄じゃあいかないだろうね。
「軽口を叩くということは…余裕なんですね!」
「そういうお主こそ、まだ全然本気を見せとらんじゃろ?」
「ええ、もちろんですとも! けれど、本気を出さざるを得なくなりました!」
その瞬間、ユミカから漂ってくる雰囲気が変化した。一気に張り詰めるような感覚。
「…あやつ、本当に人間か?」
「今気にする? まあ私も気になってはいるけどさ」
「…では行きますよ!」
その言葉の直後には、ユミカは飛び出していた。
…速い。でも。
「同じ手は二度も食らわないさ」
軽くトランプで受け流す。表面に軽く傷が入る。
これ、だいぶ特殊なものなんだけどねえ。
「背中が空いとるぞ」
すかさずラナドールが手刀を入れる。
「…っ」
間一髪のところで、ユミカは身を翻した。セーラー服の一部が割けている。
「…さすがに二対一は卑怯ですよ!」
「勝てばよかろう」
どっかのシビック乗りと同じこと言ってる。
「もうキレました! 全力でやってやりますよ!」
「さっき『本気を出さざるを得ない』とほざいていたやつが何を言っとる」
「こらこら、煽らないの」
相変わらずだねえ、ラナドールは。
すると、階段の方から足音がした。
「どうやら間に合ったようだね。バカの目を覚ます時間だ」
一坂さんがバインダーを持って現れた。
「君に聞こう。自分の名前を漢字で書けるかね?」
目線はユミカに向いていた。
「何当たり前なことを言っているんですか! 『有美香』と書きます!」
「ダウト」
「は…?」
一坂さんは否定した。
「漢字は『有美香』ではない」
「何を根拠に!」
「『弓』に『哥』と書くのだよ。君の心に刻まれているものを読み取らせてもらった」
その言葉を聞いて、ラナドールの目つきが変わった。
「幽霊文字じゃな」
「そうとも。一つの漢字にすると『彁』になるのだよ」
「…じゃあ存在していないことにならないかい?」
「今からそれを証明しようではないか。では次の質問だ。第三代総理大臣の名前は?」
「…伊藤博文?」
ユミカは首を傾げながら答えた。その回答を聞いて、私もラナドールも笑ってしまった。
「な、なぜ笑うんですか!」
「いやあ失礼。答えは『山縣 有朋』だよ」
「伊藤博文は初代、第五代、第七代、第十代じゃな」
一気にユミカの頬が赤くなっていく。
「そ、それだけで決めつけるんですか!」
「落ち着きたまえ、次の質問で決まる。世界で唯一、日本には西暦以外の年の数え方があるのだが、それは何かね?」
答えは簡単、『元号』である。『昭和』、『平成』、『令和』といったアレである。
「っ…」
ユミカは答えなかった。いや、『答えられなかった』。
「…これで確定だ」
君は存在しない存在なのだよ。
現在では朝日新聞のデータベース上で「彁」を含む記事が発見され、同社のデジタルマガジンにて「『彊』がかすれて印刷されたのを『彁』と見誤った」可能性が指摘されている。




