第14話:店主の匙加減
私は手渡された『魔法のカタログ』を
めくりながら、そのデタラメな
価格設定に目を剥いた。
「ねえ、櫂さん。これ、おかしくない?
『一瞬で髪が乾く魔法』が五百円で、
『隣の人の髪を濡らす魔法』が十万円。
……どういう基準で決めてるの?」
私の至極まっとうな疑問に、
櫂さんは紅茶を一口すすり、
事もなげに答えた。
「ああ、値段ですか。
あれはわりと適当に決めています」
「適当!? 商売なのに?」
「ええ。基本的には、自分一人で
完結する魔法は安く設定しています。
……逆に対象が他人になる場合は、
因果が複雑になるので法外な値段に
させてもらっているんですよ」
櫂さんは、まるでお天気の解説でも
するような平然とした口調で続ける。
「他人の人生に干渉する対価は、
それなりに重くあるべきでしょう?」
「……まあ、それは分からなくもないけど。
じゃあ、この『肉体強化』は?
自分にかける魔法なのに、一回百万って」
私が指差したページを見て、
櫂さんは少しだけ真面目な顔をした。
「それは、物理的に危険だからですよ。
魔法自体は単純ですが、
人間の筋力が限界を超えれば、
自分の骨を自分で砕くことになります」
「……う。……エグい」
「リスクの高い魔法を安売りして、
店内で怪我をされるのは不快ですから。
……抑止力としての金額設定、
と言えば伝わりますか?」
櫂さんの説明は、いつも合理的で、
そしてどこか人間味が欠けている。
「……結局、櫂さんの気分次第なんだ」
「ええ。私が納得できるかどうかが、
この店の唯一のルールですから」
私は再びカタログに視線を落とした。
ただの文字の羅列だった魔法の名が、
急に生々しい重みを持って迫ってくる。
そんな時だった。
カラン、と。
静かな店内に、客を告げる
ドアベルの音が、鋭く響いた。




