18話 まるでジャパン
いよいよ終わりが近づいて来ました。
「丸太は…じゃなくて、身分証は持ってるよね?」
「もちろんですとも!」
「おいらの新しい身分証…かっけぇ」
「準備は万全よ。さっさと行きましょう」
イアさんの焦りが感じ取れた。今から行くのは『魔王領』と呼ばれている場所だ。名前だけ見れば怖い感じがする。
でもここ数日、情報の収集に回っていたら悪い噂よりも良い噂の方が上回った。
『どこよりも住みやすい』
『気楽に話せる』
『言語は伝わりづらいけど、根が良い人ばかり』
などなど。思っているよりも評判はいい。
…催眠にかけられているのなら話は別だけど。
「な、何もない」
「おかしい。ここで合ってるはずなのに…」
「この地図も間違ってないですね」
「…まっさらでありんすね」
目の前は地平線が見えるくらいの草原だった。そこにポツンと門番が二人だけ立っている。
その門番はまるで警備隊のような服を着ていた。
「なんか…見覚えない? あの服装」
かなでさんと春風くんに耳打ちすると、二人とも頷いていた。
「ですよね。この世界とミスマッチというか…」
「怪しいでありんすね」
「何してるのよ、さっさと身分証見せなさいよ」
「は~い」
そのまま門番に身分証を見せ、先に進んだ。
何か、膜のようなものを通過した気がした。その瞬間、目の前に草原ではない別の光景が広がった。
「……は」
「…お~」
「まんま…ですなあ」
どこからどう見ても日本だ。高層ビルが立ち並び、地面はアスファルト。街路樹も立ち並んでいて、どこぞの中古車販売店とは大違いだ。
自然とそこに視線が向かった。一本だけの狭軌。木でできた待合室。真っ白な壁。
言い換えるなら『内灘駅』そのもの。そんな駅が、僕の視線を釘付けにした。
誰かに肩を掴まれていても気にしない。振り払ってその駅に歩いていく。
待合室では怒号が飛び交っていた。駅員のような男性と乗客たちが揉めていた。
「まだ運休!? 今週で三回目だよ!?」
「改良されだど思ったっきゃこぃだよ!!」
どうやら鉄道のような乗り物が来られないらしい。
「あのふとがしゃべる『電車』にはまだ程遠ぇんだびょんなぁ」
はっきりと『電車』という単語が聞こえた。この場所でしか見れない電車があるんだ。
券売機は日本の物が完全再現されていて、銅貨で切符を買う仕組みだった。
「お客さん。今、切符買ったどすても無駄だよ」
分かってるんだって。そんなこと。僕がしたいのはそれじゃない。券売機で『トーキョー(首都)』と書かれた枠を押し、切符を買った。
「…見ね顔だな」
「最近来たばかりなので」
ホームに入って、ポケットから98を取り出した。
「ほら、ちゃんとした線路だよ」
そう言うと、98はすぐに大きくなって線路の上に乗った。車輪の幅もバッチリである。
「何だこぃは!?」
「電車…なのが?」
「すみません! ここに運転士はいますか?」
僕の呼びかけに応える人物はゼロだった。
「…仕方ない。走ったことのない区間だけど、勘でやるしかないか」
こんな日本にそっくりの街で、本格的な運転士の仕事をする羽目になるとはねぇ。
「信号は…青。よし。まもなくトーキョー行き発車します。閉まるドアにご注意ください」
いつもの音で全てのドアが閉まる。駆け込み乗車をする乗客がいないことを確認し、98を加速させた。
乗客は転換クロスシートが全て埋まるほど。少ないかと言われたら…普通だねこれ。
線路脇に置かれている看板には『魔列:25』の文字。魔列が『魔術列車』のような車両の略称を表しているのなら、制限速度は時速25キロ。いくらなんでも遅すぎるって。
この区間を走ってみて気が付いたのが『カーブの緩さ』だ。福井ー富山間しか担当していないけど、そこと同じレベルの緩さだ。
これで制限速度が25キロということは、魔列がただ単純に重いということである。ステンレス鋼、使ってないのかな。
さて、時速40キロで走っていると、次の停車駅が見えてきた。
ビーッ!
突然、運転台右側にあるディスプレイに『BRAKE』という文字が現れた。それに合わせて98を減速させる。
すると、不思議なことに停止線ピッタリで駅に停車した。このシステムすごい。
すごいんだけど……ブザー音が心臓に悪いかな。ATSよりもよっぽど。
その後も謎のブレーキ案内システム(?)に助けられながら走り続けると、大きなビルが見えてきた。線路はそのビルの中に続いている。名古屋駅みたいだなあ。
別のホームでは、見たことのないデザインの車両が停まっていた。521系よりもALFA-Xよりも尖ってる…。
「ご乗車ありがとうございました。終点、トーキョーです。お忘れ物のないようにご注意ください」
そう言って運転室から降りると、乗客たちに声をかけられた。
「な凄ぇねえ!!」
「こいだば会議さ間に合うじゃ!」
次々に感謝の言葉を言われる。思わず涙が出てきた。
こうやって感謝されるの、いつぶりだっけ。普段、運転士をしていてもこんなに感謝の言葉はかけられない。『縁の下の力持ち』だったかな、こういうの。
「…やっぱり、嬉しいよね。感謝されるってさ」
98に声をかけた。ちょっとだけ誇らしそうにしていたのは気のせい…じゃあないだろう。
そんな時、一人の男性が声をかけてきた。初老の執事のような容姿をしている。
「あなたは…もしや、転移によって?」
「あ…初めまして。翫かなでと言います」
反射的に名刺を取り出した。男性の目がじっと名刺を見つめる。
「…なるほど。魔王様と同じ世界からやってきたのですね」
「魔王…その人も転移してきたんですか」
「はい。今から二十年ほど前に。現在は転移者たちを手厚く保護する活動をしておられます」
魔王、いい人じゃん。
「そうなんですか…その、聞きたいことがあるんですが」
「何でしょう?」
「何で止めなかったんですか? 普通なら、『正体不明の列車』として武力行使で止めにくるものだと…」
「…魔王様が『絶対に止めるな。終着駅まで走らせろ』と命令を出してきましたので」
やっぱりいい人じゃんか!
INFP-T
最近更新できてなくて申し訳ないです。8月になったら投稿頻度は増えると思います。
色々と忙しくて…。課題にテストに祭り。やることが盛りだくさんなんです。




