21話 人外追加
感動の再会かな、と思っていたら...イアさんはコウサカさんに飛びかかっていた。
「何で、何で突き落としたのよ!?」
「あれは...」
「突き落とされなかったら追い払えたはずなの。私だって強い。けど、リクはそうしなかった。...最初から死ぬ気でいたような目をしてた。私、気づいてたのよ」
イアさんはコウサカさんに覆い被さる形で泣いていた。
「...ごめんな」
「謝ったって…謝ったって…!」
イアさんが泣き出した。
僕らはただじっとしていた。口を挟めば怒られるし、かといって物音を立てるのも良くないと思う。
「痴話喧嘩は別室でゆっくりとしたまえ」
唐突に一坂さんがそう言った。空気が読めないのか、気遣いか。
「……」
「すいません、コーローさん…」
イアさんは抵抗もせずに、コウサカさんに体重を預けながら部屋を出ていった。ただ、一坂さんを睨む目が怖かったけど。
「…度胸、すごいですね」
「この中では年長者なのでね。私が取り仕切らなければ」
「そ、そうですね」
一坂さん、僕らよりも年上みたいだしなぁ...。
さて、一坂さんに会ってから数時間後のこと。テレキャスター片手に、僕は98の中で立っていた。練習さえしていれば、楽器は何だってできる。今なら何を言われても笑える気がするよ。
テレキャスターをかき鳴らして音を出した。至って普通の音。初心者なりの音。
...どうせ僕は凡人だ。強がることは無駄である。
次に大きな声を出してみた。98の車内に反響する。外はトーキョー駅なので遮音性を確かめる検証も兼ねているかもしれない。
ここが、僕なりの新しい世界。会場。現在進行形で熱狂中。
コンコン。
不意にドアがノックされた。目を向けると、かなでさんが立っていた。
「どうしたの?」
「ちょっと見てもらいたいのがありまして…」
そう言って見せられたのはスマホの画面。タイトルが文字化けしたMP3音源ファイルがあった。尺は2分6秒。
「なにこれ。自分でダウンロードしたの?」
「いえ、いつの間にか入ってました。こっちに来る前にはありませんでしたし」
「…じゃあ何だろう?」
「『2分6秒』というのが気になっているんですよ。尺が…あまりにも収録されやすいヤツで」
「リズムゲームに?」
「そうなんですよ!」
ものによるけど、吉田夜生さんの『オーバーライド』は19秒分カットされてた…。
「じゃあ流してみる? 聴けば何か分かるかも」
「…そうですね」
そのまま再生ボタンをタップ。特徴的な4つの重低音。それを聴いただけで、かなでさんの目つきが変わった。
BPMはおそらく202。となるとこれは———。
『まもなく、一番線に回送電車が参ります。ご注意ください』
「「え?」」
頭上から自動音声が流れ始めた。どうなってるのこれ?
「あ、翫さん! あれ!」
かなでさんが指を向けていたのは一番線。その少し手前に『裂け目』があった。語彙力があったらもっと上手く説明できたのに。
そして、その裂け目から見覚えのある色…赤13号『ローズピンク』が出てきた。
甲高い摩擦音を鳴らしながら停車。間違いなくEF81だ。
「マスター!」
「え、あれ!? ミズハ!」
運転室からミズハが飛び降りてきた。
「ぐえっ」
勢いがありすぎて受け止めきれなかった。思わず尻もちをつく。
「もう少し加減してやりなよ?」
「そうじゃぞ、ヒョロガリじゃからな」
「すいませんねぇヒョロガリで!」
今度はPUPAさんとラナドールさんが現れた。服装や姿は何も変わっていない。
隣でかなでさんは呆然としている。
「それにしてもどうやって…」
「主にこのEF81とラナドールのおかげだよ」
「かなり頑張ったぞ。我らがおる世界とこの世界を繋げたのじゃから」
「...何でもあり」
「ラナドールは人間じゃないからね」
その会話の横で、ミズハがかなでさんを見つめていた。
「...どうかしましたか?」
「特徴が一致していますね。階段で転びかけていたでしょう?」
「そ、そうですけど...何で知っているんですか?」
「防犯カメラの映像を確認しました。あなたのご友人が心配していましたよ」
「巡先輩たちですね...」
かなでさんが遠くを見つめた。友人たちを思い浮かべているのかもしれない。
かなでさんが行方不明になったことは、恐らくその友人たちが知らせたから。なら、僕が行方不明になったのに気づいたのは?
ふと、98を振り返った。
「...これだけ大きかったら、気づかれるのも当然かな」
ちなみに、春風くんは一坂さんにお願いされて線香花火を作っていた。それを持っていた一坂さんはまるで少年だった。
場合によっては、次の更新は八月になるかもしれません。ご了承ください。




