38話 体育祭と事件4
人質さえいなくなれば後はあっという間だった。
怒り狂ったエドヴィンさんを中心に襲撃者を次々倒して無力化し、告白してきた先輩が「教師に知らせてくる」と言って去って行った。
そして私はトイレに行かせてもらった。この騒動で忘れてたけど元々トイレに来たんだよ!
それからアーヴァさん達が女子更衣室兼おトイレに確認しに行き何があったのかと言うと……
人の入れそうな場所を確認していて、ロッカーを開けたら掃除道具がドサッと倒れてきて驚いて声を出したらしい。
なんだ、何もなくて良かった。
何か音の鳴るおもちゃがあってこっちの音とか聞こえなかったらしくて、そのまま片付けしてたから時間がかかったんだって。
女子更衣室兼おトイレは防音なんだけど、こっちに何かあったら分かるようにちょっとドアを開けてたんだよね。
お兄ちゃんは女子寮まで晶さんが無事か確認しに行っている。
……何か、本当に計画的な襲撃だよね。
私を狙って物投げてくるのから始まり、トイレに来てからの男子生徒の襲撃からロッカーの掃除道具落下から襲撃者達のフリッツの誘拐まで。
偶然だなんて言われても信じられないよ。
それから先生達が来て警察が来るとかちょっと騒ぎになった。
体育祭とかやってる場合じゃなくなってこの後は中止になってしまった。
私のせいじゃないけど、私やエドヴィンさんを狙った犯罪者のせいでこんなことになって申し訳ない(´;ω;`)
「あのっ、ありがとうございます!お陰で怪我一つなくフリッツを保護できました。
それからその、体育祭中止になってしまって……申し訳ないです」
「私からも礼を言う。息子を助けてくれてありがとう」
「私も!ありがとう!君達カッコよかったよ!」
「……いや、礼を言われるようなことはしてねーし。体育祭はまた来年あるから別にいいさ」
「不審者見ちゃったからね、放置はできないよ。それに中止は花美さんのせいではないので気にしないでください。時雨も気にしてないので」
「あぁ。何度でも挑戦するさ」
私とエドヴィンさんがお礼を言い頭を下げると、続いてアーヴァさんも笑顔でお礼を言ってくれる。
告白してくれた男子生徒、伊沢時雨さんは少し照れたように頭をかき生徒会に誘って来た先輩、伊沢紫苑さんはニッコリ笑顔で言う。
2人は双子らしいよ。
時雨さんは不器用だけど優しい不良って感じで、やっぱり紫苑さんはちょっと胡散臭いな。
でも今回体育祭が中止になってしまったから、伊沢さん…えっと時雨さんの方の全種目1位が無理になってしまった。
そもそも中止にならなくても、助けに来てくれたからその間の競技は欠席してるし。
ほんと申し訳ない。そんな私を気にしてか時雨さんは笑顔でこう言ってくれた。
「マジ気にすんなって!俺が夫になれるかより人の命の方が大事だろ」
ウルフヘアの黒髪に鋭い目と日に焼けた肌のイケメンで、狼のようなイメージを最初感じたけど。
ニカッと笑って言う今の彼はサッパリした好青年で清々しい人だ。
知らない人に襲われ人質にされて怖い思いをしたフリッツは、お父さんにギュッとしがみつき抱っこされてる。
それを時雨さんは優しく見ている。
素敵な人だなと思った。
自分の利益より当たり前に人助けを優先させることができる人だ。
そんな人中々いないよね。このまま別れるのは惜しいと思って、勇気を振り絞って言ってみる。
「あっ、あの!よければ私の夫候補になってくれませんか?
きゅ、急にこんなこと言われても困るかな?えっと、友達になってくれたら嬉しいです」
「っ、いいのか!? 全種目で1位になってねーけど」
「え?えと、全て1位じゃなきゃ私の夫になれないわけじゃないよ?
え?なんかそんなルールあるの??」
夫候補である必要はないけどここだと異性と仲良くなるにはそれしか思い浮かばず提案してみた。「友達になって」も告白してくれた相手に無神経だけど、このまま「さよなら」はしたくないなと思って。
嫌がられるかなと思ったりもしたけど、彼は驚いて「いいのか?」と確認してくる。
え?優秀な人じゃないと女性の夫になれないの?顔や性格で選んでる人だっているよね?
なんか不安になってみんなを見ると目を見開いて驚いている。
……えっと、私が夫に誘ったから驚いてるの?常識知らずだから驚いてるんじゃないよね??
あっ、アーヴァさんだけ目を輝かせてる。
「しぐれみたいな男なら、私は大かんげいですヨ!
でも花美から誘われるの羨ましいです!正直しっとした!」
アーヴァさんはライバル出現に怒ることなく歓迎してる。嫉妬したなんて言ってるけど笑顔で嬉しそう。
ほんとその負の感情のなさ見習いたいです!でも、ちょっとくらい嫉妬してくれてもいいのに…なんて思ったり。
……ううむ、気をつけよう。
「あぁ。俺も君なら歓迎する。多分大和もいいと言うと思う。君ならね」
エドヴィンさんも賛成してくれて時雨さんに笑顔を向けるが、紫苑さんには鋭い目を向ける。
うん、紫苑さんはやっぱり胡散臭いよね。恩人だから色々言うのもあれだけど、ちょっと信用できない感じがある。
現に今も「酷いなぁ〜。僕もその子を助けた功労者なのに。双子なのに夫になれるのは時雨だけか〜」なんて笑顔で言っている。
ほら、本当の感情を顔に一切出さないの。ちょっと怖いよね。
「2人は双子なんですよね?顔は似てるけど大分イメージが違うというか……」
「あはは、よく言われますよ。似てないって」
「だな。性格も趣味も合わないから、一緒なのはメイが好きなことだけだな」
ワイルドで不良みたいな感じだが優しい時雨さんと、サラサラ黒髪にスラッとした優等生って感じの紫苑さんは大分イメージが違う。
顔は似てるし兄弟か親戚かなと思ったら双子だと聞いて驚いた。
性格も合わないんだ。まぁそうだよね、不良と優等生だもんね。
でも2人ともメイのファンなのか。……うぅ、恥ずかしい。
赤くなった顔を見られたくなくて俯くと周りから「可愛い」
「可愛い」って聞こえてきて居心地が悪い。
そうこうしているとお兄ちゃんがやって来て晶さんは無事だったと話してくれた。
部屋に誰か尋ねて来て呼び鈴を鳴らされたけど不審者は無視するよう言われてるので出ずにいたら、音もなくベランダから侵入してきてたみたいで後ろから首にドスッて何か衝撃がきて気絶しちゃったらしい。
ベランダから侵入怖っ(((;゜Д゜))) そんな周りから登ったり移って来れそうなとこなかったよ!?
上から?他の人の部屋のベランダ使ったのかな? 協力者がいたってこと?
晶さんは自分がしっかりしてなかったせいだって自分を責めてるらしいよ。
全然そんなわけないじゃんね!犯人が絶対悪いんだから!
それと……
後で分かったことだけど、女子生徒の中にも今回の襲撃の仲間がいて晶さんを襲った人を女子寮に手引きしたらしい。
御園姫子さんの夫の1人からお薬を貰ってて、今回の協力もお薬の為だって。
御園さん、そんなにエドヴィンさんが欲しいんだね。こんな大騒ぎ起こしてまで。
ちょっと、ううん、かなり引くよ。
しかもね、今回の騒動で女性達は誰も裁かれなかったの!
御園さんも協力してた女子もお説教だけ。転校してったけど。
御園さんの旦那さんのヤクザみたいな人やお医者様みたいな人達は逮捕されたんだけど。
ヤクザみたいな人は本物のヤクザだったみたい。裏社会に通じてて今回の事件の主犯らしい。怖い(((;゜Д゜)))
「俺もお前みたいな奴なら歓迎するぜ!俺は花美の兄の藤岡大和だ!よろしくな時雨!」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」
「花美が卒業するまではキスも不要な接触も禁止な!破ったら追い出すからな!」
「……ウッス!」
戻って来て事情説明してくれたお兄ちゃんは時雨さんのことを聞くと笑顔で歓迎していた。
すごいな、時雨さん。こんなみんなから歓迎されるなんて。
私も嫌な感じ全然しないし人徳なのかな?お兄ちゃんは相変わらず笑顔で圧かけてるけど。
「僕はだめなんですかね?」「お前なんて絶対だめだ!」
と、笑顔で自己アピールする紫苑さんはちゃっかりしてそう。全力で拒否されてたけど。
「ええなんでだろ?結構評判良いんだけどなぁ僕。時雨はいいのに何で僕はだめなんだろ?」なんて不思議そうに呟いてるけど、滲み出る腹黒さが隠せてないよ!
時雨さんもそんな様子に戸惑ってた。
いつもならみんな紫苑に騙されて自分は信用されないのにって。
あぁ、その言葉だけで時雨さんが苦労してきたの察したよ。
「花美は人の内面、見てるからね!表面でだまされない!」って私を過剰評価しないでアーヴァさん!
うんうん頷かないでエドヴィンさん!
「仕方ないな。では僕も同じ戦略でいくよ。
この1年の全ての試験で首席だったら僕を貴女の夫にしてください。貴女を本気で愛してるんです」
私の前で地面に片膝をついて真っ直ぐ目を見て告白してくれる紫苑さん。
その言葉も全て本気なんだと分かるから少し戸惑うけど。でも……
「えっと、ちょっと無理です。ごめんなさい」
「えぇ!?なんで!?」
私が速攻で拒否したことに紫苑さんだけじゃなくみんなが驚いてるのが分かる。
あ、みんな受けると思ったの?アーヴァさんもエドヴィンさんも驚いてる……
確かに、真摯に思いを向けてくれてるの分かるけど、紫苑さんからは心根の綺麗さが感じられないんだよね。
本当に私のこと好いてくれてるのは分かるから申し訳ないけど。
「紫苑さんは他人のことなんてどうでもいいと思ってませんか?」
「……いや、そんなことないよ。
困ってる人がいれば助けるし、実際に役に立ててるかは分からないけど協力は惜しまないよ?」
「それって他人からの評価を気にしてやってるだけじゃないですか?自分の評判が下がると困るからしてるだけで、その人を思ってしてることじゃなく」
「……」
申し訳ないけど思ったことを正直に話してみると、紫苑さんは目を見開いて驚いている。
他人から指摘されたことなかったのかな?あ、時雨さんも驚いてる。
この兄弟って他人からの評価が全然逆なんじゃないかな。実際の本人とはかけ離れた評価をされてきたのかも。
居心地悪くなって紫苑さんから少し離れてから彼を見ると、紫苑さんの首にエドヴィンさんがナイフを突き付けていた。
ええ!? どういう状況!?
「しおんが花美に触れようとしたから、エドヴィン止めた」
「こいつは花美を引き留めようと手首を掴もうとしたので」
……えっと私の手首を掴もうとしたからエドヴィンさんが首にナイフを突き付け止めたと。
な、なるほど!理由は分かったけど怖いからやめようそういうの!普通に止めればいいじゃん!
紫苑さんを見ると彼はじっと私だけを見詰めていた。
「花美の言う通りです。僕は他人に一切興味がありません。
もし目の前に死にそうな人がいても顔色1つ変えることなく素通りすることができます。だって他人なんかどうでもいいから。
僕にとって大切なのは僕自身と、双子という特別な存在の時雨だけだったから。
でも、今は違います。貴女に出逢ったから。僕は僕以上に大切な貴女という存在に出逢ったんです。
だから絶対に貴女のことを諦めません!心の底から欲しいと渇望しているから。僕は貴女だけを愛しています!」
紫苑さんのドン引きなクズっぷり発言に引いていたら、ストレートな愛の告白に顔が熱くなる。
うう!みんなの前で告白するのやめて!恥ずかしい!!
暫く恥ずかしさから顔を伏せていたが落ち着いて顔を上げると周囲の人々の顔色が悪かった。
どうしたの?
えっと、私は気付かなかったんだけど、私が俯いている間に男性同士の殺気の飛ばし合いがあったらしい。
えっと、何のバトルなのかな??




