第10話:変生の檻
眩い光が収まったあと、
私は恐る恐る目を開けた。
そこには、私を囲んでいた
あの怖い男たちの姿は、
一人として残っていなかった。
「……え? みんなどこに……?」
呆然とする私に、櫂さんは
いつものさわやかな微笑みを浮かべ、
ゆっくりと歩み寄ってきた。
彼は膝をつくと、
私の手首を縛る縄を、
魔法でさらりと解いてくれた。
「大丈夫ですか、紬さん。
怖い思いをさせてしまいましたね」
「櫂さん……なにが、どうなったの?
あの人たちは……?」
私の問いに、櫂さんは
何も言わず、静かに床を指さした。
冷たいコンクリートの上、
先ほどまで男が立っていた場所に、
小さな何かが蠢いている。
「……え、これって……」
よく見ると、それは数匹の虫だった。
甲虫のような、名もなき黒い虫たちが、
力なく足を動かしている。
「きゃっ、虫……!? なんで!?」
「彼らには、少しの間だけ
虫になってもらいました。
言葉の通じない獣よりも、
今の彼らにはお似合いの姿ですよ」
櫂さんは平然と、
まるで汚れ物を片付けた後のような
清々しい口調で言った。
「……えっ、じゃあ、これが……あの人たち?」
「ええ。十分に反省ができれば、
いずれ元に戻るでしょう。
もっとも、虫の脳みそで反省ができるか、
私にはわかりませんが」
櫂さんは立ち上がり、
私の肩を優しく抱き寄せた。
その手の温もりとは対照的に、
彼の言葉からは、
やはり恐ろしいほどの欠落が透けて見えた。
「さあ、帰りましょう。
新しいハーブティが、
お店で待っていますよ」
私は、足元で蠢く虫たちを
踏まないように気をつけながら、
櫂さんに支えられて倉庫を出た。
中途半端な街の、静かな夜。
魔法は救いにも、地獄にもなる。
その真実を噛み締めながら、
私は彼の隣を歩き続けた。




