第3話
少年「おい、おいってお前か、例の発掘戦車を買いたいっていう
どっか金持ちの付けた交渉役って」
街角でライフルを持った少年にひそひそと声をかけられる
(少年兵...珍しい、こっちも成金趣味ってことね...)
時計を見ると時間より2分遅い
「うん、そうだよ」
少年「じゃあついてこい、それと名前は?」
早朝の市場へと歩き出す
(今日の名前は...MA886だっけ)
「名前は...MA886、A8って呼んでもらえる?」
少年「A8ィ...変な名前だな」
露天商「おーい」
手招きされるままに少年が露天商の方に走っていく
露天商は果物を渡し、二人が親しそうに会話しているのが見える
(...)
辺りを見渡すと窓が溶接され塞がれたビルの2階から
子供がこちらを見ているのが見えた、少年が戻ってきた
少年「行くぞ、それとこれ貰ったけどお前は...無理か...」
「そう?私は食べられるけど、ひとつ貰うね」
果実を一つ取り、ほうばって少年についていく
(毒はないみたい...)
そのまま歩いていくと大きな建物の入り口が見えてきた
少年「着いたじゃあここで暫く待ってろ」
暫くすると銃を持った女が出てくる
ついてくるように促され、中に通される
銃を持った女「武器とシステムは?」
「指定通り持ってきてない、システムも起動してないよ」
首のポートに検査機の端子を刺して画面を見る
銃を持った女「チッ...ウチの機械じゃ火器管制システムに繋げないか...、
ほんとに戦時中の機体なのかよ、じゃ腕にある内蔵用のウエポンラック、見せて」
袖をまくってウエポンラックを開くと、
銃を持った女が内部を指で確認する
銃を持った女「武器は...ないみたいね、じゃあこれを」
抑制剤を渡される、体内の原子炉をスクラム(緊急停止)させる薬剤だ。
(こういうある程度の専門知識を持った闇ブローカーもいるんだ
セキュリティーテープはそのまま、張り替え痕も不審な穴は無し、混ぜ物はない感じかな?)
首からチューブを引き出して薬剤を体内に入れると
徐々に体温が下がるのを感じる
銃を持った女「じゃあついてきな」
そのままついていき貨物用エレベーターで6階まで上がる、
戸が開くと微かに香の香りがする豪奢な通路が広がっていた
(まるで下とは別世界ね)
そのまま応接室に通された、
女が一人座っておりその後ろに銃を持った護衛が二人見える
周りの人間の表情には緊張や恐怖が見て取れる
女「あなたが、向こうの言ってた交渉役のアンドロイド?
部品はともかく動いてるのは初めて見たけど...」
「そうです、以後があればお見知りおきを」
女「じゃあ座って、話を進めよう
でもその前に、今システムを起動してないって何か証明して」
ソファに座ってテーブルの上を見る
「失礼ながらそこのペンを借りても?」
女「構わない」
手のひらにペンを突き立てると赤い血が流れ出す
「これでどうですか?」
女「...わかった」
「ペンが汚れちゃいましたね、新品のをあげます、
こちら製の頑丈なペンですよ」
袖から新しいペンを出すと、女の後ろにいる護衛が銃口を向けてくる
女「これは貰っておく、じゃ話に進もうか」
「わかりました、それじゃ、通信機を出すから、撃たないでね」
古い携帯を取り出し画面を開いてテーブルの真ん中に置く
女「...」
「見た目はカモフラされていますが、軍用通信機です
秘匿通信で彼女と直通で話せますよ」
話し終えた直後、相手が口を開こうとした瞬間、
静寂を破って携帯の着信音が鳴る
(あとは交渉次第...)
恐る恐る女が携帯に手を伸ばして通話し始める
通話中、ハンドサインで誰かと意思疎通しているのが分かる
「...」
背後から人の移動音がする
(体臭からして20歳前後...男一人と女一人、足音と体重からして
武器は諸島国家の5.56ミリKシリーズ...射撃は両方苦手なタイプかな?)
通話が終わった
女「交渉は破談になった、お前の処遇は...条約通り勝てたら好きにしろだと」
(真意は分からないけど、また騙されちゃったパターンね...そういう真っ直ぐなとこがいいんだけどね)
女「開始はお前とお前の飼い主の話し合ってお前が了承した後だ」
携帯が戻ってくる、手に取って耳に当てるとスピーカー越しに声が聞こえる
???「......」
「うんうん...分かった、じゃあね、いいよ始めて」
後ろで銃のトリガーに指をかける音がする
(当然構造的に弱い後ろから来るよね)
電話を切り携帯をしまうふりをして腰元のダイヤルを回し
クーラントタンクのイジェクトコックに手を伸ばして引く
座った状態から転がってテーブルの下に滑り込み手足で胴体や頭を守る。
(最低1時間くらい動ければいいかな)
金属音と共に首筋から放出された二本の小さな金属管と燃料の不安定魔素が放出され
規定量以上の液体アンモニアを注入された容器が破裂した
人がパニックに陥ったり発砲を制止しようとしているのが見えた。
(爆発力は大雑把にTNT800グラム分くらい?)
銃の発砲で気化した少量のアンモニアと結合した魔素が爆発を起こす
...
「痛...」
即座に体を触って状態を確認する
(内臓は体の中にある、手足は動く、でも衝撃で外皮の気密が破れてちょっとアンモニアで火傷しちゃった...)
腕に刺さった木片を引き抜いて姿勢を低くしたまま中腰で移動して辺りの死体から使える物を探す
「ふーん」
(植民地工業の9ミリNシリーズね...やっぱりお金のあるとこはいい武器持ってるんだ)
セーフティーを外しスライドを少し引いて弾倉を見る、手を放してもう一度スライドを引いて初弾を取り出す
(当然弾は入ってるよね、これは...赤の線が引いてある、見たことない弾)
ドアの隙間に足の影を見て、電気を消して銃に給弾して目を閉じて眼の光を消し部屋の角の陰に隠れる
慌ただしく大人が少女兵を引き連れて入ってくる
(正規軍の並みの編成で来るんだ...結構大所帯なのかな?)
全員が室内に入ったところで体当たりで扉を閉め木片を隙間に詰め、
銃で視界を奪った敵を倒していく、閃光が瞬き、やがて静寂が訪れる
(ジャムったし、ちょっと弾が当たった...)
電気をつけて傷口にショートした電線を押し当てる
(充電にもなって一石二鳥!痛いけど...)
残った2発の弾を手動で排出して銃を捨てて、少女兵の持っていた武器を拾い
(この少女兵、体は半機械...子供に生殖可能な年齢の肉体を与えるための
精神分割システム由来の短命の使い捨て兵ね)
腹を撃って無力化した大人を足で蹴って起こして聴く
「それで、発掘戦車なんだけど、あるの?ないの?、教えて」
???「はは...それは...言えるわけがないだろ」
腹の傷口を踏みつけて体重をかける
「戦車は?どこにあるの」
???「...」
「無駄みたいだね」
銃の引き金に指をかける
???「わかった...分ったから、話すから殺さないで...」
「じゃあ時間がないから手短にね」
???「戦車は市警に売った...」
「それだけ?」
「それと軍用の精神拡張システムが2階...」
銃の引き金を引く
「ごめんね...時間切れみたい」
死体から奪った服を引き裂いて銃に巻き付け、地面に落ちている大きなガラスの破片を拾って
反対側の扉を少し開けて外を伺う
(トラップや人影はない...ね)
パニックになった人混みの中を進んで行くと木造の階段に行き着いた標識に目をやる
(T1規格ってことは私は通れない)
下に目を向けると銃を持って駆け上がる人の姿が見える
(すぐ殺せる距離だけど弾の無駄、非常階段かな)
標識に従って非常階段に進み、下っていく
こちらでも階下に銃を持った人間が登ってくるのが見える
(眠い...今は5階くらいで相手は15人くらい、オーバーヒートまで37分くらいだからギリギリかな)
意識を失わないようにガラス片を足に突き立て、銃を構える
上から狙って致命傷を避けて当てて負傷者を増やして行動を縛って、足を止めたところ狙って数を減らしていく
(銃声で位置がバレたから急いで移動しないと)
駆け下りて撃ち切った銃を捨てて死体から銃を奪って2階に入る
扉の向こうには薄暗くかび臭いコンクリートむき出しの生活感のある通路が見えた
(これは...電力を使いこんでるせいかな?)
追撃されないよう防火シャッターを下ろして慎重に通路を進んで行くと、赤ん坊の泣き声が聞こえる
音の元になっている部屋を拾った鏡で向こう側を覗くと子供がベビーベッドを中心に
固まっている、子供部屋のような部屋が見える
(古典的なトラップね...左の本棚、銃口が丸見えだから子どもも爆弾持ちかな)
パチンと銃をフルオートに変えて部屋を制圧し、赤ん坊の泣き声が止んだ静かな部屋に慎重に踏み入いる
こつんと、足に見覚えのある果物が当たる、倒れた子供の傍らには銃やナイフが落ちていた
「あー今朝の...誰だっけまあいいや」
(生きてても私みたいに幼年期の喜びも知らないまま、自分か、自分だった
他人の影法師として生き続けることになってたし、今ここで死ねただけラッキーかな)
部屋の奥の扉を慎重に上げると、チューブに繋がれた人体がぶら下がっていた
(情報は確かだったみたい、誰もが望む姿になれるけど、
誰もが望んでその姿になるわけじゃないって、技術の罪なとこよね)
装置に自己破壊コードを打ち込んで止める
(あとは脱出するだけ)
廊下に戻って進むと左に多数のライトがチラチラと見えた
見つかる前に銃を捨てて肘で窓を割って民家に侵入する
(これだけ可燃物があれば十分かな)
コンロから火を移して家の中に火を放つと火災報知器がけたたましくなり
火が見える頃には通路が他の家の住民でごった返す状態になり、そのまま人に紛れてすり抜けた
(この辺かな)
壁面にある防火シャッターの閉鎖スイッチを叩いて閉じ込めた
(あともう少しで外に出られそう、残り時間は15分間くらい?)
子供が手を振っていた開放型のバルコニーから飛び降りる、着地すると路面が割れた
同時に温存していたバッテリー式の光学迷彩を起動して現場を離れる
...
≪警察の施設でテロ、多数の職員が変死...アパート火災...≫
クーラーが心地いいカフェで椅子に座り新聞を読む
店員「あ、お客さん新聞読んでるんだ...どうです?最近物騒な事件ばっかりでしょう?」
「だね、でも本当に何もないよりかはいいのかも?」
テーブルの上の古い電話が再び鳴る




