第3話:空への対価
ミント水の冷たさが喉を通り、
私の頭に突飛なアイデアが浮かんだ。
せっかく魔法のレンタル屋に来たんだ。
もっと「魔法らしい」ことが
できてもいいはずだ。
「……ねえ、櫂さん。
例えばさ、空を飛べる魔法とかないの?」
半分は冗談のつもりだった。
けれど、櫂さんは事もなげに頷いた。
「ええ、もちろんありますよ。
魔法名『鳥の翼』。
レンタル料は一万円になります」
「え、一万円!? 意外と安い……!
あ、いや、一万円は高いけど!
でも空を飛べるなら、アリかも」
テストの点数に千円払うより、
一生に一度の空中散歩に一万円。
女子高生の感覚からすれば、
それは十分に魅力的な「贅沢」だった。
しかし、櫂さんは真剣な面持ちで続けた。
「ですが紬さん。その魔法は、
あまりお勧めできませんね」
「えっ、なんで? 偽物なの?」
「いえ、本物ですよ。……ただ、
空を飛ぶ魔法には、相応の危険が
伴うからですよ」
櫂さんはカウンターに肘をつき、
淡々とそのリスクを指折り数えた。
「まず、空中で魔法が切れたら
どうします? 落下して終わりです。
保険として、空中に留まる魔法、
『浮遊』が必要ですね」
「……あ、確かに。それは怖い」
「次に、建物や鳥にぶつかりそうに
なった時は? クッションになる魔法、
『空気の盾』も
セットで入れるべきでしょう」
櫂さんの説明は、夢を壊すほどに
現実的で、かつ「商売」の匂いがした。
「つまり、安全に空を飛ぶには、
三つの魔法を同時に持つ必要がある。
……そうなると、紬さん」
彼はさわやかな笑みを深め、
棚の奥から一際輝く指輪を取り出した。
「三スロットの指輪が必要になりますね。
こちらの『器』は、お値段――
五十万円を頂戴いたします」
「……ご、ごじゅっ……!?」
一瞬で夢が雲散霧消していく。
空を飛ぶ一万円の裏に、
五十万円の初期投資が隠れていたなんて。
「レンタル料の合計が一万三千円。
指輪が五十万。……どうします?
空、飛びますか?」
櫂さんは試すような瞳で、
私の空のスロットを見つめた。
一スロットしかないこの指輪。
無謀な空中散歩か、
地道な追試対策か。
私は、自分の指先の重みを
これまでにないほど強く感じていた。




