第13話:開店休業の放課後
期待に胸を膨らませて始めたバイト。
けれど、現実は甘くなかった。
『ロカシオン・マギ』の扉を
叩く客は、一向に現れない。
都会になりきれないこの街の、
静かな午後が過ぎていくだけだ。
「……ねえ、櫂さん。暇すぎない?
このままだと、私、
ただお茶を飲みに来てるだけだよ」
私はカウンターに突っ伏して、
手持ち無沙汰に指輪を転がした。
櫂さんは優雅に本を捲りながら、
さわやかに微笑む。
「無理に客を呼ぶ必要はありません。
魔法を必要とする人は、
向こうから勝手に見つけて来ます。
それが、この店の仕組みですから」
「……そうだけどさ。
じゃあ、せめて掃除でもするよ。
床とか窓とか、磨いちゃうから」
立ち上がろうとした私に、
櫂さんは事もなげに首を振った。
「掃除なら大丈夫ですよ。
毎朝、店全体に
『浄化』の魔法を
掛けていますから。塵一つありません」
「……魔法で解決かぁ。
じゃあ、お茶! お茶淹れるよ!
私だってそれくらい……」
私は意気揚々とキッチンに立ち、
教わった通りに茶葉を躍らせた。
けれど、自分で淹れた紅茶を
一口飲んで、がっくりと肩を落とす。
「……はぁ。やっぱり、
櫂さんが淹れた方が美味しい。
何が違うんだろう、悔しいな……」
私の愚痴を聞きながら、
櫂さんはクスクスと喉を鳴らした。
その反応がまた、少しだけ癪に障る。
「そんなに手持ち無沙汰なら、
紬さん、これでも見て
勉強しておいてください」
櫂さんがカウンターに出したのは、
古びた革表紙のぶ厚い本。
そこには、この店で貸し出している
『魔法のカタログ』が記されていた。
「ここにある術式を覚えておけば、
お客様への提案もスムーズでしょう?
……君の知らない魔法が、
まだまだたくさんあるはずですよ」
私はその本を、引き寄せた。
ページを捲るたび、
見たこともない魔法の名と、
それに付随する値段が並ぶ。
中途半端な街の、小さな店。
そのカタログの向こうには、
私の知らない広大な世界が
どこまでも広がっているようだった。




