19話 呼び出し
え~、タイトルの通りです()
僕は今から『魔王』と呼ばれている人物と会うことになった。駅で話がどんどん進んでこうなってしまった。
「だ、大丈夫なんですか?」
僕を案内している初老の執事に聞いた。
「大丈夫です。魔王様はお優しい方。同じ転移者ならなおさらです」
そう言われても、僕の不安は消えない。
魔王ってほら、『怖い』だの『強い』だの…人によっては『速い』だの。そういうイメージがあるからどうしてもね…。
そうして案内されたドアをノックした。軽い音が響く。
「入りたまえ」
「し、失礼しま~す…」
中は思っていたよりも広く、明るかった。大きな窓から太陽の光が入ってきているからだろう。
そしてその窓際に、色の薄いサングラスをかけた男性が立っていた。年齢は50代だろうか。
「待っていたよ。翫かなでくん」
「えっ」
「私の名前は『一坂 幸一朗』だ。適当に『コーロー』とでも呼んでくれ」
目の前の男性…一坂さんがそう言った。名前が知られているのは…調べられていたのかも? 例えば『隠密部隊』とかに。
「まあ気楽に座りたまえ。何か飲み物は必要かな?」
「あ、えっと…麦茶ってありますかね?」
「……ハッハッハッ! そう来たか!」
めちゃくちゃ笑われてるんだが。しかも初対面の人に。
「もちろんあるとも。私と面会した人物は何も飲まないか、水を頼んできたからね」
「そ、そうなんですか…」
執事が持ってきた麦茶を一口飲んだ。いつも家で飲んでいるものと何も変わらない。まるで取り寄せたかのようだった。
一坂さんは二十年前、つまりは2000年代にここへ転移したらしい。東京を営業で駆け回っていたところをいきなりである。
スーツ姿でカバンを持ち、ひたすらに歩いたのだとか。体力があったおかげで、今僕らが面会している場所を見つけた。もとは小さな村だったらしい。
で、そこに住み着いた。自然と暮らしていくと、十年前に『長になってくれ』と言われた。
十年間の間に見つけていた同じ転移者に後押しされ、仕方なく長になった。そこからは都市開発をしていき…今の姿になった。
マジかと思った。少ない転移者と現地住民の人数でここまで変われるのか…。
いやでも、江戸時代から明治時代になったときの発達はすごかったし…ありえない話ではないのかな?
「さて、本題に入ろうか」
一坂さんは肘を膝に置いた。
「君の運転スキルには脱帽したよ。ぜひともうちの『魔術列車』も担当してもらいたい」
まさかのスカウトだった。
「なあに、そんなに難しいことではない。なるべく日本の運転台に寄せたからね…しかし、どうしても設備の面は再現しきれないんだよ」
「…床下の設備ですか?」
「そうだ。本来なら色々と詰め込まれているんだろう? 走るためのものが」
「そうですね。『ビューゲル』とか『軸箱支持装置』とかを521系みたいにギッチギチに詰められているのもあれば、クモハ411のようにスカスカなものもあります」
「実は魔術列車は、そこに魔力をため込んでいるんだよ。だから電気よりも安定しないのだ」
だから運休していたのか…。
「ところで、君はどうやってあの車両を走らせているのかね? 架線もないのに」
「水素と酸素の化学反応で走らせてます。この世界だと魔素を基にしているみたいですが」
「それは本当かっ!?」
いきなり、一坂さんが腰を浮かせた。思わずビビッてしまった。
「素晴らしい!! それさえ実現できれば…! おっと、失礼した。思わず我を忘れてしまうところだったよ」
「は、はあ…」
一坂さんはコップに入っていた水を飲み干した。
「…君は、帰りたいと思うかね?」
唐突にそんなことを尋ねられた。答えはもちろん。
「帰りたいです」
「…そうか」
ネットが繋がらないから、どのボカロPが新曲を出しているのかさえ知らない。せめて聴きたいんだ!
そう思っていると、一坂さんは立ち上がった。
「案内しよう。君と同じことを思っている転移者のもとへとね」
一坂さんは機械いじりが大好きなんだとか。
「特にコマツの『930E』が好きでね。よく写真を眺めていたよ」




