17話 (残灯)花火を打ち上げる
「どうもどうも、お待ちしておりましたよ」
冒険者協会の奥にある応接間にて、僕ら四人はルシャールさんと面会していた。中央にデスクと椅子が置かれていて、その椅子にルシャールさんは座っていた。第一印象は『フランス国籍の爽やかな青年』だ。
「すみません、お待たせしてしまって。翫かなでです。これがヴェルファードさんからの…」
「ご丁寧にどうも」
ルシャールさんは中から手紙を取り出し、イアさんを一瞥した。
「なるほど…イアさん、後でお話があります」
「え、私?」
イアさん、なんかやっちゃったのかな?
「あの、僕たちは聞かない方がいいですかね?」
「いえ、構いませんよ。そんなに影響があるとは思えませんし。今ここで話すことにしましょう」
ルシャールさんは膝に肘をついた。
「あなた、貴族の血を引いているんですね」
「…は?」
「…?」
「貴族、ですかい?」
「わ、私が?」
でも言われてみれば…金髪でツンデレ、『お嬢様』の要素は揃っている。
「アンタ今」
「何も考えてないのに!?」
どこぞの妖怪みたいに心でも読めるのか…?
「でも、今更言われたって…」
「あなたのご家族、正確にはおじいさまが亡くなられた…と書いてあります」
「……」
「…もしかして、幼少期の記憶がない?」
「…そうよ。綺麗さっぱり。だから『おじいさまが亡くなった』なんて言われたって…何とも思わないの」
「…そうですか」
ルシャールさんはビリビリと手紙を割いた。
「では、今回の件はなかったということで」
「それでお願い」
そう言ったイアさんの顔はどこか悲しげだった。
「翫さん」
「ん? どうしたの?」
夕方、春風くんが裾を引っ張ってきた。
「夜に見せたいもんがありんす」
「見せたいもの?」
「あの二人も誘ってくれやせんかね?」
「…いいけど」
夜、そして春風くん…ハッ、まさかっ!
今、僕たちはフィラデルディーヴォから離れた草原に来ていた。完全に日は沈み切っていて、空が若干青くなっている。
「で、何をするのよ?」
「春風くんから、イアさんに向けての『励まし』だってさ」
「励まし? 何で」
「さあ?」
98の車内で、僕とかなでさん、イアさんは転換クロスシートに座っていた。春風くんは今も準備をしている。
すると、春風くんは頭に巻いていたタオルを振り回した。準備ができた合図だ。
「打ち上げ、開始でございます!」
車内の明かりを消し、月明かりだけが僕らを照らしていた。
ひゅ~…。
「この音…」
「夏ですねぇ」
次の瞬間、白い花が夜空に咲いた。
「きれい…」
ぼそりとイアさんが呟いた。
にしても、白色かあ…慰霊の意味を込めているんだろう。イアさんのおじいさんへ向けて。
それにしても、あまりにも綺麗だな…。
もちろん、これで終わらない。終わるわけがない。僕はスマホからとある音源を流した。爽やかにギターが音色を奏でる。
それに合わせて、次々に花火が打ち上がっていく。色とりどりな花が咲き、まるで昼間のように地面を照らす。
「…タイミング合ってよかった。合わなかったらと思ってたよ」
「その曲、チュウニズムに収録されてませんか?」
「確かされてるはず。でもこれはOrangestarさんの『未収録OSC』っていうアルバムに収録されてるバージョンだから少しだけ違うけど」
「…でも、いい曲ですよね。やりがいもありますし」
そう、本当にいい曲だ。
イアさんは今も打ち上がり続ける花火を見たまま動かない。感動のせいなのか、それともおじいさんのことが思い出せたのか、目が涙で潤んでいた。
「ねえ、かなで」
どちらに対して言ったのかは分からない。でも。
「寂しさと別れは切り離されないの…?」
「「……」」
返答に困った。正しいとも言えるけど…。
「……ごめん。変なこと言った」
「変じゃないよ。そう思ってしまうのは誰にだってあるだろうし」
「…アンタってやっぱりズルい」
照れ隠しなのか、僕らの方を向かなかった。
「翫さんって、女垂らしなんですか?」
「はあぁっ!?」
「どうでありんしたか?」
宿の一室にて、春風くんが尋ねてきた。
「ああ、イアさん? 涙を流してたよ」
ドン!と隣の部屋から音がした。防音材がないから筒抜けなのかもしれない。でも向こう側の会話は聞こえてこないしなぁ…。
「そうでありんしたか…結果は大成功ってことで!」




