13話 僕らの他に転移者がいたんだよ!
「必要なものは持ったよね…衣類にマジックアイテム、冒険者協会の身分証」
「98はポケットに入ってますか?」
「それは大丈夫」
決闘から二日後、いよいよアレジェリータを出発することになった。長いような、短いような滞在期間だった。
「次に向かうのは『フィラデルディーヴォ』という街よ」
「え、フィラデル…」
その最初の四文字を聞いて僕は青ざめた。
「どうしました?」
「いや…『フィラデルフィア』っていう治安がすこぶる悪い都市があってさ…まさかそこも」
「治安は良い方よ。事件なんて滅多に起きないもの。フィラデルディーヴォでは武器や防具の生産が盛んなの」
「え、武器?」
「そうよ。私が使っているこのレイピア、使い始めてそろそろ四年くらいは経つから買い換えたいの」
「ああ、そういうことね。その足になってもらいたいと」
「…気に入った武器があれば買ってあげるわよ?」
そのお金は僕ら三人の手持ちですけど。
「ドワーフとかいますかね?」
ドワーフ…確かに、よく暑い工房で金属を叩いているイメージがある。
「ええ、ドワーフももちろんいるわ。98を見たら大喜びするかもしれないわね」
イアさんは苦笑いしていた。
そっか、98の車体はステンレス鋼で出来ていて、なおかつレーザー溶接してる。ドワーフからすれば見たこともない技術が使われているわけだ。
「…あんまり人前には出さない方がいいんだね」
「面倒事を避けるならね」
三人で雑談しながらアレジェリータの検問を通り抜けようとしたその時だった。
「お~い、待ってくれ!」
背後から声がした。
振り返ると、ヴェルファードさんが走ってこちらに向かってきていた。
「ふぅ……行ったかと思ったぞ」
「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて…」
「お前ら、フィラデルディーヴォに行くんだよな? ならこれを持って行ってくれ」
そう言って手渡してきたのは一つの封筒だった。
「…中身は手紙ですか?」
「ああ、向こうの局長に渡してほしい。名前は『ルシャール』だ」
「分かりました。渡しておきます…辿り着ければ」
「おいおい…」
98に地図もあるから、辿り着けるだろう。
「翫さん、暇です」
「僕は暇じゃないから」
アレジェリータを出て三十分で、かなでさんが愚痴をこぼし始めた。こっちはずっと前を向いて集中している。
「魔法が使えるのはいいんですけど、音楽が聴けないのが…」
かなでさん、すまんね。僕のスマホにMP3オーディオあるんだわ。でも今は運転中だから。
ただ、歌詞がないオフボーカル版なんだけど。それに電池も消費するし。
「ん…?」
乗務員扉の窓から下を覗き込むと、地面で人が手を振っていた。明らかにこちらに向かって。
「あれ誰?」
「…さあ? 誰なんでしょう?」
すると、その人物はどこからか大きな筒を取り出した。そしてその中に茶色い球を入れた。
ひゅ~…
聞き覚えのある音d
ドォンッ!!
「ひゃあ!」
「おお~」
「す、すごっ!」
空を飛んでいる98の真横で大きな花が咲いた。そう、花火だ。ちなみに悲鳴をあげていたのはイアさんである。
それにしても花火を打ち上げたということは…。
「ちょっと降りてもいい?」
「私もそれ言おうとしてました~!」
「あ、あんな奴に会いに行くの!?」
「私たちと同じで転移してきた人かもしれないんです」
どうか、友好的な人であってください。
「いやあ、助かりやした! ちょうど迷子になってたぜ…!」
その人物は紺色の浴衣を着ていて、丸刈りの頭に白いタオルを巻いていた。まるで…。
「江戸っ子…」
その言葉がしっくりくる少年だった。
「江戸っ子なんて、おいらには似合いねぇですよ。おっと、まだ名乗っていやせんでしたねぇ。俺は徳山 春風。一人前の花火職人を目指してるんでさぁ」
「だから、さっき花火を打てたんだ…そういえば、さっきの筒はどこに?」
「煙火打上筒ですかい? それならこのカバンに入ってるんでさぁ!」
どうやらカバンは大きさや容量の制限がないらしい。
「なんなら今すぐ」
「出さないで出さないで! 電車内は危険物持ち込み禁止だから!」
ドアの真横にその張り紙が貼られている。火薬はもちろん危険物だ。
「すいやせん。ついうっかり…」
「まあ、打ち上げるなら外でね。で、どこに行こうとしてたの?」
「実は、どこに何があるのか知らねえんでさぁ。なんで、ついて行ってもいいですかい?」
「僕はいいけど」
「私も問題ありませんよ」
「ふ、二人ともちょっといい?」
イアさんは僕とかなでさんの袖を引っ張り、クモハ側に移動した。いや、させられた。
「あんな人と一緒に行動? 何をしでかすか分からないわよ!」
「僕らと同じで日本出身だから大丈夫なはず」
「だって私、甘党だし…」
う~ん、甘党は関係ないんじゃないんかな?
「…本当に大丈夫なの?」
「イアさんは『やっぱりダメ』って言ってこんな世界に置き去りにするの?」
「うっ…」
「危険な魔物やら植物があるんでしょ?」
「……もう、分かったわよ。特別だからね!」
こうして、僕ら三人に春風くんが加わることになった。
『空にて奏でる521』の方は更新してないのに、PVが伸びていく…どうなっているんですか?




