第41話:猫たちの宿場町(マギ・フェリス)
馬車に揺られて半日が過ぎた。石畳の道はいつの間にか、柔らかな苔に覆わ
れた幻想的な森の小道へと姿を変えていた。お尻が少し痛くなり始め、空腹が
限界を迎えようとしていた頃、櫂さんが窓の外を指さして、静かに私
に告げた。
「紬さん、見てください。最初の宿場町が見えてきました。ここは
『マギ・フェリス』……。少し変わった住人たちが自治を行っている、この街
道でも特に古い歴史を持つ中継地点ですよ」
「宿場町! やっとお昼かな? ……えっ、何これ、信じられない!」
馬車が広場の中央に止まった瞬間、私は思わず窓に張り付いた。レンガ造り
の小さな家々の窓辺、あるいは噴水の周り、石畳の道……。視界に入る「住人」
のすべてが、二本足で歩き、色とりどりの可愛らしい服を着たふわふわの猫た
ちだったのだ。彼らは当たり前のようにパンを焼き、道端で新聞を読み、私た
ちの馬車を見て「おや、珍しい人間の客だね」と、長い髭を揺らしながら人間
の言葉で優雅にささやき合っている。
「……ねえ、櫂さん! ここ、猫しかいないよ! しかもみんな喋ってる!
本物の『猫の国』に来ちゃったみたい。私、まだ夢の中にいるのかな?」
「いいえ、これも空白地帯のありふれた日常ですよ。彼らは高度な魔法によっ
て知性を得た一族で、この街の運営をすべて任されているのです。……さあ、
降りましょう。ここの魚料理は、舌の肥えた魔法使いの間でも評判ですから」
馬車のステップを下りると、一匹の立派な三毛猫のウェイターが、小さなシ
ルクハットを器用に脱いで、私たちに深々とお辞儀をした。
「ようこそ。櫂様、そしてお連れのお嬢様。……ちょうど今、厨房では新鮮な
銀鱗魚のムニエルが焼き上がったところですよ。一皿いかがかな?」
「わ、わあ……。よろしくお願いします。……ねえ、櫂さん、あの猫、私の
名前まで知っているみたい。なんだか、全部お見通しって感じがするね」
私は驚きと興奮で、自分の髪に結んだリボンの色が、見たこともないような
眩しいピンク色に変わっているのに気づいた。湖底の街のあの美しさ
とはまた違う、平和で、甘いミルクのような香りが漂う不思議な空間。
けれど、櫂さんは猫のウェイターと親しげに視線を交わした後、私の耳元で、
少しだけ声を潜めて、真剣な面持ちで言った。
「……紬さん、あまりの可愛さに惑わされないように。彼らは非常に誇り高い
魔法の専門家です。不用意に尻尾に触れたりすれば、あなたのその
リボンを、一生解けない呪いの結び目に変えられてしまうかもしれませんよ」
私は慌てて自分の髪を両手で押さえ、背筋をピンと伸ばした。ふわふわの毛
並みと、鋭い魔法の知性。一週間の馬車旅は、まだ始まったばかりだ。
私は、運ばれてきた「猫特製のムニエル」の香ばしい香りに、期待と緊張を
半分ずつ抱きながら、銀のカトラリーを手に取るのだった。




