第17話:視線の高さ
「……櫂さん。結衣ちゃん、お母さんに
元気になってほしいんだって。
一番効く魔法、貸してあげられない?」
すがるような私の言葉を、
櫂さんは冷淡なほど静かな一言で
一蹴した。
「失礼ですが紬さん。それは
『聞き取り』とは呼びませんよ」
「えっ……。どういうこと?」
「お客様の希望を鵜呑みにするだけなら
ただの御用聞きです。魔法の扱いは、
皆さんが思うよりずっと難しい」
櫂さんはカウンターの奥で、
教え諭すように視線を険しくした。
「その願いが、本当に解決に繋がるか
判断するのは我々の仕事です。
相手は子供。子供の見ている視線と
大人のそれは、全く違います」
「……違うって、何が?」
「あらゆる可能性を考えるのですよ。
お母様が本当に病気なのか、
それとも別の要因があるのか……。
……紬さん、あなたの足で
『場所』を確かめてきなさい」
櫂さんの言葉の意図を、
私はすぐには理解できなかった。
けれど、結衣ちゃんの抱える
重すぎる貯金箱を見て、
じっとしてはいられなかった。
「……わかった。櫂さん、
ちょっと、外に出てくるね」
私は結衣ちゃんの小さな手を取り、
レンガ造りの店を後にした。
「結衣ちゃん。
お母さんの所に、案内して。
直接、会ってお話ししてみたいから」
小さな背中を追いかけながら、
私は櫂さんの言葉を反芻していた。
大人の視線、そして魔法の判断。
中途半端な街の夕暮れが、
私たちの影を長く、長く伸ばしていた。




