第2話:再装填(リロード)の誘惑
テストの結果は、あまりに極端だった。
一時間目の英語は、学年トップの満点。
魔法名『追憶』を起動し、
教科書が脳内に投影される感覚は、
全能感に溢れていて、震えるほどだった。
けれど、魔法が切れた二時間目は地獄だ。
続く国語の解答用紙は、見るも無惨な白紙。
「一回きり」の重みを、私は身をもって知った。
天国から地獄へ真っ逆さま。
これなら、最初から魔法なんて知らない方が
幸せだったんじゃないかとさえ思う。
「……はぁ。結局、赤点回避ならず、か」
放課後。私は吸い込まれるように、
あのレンガ造りの店の前に立っていた。
都会と田舎の境目にある、静かな路地裏。
看板には今日も『Location Magi』。
重いドアを開けると、カランと鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ、紬さん。
おや、今日は昨日よりもさらに
どんよりとした顔をしていますね」
カウンターの奥で、店主の櫂さんが
さわやかな笑顔で私を迎えた。
彼は優雅な手つきで、
氷の浮かんだミント水を差し出してくる。
「テストの結果が悪かったのなら、
これで頭を冷やすといいですよ。
焦燥感という毒素を流し出しましょう」
「……余計なお世話。
それより櫂さん。明日のテストのために、
また『追憶』をチャージして」
私は千円札をカウンターに置いた。
一回千円。一教科分の勝利を買うための代金。
「毎度あり。……でも紬さん、
いつまでも一スロットの指輪では
不便でしょう? 五万円払えば、
二つの魔法を同時に持ち歩けますよ」
「……だから、五万円なんて無理だって。
そんな大金、どこにもないよ。
高校生の財布、なめてるでしょ」
「左様ですか。お金というものは、
あればあるだけ便利なものだと
思わされましたが……難しいですね」
櫂さんは本当に不思議そうに
首を傾げると、私の銀の指輪に触れた。
台座に淡い光が宿り、
魔法が『再装填』されていく。
「ところで、紬さん。このお店、
魔法のチャージだけじゃなくて、
お茶を飲みに来るだけでも
構わないんですよ?」
「え、いいの? 魔法のレンタル屋なのに」
「ええ。君がいると、この場所の
空気が少しだけ賑やかになります。
それは僕にとって、悪くない変化です」
さらりと、気恥ずかしいことを言う。
この人はこれが褒め言葉だとも
思っていないんだろう。
私は顔が赤くなるのを隠すように、
冷たいミント水を一気に飲み干した。
「……あ、そうだ。櫂さん。
勉強以外に使える、もっとこう、
『楽しい魔法』ってないの?」
「楽しい魔法、ですか……」
櫂さんは少しだけ考え込み、
棚の奥から古びた小箱を取り出した。
「例えば――他人の『小さな秘密』が
見える魔法なんて、いかがですか?」
その言葉に、私の心臓が小さく跳ねた。
魔法の沼は、一度足を踏み入れたら、
そう簡単には抜け出せないらしい。




