模索
カランカラン…
東京某所にある半地下のバー『マンハッタン』に、一人の少女が入店してきた。
「何じゃ、あやつはおらんのか」
少女——ラナドールは店内を一瞥して呟いた。
「あやつ…ああ、PUPAさんですか。まだ来ていませんよ」
この店の店主であるシュドはグラスを拭きながら言った。照明によって年相応のシワが見えていた。
「お呼びかな?」
「…相変わらずじゃな。もう少し穏やかに現れてくれんか?」
「心臓が止まるからかい?」
「我に心臓はないわ!」
ラナドールさんの背後に、いつの間にかPUPAが立っていた。いつもの派手な服装…ではなく、地味な紺色のジャージを着ていて、髪も金色に染められていた。
「なんじゃそのふざけた格好は」
「どうかな? いつぞやの『555』を思わせる色使いだとは思わないかい?」
その数字を聞いて、ラナドールはピンときた。
「…GC8か。懐かしすぎるのぉ」
「でしょ?」
「いや…こんなことを話しに来たわけじゃないんじゃが?」
「だろうね」
ラナドールはバラライカを、PUPAはカプチーノを注文した。
「うちはバーなんですけどねぇ…」
そう呟きながらも、シュドは注文を引き受けた。
「あの不思議な運転士…かなでくんを見なくなったのは、噂されている『異世界転生』が原因?」
「じゃろうな。少し前、と言っても一世紀も前のことじゃが、一度だけ目の前で消えよった男がいたんじゃ。それ以来、帰ってきとらん」
「へえ、そんなに昔からその概念はあったんだ。さすが物知りだね、ラナドールおばあ——」
「あ”?」
「うちの店で騒ぎを起こさないでくださいよ。学者も、メイドも、シスターも来店されるんですから」
シュドが宥めたことで、ラナドールは冷静を取り戻した。
「…次はないぞ」
「はいはい。……向こうから呼ばれなきゃいけないんだよね」
「恐らくはな」
「もしも『自分から』行く方法がある、と私が言ったら?」
「……何?」
キッとPUPAを睨みつけた。
「……」
「本気なんじゃな?」
「あるとも。ついてくるかい?」
ラナドールの答えはもちろん。
「行くに決まっとるじゃろ」
場所と日付は変わって石川県金沢市乙丸町。人気のない深夜に、二つの影があった。
「…で、どうやって侵入するつもりじゃ?」
「なあに、カメラをハッキングしてその隙にちょちょいと」
「普通じゃな」
東インター大通りから落下し、ラナドールとPUPAは目的地の車庫へ潜り込んだ。
「ほお、これが…」
「そう、お目当ての電気機関車さ」
目の前にはEF81 108が鎮座していた。
「…誰かいるのですか?」
「「っ!」」
車庫の入り口に誰かが立っていた。ハロゲンランプの逆光のせいで姿が確認できない。
「…お主も、人ではないようじゃな」
「はい、アンドロイドですから」
正体はミズハだった。




