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ロカシオン・マギ  作者: じょん-ドゥ


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第5話:全能感の代償

 魔法の全能感に酔いしれた代償は、

 あまりに無慈悲な形でやってきた。

 返却された英語の答案用紙。

 右上に輝く『百点』の文字が、

 今の私には死刑宣告のように見える。


「白石、放課後ちょっといいか」


 担任の呼び出し。理由は明白だ。

 続く国語の点数が、

 一桁という惨状だったから。

 一時間目は学年トップ、二時間目は

 学年ワースト。……怪しすぎる。


「正直に言え。どうやってやった?」


 放課後の進路指導室。

 先生の疑いの眼差しに、私は

 「魔法を借りました」なんて

 口が裂けても言えなかった。

 結局、証拠がないため厳重注意で

 済んだけれど、教室に戻れば

 クラスメイトの視線が突き刺さる。


「……はぁ。もう、最悪」


 逃げるように学校を飛び出し、

 私は気づけばあの路地裏にいた。

 レンガ造りの店、『ロカシオン・マギ』。

 今の私には、ここしか行き場がない。


「いらっしゃいませ、紬さん。

 おや、今日は昨日よりもさらに

 ひどい顔をしていますね」


 カウンターの奥で、店主の櫂さんは、

 相変わらずさわやかに私を迎えた。

 私は椅子に崩れ落ちるように座り、

 今日あったことを一気にぶちまけた。


「カンニングを疑われた?

 それは心外ですね。紬さんは正当な

 対価を払って、魔法という知識を

 一時的に得ただけなのに」


「そうだよ! ズルなんてしてない!

 ……って言いたいけど、やっぱり、

 魔法ってズルだよね。

 実力じゃないし、説明もできないし」


 私の迷いに、櫂さんは

 困ったように眉を下げて笑った。


「ズルかどうかは、紬さんが決めること。

 うちは望まれた能力を貸すのが仕事。

 その後の責任までは持ちませんよ」


 彼は優雅な手つきで、

 新しいハーブティを淹れ始めた。


「ですが、紬さんが今の状況を

 『不快』だと感じているのなら、

 一つだけ、解決策はあります。

 魔法名『忘却のフォグ・メモリー』。

 相手の記憶を曖昧にする魔法です」


「……記憶を、消すの?」


「完全に消すわけではありません。

 『夢を見ていたような気分』に

 させるだけです。これを使えば、

 先生の疑念も霧散するでしょう」


 櫂さんは、スッと指を一本立てた。


「ただし。他人の精神を操作する

 この魔法名『忘却のフォグ・メモリー』は、

 本来であれば数千万円クラスの

 レンタル料を頂戴する、禁忌の術です」


「……す、数千万!? 無理だよ!」


「ええ、ですから今回は特別ですよ。

 範囲を『直近一時間』に限定し、

 効果も『非常に不安定』な試作品。

 それなら三千円で手を打ちましょう」


 翌朝。私は再び指導室に呼ばれた。

 先生の前に立ち、指輪に触れる。


「(……魔法名、忘却のフォグ・メモリー。起動)」


 一瞬、室内の空気が白く濁った。

 先生がハッとしたように瞬きをし、

 手元の答案用紙を不思議そうに見る。


「……あれ。白石、私は君を、

 何のために呼んだんだっけか」


「……さあ? 英語の百点、

 褒めてくれるんじゃないですか?」


「ああ、そうだったかな。……うん、

 よく頑張ったな。戻っていいぞ」


 あっけないほど簡単に、

 昨日の剣幕が消えてなくなった。

 魔法は、私の日常をいとも容易く

 上書きしてしまったのだ。

 放課後。報告のために店へ向かう。

 けれど、私の心は少しも晴れなかった。

 魔法で罪を塗り潰したという事実は、

 満点の答案よりも重かった。


「……解決しました、櫂さん。

 でも、なんだか本当にズルを

 塗り重ねてるみたいで、気分が悪い」


「それは、紬さんが『誠実』だからですよ」


 櫂さんは皮肉めいた様子もなく、

 ただ淡々と、いつもの笑顔で言った。


「魔法は便利ですが、万能ではない。

 塗り潰した過去の重みに耐えるのは、

 いつだってあなた自身ですからね」


 私は、自分の指に嵌まった

 空っぽの銀の指輪を強く握りしめた。

 魔法という力を使いこなすには、

 想像以上の『覚悟』が必要なのだと、

 私はようやく、理解し始めていた。

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