閑話 取材申し込み
「ぜひ!ぜひ!お願いします!!」
「無理」
「そんなこと仰らず!どうか花美さんに取材させてください!!」
もう何度目になるか分からない90度のお辞儀を受け、うんざりしながら断る。
今俺は学校の応接室で何度断ってもしつこく取材申し込みをしてきた記者と応対している。
今までのジャーナリスト達は花美が女性だと信じていないか、分かっても関わらずにいてくれた。
公表なんてしたら女性を危険に晒す可能性があるわけだし、普通に逮捕されるからな。
一部過激なことをしようとしたバカもいたが現在檻の中だ。
しかしYTubeが謝罪文を出してからは大々的に女性だと世間に知れたからか、隠す必要がなくなったと取材の申し込みが来るようになった。
そんなもんは勿論全て断っている。
しかし記者というものの気概かもしくは下心か、しつこく何度も何度もメールや電話が来て父さんや俺はイライラしていた。
あんまりにもしつこいから警察に通報したこともあり逮捕者もいるし、社会的圧力をかけたこともある。
それで諦める者は多かったがしかし、それだけでは諦めない奴もいた。
常識の範囲内で来られると逮捕は難しい。
花美本人が訴えれば即逮捕できるが、そんなストーカーみたいな記者に付け回されてるなんてことを言い花美を不安にさせたくはなかった。
なので今回こうして直接会っているわけだ。
「なぜだめなんです?花美さんはVTuberなんて人々と交流することをしている。そんな方なら取材だって喜んでしてくれるかもれませんよ!
一度彼女に話を通してください!保護者が勝手に判断して断るのは早計ですよ!」
「花美は有名になりたくてVTuberをしたんじゃない。
本人も言ってる通り暇潰しと家族以外と話してみたかったからだ。
有名になるつもりなんてなかったから登録者が増える度に恐々としている。
登録者がすごい勢いで増えて怖いと配信でも言ってたことがあるだろ?
その上取材が来てるなんて言ったら余計不安にさせる」
こいつは保護者の俺達が本人に話を通していないことが不満だったらしい。
本人が不安に思っていることを伝えると押し黙った。
こいつも花美のファンだろうからな。自分にとって都合良く思っていたことが否定され、怖いと言ってたことを指摘されればそうかもしれないと思えたんだろ。
メイは謙虚な女性だからな。本当のファンなら分かるだろ。
分からんようなアホなら知らん。
暫く俯いて考え込んでいた男は顔を上げ口を開いた。
「……では!では!お身内から花美さんの話を聞かせてください!
やはり花美さんはメイと同じように優しい女性なんですか!?
それとも他の女性と同じく実際は我儘だったりするのですか?」
「花美は他の女とは違う!優しいに決まってるだろ」
記者の軽い挑発に思わず答えてしまった。いかんいかん。気を付けないと!
いやこれに関しては挑発ではなく本当に気になって聞いただけなのかもしれない。
しかし、俺のこの発言を聞いて記者はわざと否定したくなるような煽りを入れてくるようになった。
煽てられれば花美を自慢したくてつい喜んで話しちまうし、他の女性と一緒にされるとイラついて話しちまう!
上手く躱せないことに焦って余計に乗せられていた。
「大和」
「父さん」
同席していた章司父さんが声をかけてきて止められた。
苦笑いするその顔を見て申し訳なくなる。
記者のペースに乗せられて色々話してしまった。せっかく俺を信じて記者の相手を任せてもらったのに情けない。
それからは父さんが主に話をし、花美のことを聞かれても上手く流してお開きとなった。
流石だな。俺は章司父さんが慌ててるのを見たことがない。
母さんが欲しがっていてプレゼントしたものの中身がジャック父さんによってアダルトグッズに取り替えられてたときも。
……あれは珍しくブチギレしてる父さんが見れたな。
シュンが川で溺れて俺と信彦父さんがパニクって信彦父さんが飛び込もうとしたときも冷静に止めて浮き輪を投げて助けてくれたし、ジャック父さんが何度も仕事をズル休みして英和父さんと信彦父さんがブチギレしてたときも、冷静に永遠と説教してジャック父さんの精神をすり減らしていたな。
……いや、花美が記憶喪失になったときは流石に動揺してたか。
いや、思い出すと花美が熱を出したときも中々ご飯を食べてくれないときも見た目は変わらないが焦ってたな。
それもあって花美が嫌いだったのもある。あいつだけ父さん達から特別に愛されてたから。
「……はぁ、ごめん父さん。きちんと躱すこともできなくて」
「いいさ。花美みたいな良い子が身内にいれば自慢したくなる気持ちも分かるからな」
俺の肩を叩きながら笑ってフォローしてくれる。
「俺1人で記者の相手をするから。そんなわざわざ来なくて大丈夫だよ!」と偉そうに大口を叩いていたのに情けない。
俺1人では荷が重いだろうと、仕事を抜け出し来てくれた章司父さんには感謝しかない。
しかし、花美と一緒にいる時間を削ってまであんなのを相手にしないといけないなんて辛いな。
俺がいない間にアーヴァやエドヴィンが花美に何かしてたらと思うと……
「気持ちは分かるが、これも花美の為だからな」
「分かってるよ」
苦笑いする父さんに俺も苦笑いで返す。
記者のメイのことを知りたいと言う気持ちも分かる。
俺だってあんな優しくて可愛い女性がいるなら絶対結婚したいし会いたい。
彼女のことならどんなことでも知りたいと思った。
「花美がVTuberをしてる。メイって子なんだけど、お前知ってるか?」
そう父さんから聞かされたときは はあ!? 絶っっ対嘘だろ!我儘娘が天使のわけあるか!!
と心からそう思った。
しかし、信じられない気持ちが大半だが、それでもなお万が一にもメイに会えるならという理由で花美の護衛を引き受けた。
絶対違うと思っていたのに希望を捨てられなかった。だから記者達の気持ちも分かる。
下心大半とジャーナリストとして誰もが気になるメイについて知りたい探求心。
それを少しばかり満たしてやったんだ。これで少しは取材希望が減ればいいんだけどな。
そんな風に俺は前向きに考えていた。




