第15話:奇跡の処方箋
静寂を破ってドアベルが鳴り、
控えめな足音が店内に響いた。
カウンターから顔を上げると、
そこには一人の女の子が立っていた。
「……いらっしゃいませ。
……あ、こんにちは」
私は慌ててバイト用の笑顔を作る。
小学校の低学年くらいだろうか。
大きなランドセルを背負ったまま、
不安そうに辺りを見回している。
「……ここ、まほうのお店ですか?」
細い声で尋ねる彼女の瞳は、
泣き腫らしたように赤かった。
私は隣の櫂さんを仰ぎ見る。
彼はいつものさわやかな微笑みで、
少女と同じ目線になるよう屈んだ。
「ええ、左様でございますよ。
ロカシオン・マギへようこそ。
……お嬢さん、今日は何か、
探し物でもありますか?」
少女は震える手で、
ビニール袋に入った重そうな
ブタの貯金箱を抱きしめて、
必死に言葉を絞り出した。
「……おかあさんの、病気を、
治せるまほうを貸してください」
その真っ直ぐな、けれど絶望的な
願いに、私は息を呑んだ。
カタログに載っていた、
他人の人生に干渉する高額な魔法。
ましてや「病気」なんて、
一体いくらの値がつくのだろう。
「……お母様が、病気なのですか」
櫂さんは、感情の読めない
穏やかな声でそう返した。
少女はこくりと頷き、
溜まっていた涙を一粒、床に落とした。
「お医者さんも、難しいって。
……だから、魔法なら、きっと」
私は、思わず櫂さんの袖を引いた。
彼なら何か持っているはずだ。
けれど、さっき教わったばかりの
「十億」や「五千万」という
数字が、冷たく脳裏をかすめる。
櫂さんは、私の不安を知ってか知らずか、
少女が差し出した貯金箱に、
そっと自分の手を重ねた。
「病を癒やす魔法、ですか。
……それは、非常に高度な術式ですね。
場所を整えるだけでも、
かなりの対価が必要になりますが」
櫂さんの瞳が、
透き通るような冷たさを帯びる。
商売人としての彼が、
この小さな客に何を提示するのか。
私は固唾を呑んで、
その唇が動くのを待っていた。




