11話 朝から洗車
いい朝ですなあ! 今日の空は曇り! イコール!
「洗車しよう!」
もちろん、98をである。
実は昨日の夜、『どんな汚れも落とせる』というタオルを買った。試しに水を染み込ませて98の台車に付着した鉄粉を拭き取ってみると、そこだけ綺麗さっぱり汚れが落ちていた。
で、そこだけ綺麗なのは納得がいかないので買って床下装置全体を洗車することにしたのだ。
アレジェリータを出て、イアさんが流れ着いたあの場所に移動した。ここなら水もあるからね。
台車や床下設備が茶色に変色するのは車輪の『鉄粉』、ブレーキパッドから出た『カーボン』、駆動装置の『油』が混ざったものだ。定期検査の前にこっちに転移してしまったから、今も茶色いままだ。
普通なら高圧洗浄だとか特殊な洗剤を使って汚れを落とす。でもこのタオルがあるならその手間が省ける。
あ、先に制服を洗濯しておこう。僕はアレジェリータで買った服を着て、制服を水洗いした。この新世界には洗剤がなさそうだから仕方ない。
干す場所は…98の空調の下にかけておけば乾くでしょ。多分。
「さ~て、じゃあやったりますか!」
台車を一拭きするだけで、元の灰色へと色が戻っていく。そう、この色だよ。26とか洗車を受けた時、なんか清々しく見えたもん。
川からくみ上げた水で濡らし、絞ればまた再利用できる。タオルに付いた汚れは軽く揉むだけでスルッと落ちてくれる。便利だね。
…そろそろかなでさんに『魔法打ってみましょうよ』って急かされる頃なんじゃないかな。でも僕は呪文のネーミングセンスなんて皆無だし。
既存のヤツで言えば…『アジャラカモクレン、テケレッツのパー』とかどうだろう?
この呪文は落語の『死神』という話で教えられる呪文だ。『アジャラカモクレン』の後に自分なりの呪文を加えるけど、今はしなくてもいいかな。人によっては時事ネタを入れる。
で、この呪文を唱えることで死神を追い払うことができる。対象者とかどこか遠くにテレポートとかできないかな?
「あ、あれ?」
気がついたら、台車どころか車体の側面部まで綺麗になっていた。呪文のことで夢中になりすぎて、掃除が捗ってしまったみたいだ。
別にいいんじゃないかな。『綺麗だから困る』なんてことはないんだし。
「帰ろうか」
アレジェリータの冒険者協会の前に人だかりができていた。事件でもあった…?
「すみません、何かあったんですか?」
「ああ、『エストレラス』っていうゴールドランクのパーティーが今いるんだよ。勧誘だったかな?」
「へえ…ありがとうございます」
勧誘ねえ…他人事とは思えないし、ちょっと覗いてみよう。
そう思って扉を開けてみると———。
「どうだ! 俺らのパーティーはたくさんの高難易度依頼をこなしてきたんだ!」
「へえ(棒読み)」
「……」
パーティーリーダーらしい青年が眩く光を反射している装備を身につけて演説をしていた。両隣にはタンクらしき男性と魔法使いらしき女性が立っていた。
机を挟んだ先では、イアさんが死んだような目つきで彼らを見ていたし、かなでさんに至っては話を聞かずに目を閉じてウニの練習をしていた。…え、譜面覚えてるんだ。
「あ、翫さん」
目を開いたかなでさんが僕に気が付いた。
バ、バカヤロー!! と心の中で思った。それを口にしたら……。
「お前もオフェルツァソを倒した一人か?」
そりゃ興味を持たれて巻き込まれるよ。青年は僕のもとにやってきた。どうするか…いっそのこと他人を演じてみるか。
「何のごどだが?」
「…君のような弱者のオーラを持つガキには無理か」
「んだよ。わさだっきゃ無理だ」
にしてもコイツ、嫌なヤツすぎる。やっぱりランクが上がると性格が悪くなってしまうんですかそうですか。
「何言ってるんですか。翫さんは私たちの仲間です」
「…彼女がそう言うのなら、君も勧誘してみよう。雑用ぐらいならできるだろ?」
「…ああ、もういいや」
かなでさんのせいで引けなくなったじゃん。どれだけ僕を巻き込みたいのか。
「イアさん、こった時って『決闘』すても大丈夫なんだが?」
「え?」
「おっと失礼、こういう時って『決闘』しても大丈夫?」
「…え、ええ。出来るわよ。というか、私もそれを申し出ようとしてたの。あまりにも態度が気に入らなくてね…!」
イアさんの額には今にも青筋が浮かびそうだった。
「それは私もですよ! 特にタンクの人の目つきがいやらしい!」
ああ、かなでさんにも不満はあったんだ。
「じゃあ、決闘しましょうか。あなたたちのパーティーに参加するかどうかを決めるために」
武器も魔法も持ってないのに、なんでこんなに自信満々に発言できてるんだ僕は。
翫(運転士の方)のおばあちゃんが青森県出身なので、津軽弁は使おうと思えば使えます。




