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ロカシオン・マギ  作者: じょん-ドゥ


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第40話:揺れる馬車と遠い目的地

 湖底の街で迎えた、初めての朝。石畳を照らす太陽は、地上と変わらぬ

眩しさで窓辺に差し込んでいた。私は『虚空のストレージ』から、

昨日雑貨屋で買ったばかりの、持ち主の気分で色が変わるリボンを取り出

し、ポニーテールに結んで鏡を覗き込む。今の色は、期待に満ちた鮮やか

な黄色。私はかいさんの後を追い、宿の前に停まっていた重厚な

木造の乗合馬車へと乗り込んだ。

 車内は使い込まれた革の香りが漂い、銀色の彫刻が施された座席は

驚くほど座り心地が良い。御者が鞭を鳴らすと、二頭の逞しい馬が力強く

石畳を叩き、馬車は小気味よい蹄の音を立てて街を滑り出した。


「ふぅ……。ねえ、櫂さん。昨日のホテル、本当にすごかったね!

 ベッドのシーツが雲みたいにふわふわで、枕元では小鳥の鳴き声の

 魔法が流れるなんて。……私、横になった瞬間に眠っちゃったよ」


 向かい合わせに座る櫂さんは、窓の外に流れる朝の市場の活気を

眺めながら、優雅に足を組み替えて微笑んだ。


「それは良かったです。これからの旅路は、あんなに快適な夜ばかりでは

ありませんからね。……今のうちに、英気を養っておくに越したことは

ありません。魔法使いの移動は、体力勝負な側面もありますから」


 窓の外には、自動車もバスも、アスファルトを走る文明の利器は

一切存在しない。ただ、のどかな田園風景と、時折すれ違う別の馬車や、

大きな荷物を背負った旅人の姿があるだけだった。


「……やっぱり、移動は馬車なんだね。なんだか映画の撮影みたい。

 これに乗って、今日の夕方には『出張先』に着くのかな?

 それとも、もう少し時間がかかるの?」


 私は、窓の外を流れる景色に目を輝かせながら尋ねた。

すると、櫂さんは懐中時計の蓋をパチンと閉め、少しだけ

困ったような、それでいて楽しげな表情で私を見つめた。


「……夕方、ですか。つむぎさん、魔法の源流へと至る道は、

 そう簡単ではありません。この乗合馬車を何度も何度も乗り継ぎ、

 いくつもの険しい峠を越えて……。だいたい一週間というところですかね」


「えっ……!? い、いっしゅうかん!? 櫂さん、三日間の出張って

 言ってなかった!? 一週間も馬車に揺られるの!? 嘘でしょ!」


 私は思わず座席から身を乗り出し、叫び声を上げてしまった。

三日間というのは、あくまで「店を閉める期間」のことであって、

旅の全行程ではなかったのだ。櫂さんは悪戯いたずらっぽく笑う。


「おや、説明していませんでしたか? 時間の流れ方が地上とは少し違う

のですよ、この空白地帯は。……さあ、覚悟を決めてください。

あなたのそのリボンが、退屈で灰色に染まってしまわないようにね」


 一週間の馬車旅。私は愕然として、自分の指の二スロットを見つめた。

魔法使いの出張は、想像以上に過酷で、そしてあまりにも非日常的な、

本当の「大冒険」の幕開けだったのだ。

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