37話 体育祭と事件3
※犯罪話し注意!
「あぁ、やっぱり欲しいわあの男」
足元まである長く深海のような青い髪に澄んだ空のような青い目、艶やかに輝く赤い唇の右下に黒子のある酷く整った美しい顔をした女がうっとりと1人の男を見詰め呟いた。
エドヴィン・シュミット。元KSKのドイツ軍人で俺達みたいにちと荒事を嗜んだ程度の男じゃ勝てない本物の強者。
金髪青目の端正な色男ってのもポイント高いんだろう。
もう1人ご執心だったアーヴァ・ナートの方は髭を生やしただけで興味を無くしてたがよ。
チッ、たかが髭が生えたくれーで何が気に入らねーんだか。どっちにしろ優秀な男であることに変わりねーのにな。
俺だって髭のないあの可愛い顔を屈辱と羞恥で歪められたら最高に興奮するが、髭を生やした男らしい男を喘がせるのもまたたまんねー。
想像しただけでおっ起ちそうな逸物を宥める。こんなとこで勃起してたらドン引きされるだろ。
チラリとアーヴァを見て溜息を吐いた。
残念だがあれは手に入らねーからな。
俺達と姫子は夫婦というより共犯者だからな。
俺達は姫子とも楽しむが他の女とも夫達同士でも楽しんでる。ただ鈴木だけはガチのゲイだし姫子もこんな不摂生な痩せ男興味もねー。
俺は鈴木ともヤることあるけどあいつキモいんだよな。舐め星人だから。
姫子はただあいつの作る薬が欲しいだけで、あいつも魅力的な男達を手に入れられるから姫子と結婚してるだけ。
まさしく共犯者だろ?
あの綺麗な軍人さんを何としても手に入れてーな。
ジュルリと舌舐めずりするとギロリと鈴木に睨まれたので答える。
「分かってるよ。新入りはみんなで可愛がる。だろ?」
「前の子は姫子と2人だけで楽しんでたくせに」
「あれは姫子に文句言えよ。薬が回り切るまで我慢できなかったあの女のせいな」
「僕だって楽しみたかったな〜。酷いよ2人だけで抜け駆けなんて」
白衣を着た目の下にクマを作った痩せ男鈴木が恨めしげに呟き、それに答えるとイケメンアイドルのリクが唇を突き出し文句を言う。
リクは女みたいな華奢な体と可愛い顔をした赤い髪と目をした男だ。
男女どちらからもモテるしどちらもいける。
そんなリクが数週間前に女の方を落とし、男の貸し出しを了承させた。
男は俺達の大好きな優秀で一途な良い男だったからな。すぐヤれる相手は楽だが手強ければ手強い程興奮するからな。
姫子にもリクにもなびかないし警戒心も強い男だから、薬を盛るのも中々大変だったぜ。
姫子の噂は出回ってるし警戒するのも当たり前だけどな。
こちらが出した食事は一切口をつけなかったが、まさか水道水に直接媚薬が混ざってるとは思わなかっただろう。
水道水なんて飲むだけじゃなく手洗いシャワー風呂でも使うからな。遅効性で効果は長いし気付いた頃にはもう遅い。
それから本当は鈴木が帰って来るまで待つべきだったんだが、姫子は我慢できない動物だからな。しょーがない。
そのせいで鈴木がブチギレて媚薬はもう渡さないとか言いだしてほんと大変だった。
あいつがいなくなったら媚薬が手に入らなくなる。囲ってる男達が正気を取り戻して出て行くかもしれないし。
媚薬には中毒性はないんだよな、麻薬じゃないし。「可愛い僕の恋人に危険なものを使うわけにはいかない」だろ?
俺は別に構わないんだが、壊したりしたら鈴木がブチギレるからな。
あいつにとってはみんな自分の恋人だからな。
「ほんとに忌々しいわ。あの女」
ギロリと一点を見詰め睨みつける姫子の様子に笑いそうになる。
いかんいかん。こいつ怒らせるとめんどくせーんだよ。我慢しないと。
姫子が睨んでる相手は藤岡花美。メイって名前でVTuberなんかやってる変わり者の女。
見た目は普通だが他の女とは違う特別な女で、欲しいなと素直に思う。
メイとして見ていたときからその存在が信じられず、実際見てみたら一目で分かる他の女と違う温かな雰囲気を纏っている。
全ての罪を許して抱き締めてくれそうな、実在しなかった聖母のような女。
欲しいな。
それに、あの女を先に落とせば優秀な男達が全部手に入るんだからそうすればいいのに。
周りの男共や俺達が花美をいいと言ってるのが、プライドの高い姫子には許せねーんだよな。
最近は自分に寄って来る男が「メイちゃんメイちゃん」言ってくるのも腸が煮えくり返るくらいムカついてんの。
表面に出さないのは他の女より立派だが、中身はどす黒い。
八つ当たりされる男達が可哀想〜。
まぁ喜々として鈴木が慰めてやるんだろうけど。
姫子はあの女いらないんだし何とか手に入れてーな。
あの清らかな女が快楽に歪む姿を想像すると、穢してはいけないものを穢すような背徳感が生じて酷く興奮する。
「欲しいな〜メイちゃん」
「同意。裸にひん剥いたらどんな反応すんだろーな?」
「ハハッ、真っ赤になっちゃいそう!」
俺達は飢えた獣のような目を藤岡花美に向けている。
メイを見れば見る程、学校で藤岡花美を見掛けるほど欲しくなるが、近付けない。
遠くからチラッと見るだけなのに、あの女の護衛達はその度にこちらに気付き殺気を送ってくる。
顔もよく優秀で、その上誰もが欲しがるメイに侍っている。羨ましく憎らしい男達。
でもさ、こっちばっか気にしてる場合じゃねーよ?花美の婚約者殿。
決闘なんてやって俺達がどう動くか見てたみたいだけど、敵は俺達だけとは限らねーぜ?
「ちょっとお手洗いに行ってくるね!」
「私も行く〜!」
「気をつけて行きなさいよ」
おトイレに行きたくなってきてそう伝えるとマリアちゃんがついて来た。
麗華ちゃんは御園さんを見ながら忠告してくれる。それにコクンと頷いた。
多分、彼女のこと監視してくれてるんだと思う。
御園姫子さんがヤバい人ってのは麗華ちゃんやみんなの発言で分かってるからね!
私に物が飛んで来るのが彼女と関係するかは分からないけど、みんなは彼女が犯人だと思ってるみたい。
私としてはそんな危険人物にエドヴィンさんが狙われてるって分かったからそっちの方が不安だ。しっかり守らないと!
絶対にエドヴィンさんから離れないよ!
ちょっと恥ずかしいけど、おトイレまでの道中マリアちゃんに握られたのとは逆の手でエドヴィンさんの手を握る。
するとパァッと嬉しそうな笑顔を向けられて顔が熱くなる。うぅぅ、私が彼らに勝つ日は来るのかな?
お手洗いへの道中が一番人通りが少なくなって危険だから、周囲を警戒しながら歩く。
学校の生徒達も心配して付いて来てくれようとしたけど、それはちょっと……とご遠慮させて頂いた。
トイレまで大勢に同行されるって嫌すぎるからね!
「ちょっと見てくるよ!」
「俺も確認してくるね!マリアちゃん!」
「うん!お願いね!」
「うん!よろしく!」
おトイレに着いてアーヴァさんとマリアちゃんの護衛となった男子の1人が確認しに行く。
彼らがおトイレを確認しに離れてすぐに異変は起きた。
「メイちゃんのフリをした売女が!天誅を喰らえ!」
突然廊下から来こえた怒声に振り向くと、包丁を持った男性が私に向けて走って来る所だった。
驚いていると、「わっ!」「うわっ」とおトイレの中からアーヴァさん達の声が聞こえそっちにも気を取られる。
「アーヴァ!?」
「きゃっ!」
襲って来た男性はサッとエドヴィンさんに包丁を持つ手をとられて足を払われ床に倒され取り押さえられる。
その流れるような早業に目を奪われそうになるが、アーヴァさんは無事かとそちらに意識を向けたらマリアちゃんの悲鳴が聞こえた。
慌てて見ると見知らぬ男達が12人程現れていて、マリアちゃんのお父さんと男子達がマリアちゃんを庇って戦っていた。
マリアちゃんのお父さんの1人は床に倒れていて、もう1人男子生徒が斬りつけられ腕を押さえた。
刃物を持ってるの!?マリアちゃんのお父さんは無事!?
すぐにお兄ちゃんも戦いに参加し乱戦になったがお兄ちゃんとマリアちゃんの護衛3人の4人対12人だよ!
人数差があるから……ってエドヴィンさんがこっちに助っ人に来てくれた!
捕まえてた男性はどうなってるのかと見ると両手を縛られ気絶でもさせたのかぐったりと倒れてる。
殺したりしてないよね??
「おっと、動くなよ!」
「フリッツ!」
「Papa!(パパ!)」
「フリッツ!?」
エドヴィンさんが動こうとしたら犯人の1人がフリッツを連れて現れた。それを見て全員が動きを止める。
まだ3歳の幼児の手を紐で縛って乱暴に引っ張り首元にナイフを突き付けるなんて信じられない!
ギッと睨みつけるとなぜか犯人達が少し怯んだ。
「動くんじゃねーよ!このガキがどうなってもいいのか!」
「えっ、何!? フリッツ!?」
「は?どっ、どういう状況ですか!?」
犯罪者の1人がフリッツを人質にとっている状況で、おトイレを見に行っていたアーヴァさん達が戻ってきて驚いている。
そうだよね!中で何があったのか分からないけど、戻ってきてこれは余計意味が分からないよね!
私も訳が分からないよ!!
フリッツは晶さん(ベビーシッター)が面倒見てくれてたはずだから、晶さんが今無事なのかも分からないし!
でもヤバい!
エドヴィンさんを見ると犯人を睨みつけているが、エドヴィンさんもお兄ちゃんもアーヴァさんだって絶対にフリッツより私を優先する!
他の人も同じだろう。この世界は女性優先なんだから!
このままじゃフリッツが殺されちゃうかもしれない!私が何とかするしかない!
「はい!提案があります!!」
「だめだ!犯罪者とは何も話すな!」
「ここにいる人達はフリッツより私を優先すると思うので、人質に立候補します!」
私が手を上げると即お兄ちゃんに却下されたが、諦めない!
ピンッと真っ直ぐ挙手して人質立候補した私をポカンと見る一同。
やめてその目、こいつ何言ってるんだ?って目をするの!お兄ちゃん達は私がそうすると分かってるから焦った顔をしている。
ゆっくり襲撃者の方へ歩いて行くが、「だめに決まってるだろ!」とすぐにお兄ちゃんに腕を掴まれ止められた。
「離してお兄ちゃん!」
「女性と人質交換なんてさせられるか!」
言い合いを始める私とお兄ちゃん。しかしその隙を突いてエドヴィンさんが突っ込み襲撃者を何人か倒した。
「エドヴィン!? だめ!」
慌てて静止するがエドヴィンさんは止まらず、更にアーヴァさん達まで参戦してしまう。
フリッツを人質に取っている男は迷った後フリッツの首に当てたナイフを……
「だめっ!やめて!!」
もうだめかと目を閉じようとした瞬間、バッと男の腕を掴み捻ってナイフを落とさせた男性と、彼と一緒に周囲の男達を蹴り飛ばし素早くフリッツを抱えて犯人達と距離を取る男性が現れ目を見開いた。
「あ、あなたは……そっちの人は生徒会誘ってきた……」
「こんな形で再会とか、ちょっと思ってたのと違っちゃいましたね」
「いいからちゃんと守れよ紫苑」
「分かってるよ時雨」
颯爽と現れてフリッツを救出してくれたのは体育祭が始まってすぐ夫に立候補しに来た男子と、数週間前生徒会に誘ってきた男子だった。




