閑話 とある護衛の回想
〜〜島津明宏〜〜
私には敬愛する女性がいる。宝王院麗華様というキラキラと黄金のように輝く金髪のツインテールの巻き髪に、高貴な紫の瞳のそれはそれは美しい女性だ。
私が7歳、麗華様が4歳のとき宝王院様より娘の遊び相手としてお声をかけていただき、一目見たときから心奪われ彼女の為に生きてきた。
麗華様はきつい物言いをなされるがとても優しい方だ。しかし、初めて会った者や浅い付き合いの者には誤解されやすい。
「そんなこともできないの?」「そんなんじゃ宝王院家に相応しくないわね」
そのきつい物言いに他の女性や側仕えの男性からも陰口を言われることがあった。
しかしそれも彼女が名家の娘として厳しく躾られていたからで、出会った頃から勉学に励まれ礼儀作法などもみっちり習っていた。
他の遊んでばかりいる女性とは違うのだ。
それを他の女性や後から側仕えになった者は知らないからそんなことを言う。
彼女は自分の頑張りをひけらかさないから、努力家なのを間近で見守っていた私と極一部の者しか知らないのだ。
そんなところも素敵で気高く美しく、そんな彼女を自分だけが知っているなんて優越感に浸ることもある。
だが、それ故に悪く言われることがあるのを苦々しく思っていた。
そんな麗華様が15歳を迎えていよいよ学校に入学するとき行われたテストで衝撃を受けた。
あの麗華様よりも点数が上の女子生徒がいたのだ。
しかもその生徒はあろうことか男子生徒と同じテストを受けたいなどと言い、結果48位という好成績を収めた。
意味が分からない、なんでそんな女性がいるのか!
すぐに私達は件の女子生徒を調べた。
藤岡花美という、特にどうということもない普通の家の出身だった。
教師、外交官、軍人、振興企業経営者というあまりパッとしない父親と医者の娘が母親だ。
そんな一般人がなぜこんな好成績を?意味が分からず気味が悪いと私達は思っていた。
そうして入学して出会った藤岡花美は黒い髪を肩のところで左右で縛った可愛らしい顔だが、制服を着ているだけでアクセサリー1つしていない地味な少女だった。
本当に最低限の化粧だけで髪飾りもしていないし、父親のレベルが低いからあまり裕福ではないのだろう。
それでも娘の為に頑張るのが父親だと思うが。
しかし、そんな彼女と最上マリアと、なぜか麗華様はご学友になられた。
麗華様に友人ができたことは素直に喜ばしい。
しかし、問題を起こした家の最上マリアと親しくすることで麗華様に何かあったらと気が気じゃない。
麗華様のお父上まであらぬ疑いをかけられたらと思うと……
我々から報告を聞いた旦那様方もあまり良い顔をせず、心配していらっしゃるが何も口にはしない。
だって、テレビ電話越しでも分かるほどあんな嬉しそうにご学友のことを報告なさる麗華様に言えるわけがないじゃないか!
それに、一般人の娘なのに異常な頭の良さの藤岡花美は得体が知れずあまり親しくしてほしくない。
もしかしたら父親達が何らかの目的の為に娘を育てたのかもしれない。
もし麗華様に何かあったらと思うと不安で胸が裂けそうだ。
しかし、そんな危機感を抱いているのは気付けば私だけになっていた。
麗華様の護衛としてここ数日学校で過ごした者は皆、藤岡花美を素晴らしい女性だ!こんな優しい女性がいるなんて!と絶賛している。
それにどうも彼女はVTuberなどという低俗な活動をしているようで、護衛の中には元々彼女のファンだったという者までいる始末だ。
私もいくつか確認したが、欲望丸出しのコメントや女性に対して中傷するようなコメントを見て不快になった。
よくあんなことを言われて平然としてられる。普通の女性なら激怒しているだろうコメントが多数確認できた。
これにより一層藤岡花美が何らかの目的を持って活動していると確信した。そうでなければあんな男達の欲望溢れる不快な場所で女性が活動できるわけがない。
だから私はずっとあの花美という女性が麗華様に近付きすぎないよう気を付けていた。
……気を付けていたのだが、
藤岡花美と過ごすうちに私達に「おはよう」「ありがとう」と挨拶やお礼を言ってくださるようになった麗華様。
最初のうちは誇り高い麗華様が、庶民の影響を受けて私達に媚を売るようなマネをなさるなんてと嘆いていた。
家の品位を下げないようにといつも気を張り硬い表情ばかりなされていた麗華様が柔らかい表情や、更には笑顔まで見せるようになって藤岡花美への嫉妬を感じていたりもした。
麗華様の手料理が食べられたからといって、お前への評価は変えないぞ!とそう思っていたのに。
私の心も少しずつ彼女を認めていたのだと思う。
特に彼女が子供をあやしている姿を見て、これが聖母といわれる者なのではないかと衝撃を受けた。
──そして、最上マリアが何でもないように言った「子供が好きな母親なんかいるの?」
あの言葉を聞いた瞬間、息を忘れるほどの衝撃を受けた。
自分が生きてきた人生で1度でも、母親が我が子を可愛がる姿を見たことがあるだろうか?
当たり前過ぎて認識すらしていなかった事実、そしてそれを当然のこととして語る女性の姿。
……そして、それを否定せず悲しそうな顔で俯く麗華様。
その姿を見て鼓動が激しく鳴る。
麗華様がお母様とご一緒している姿を1度でも見たことがあるだろうか?
それくらいならある。同じ家に住んでるのだから顔を会わせることもある。
廊下ですれ違うこともあったがお母様は麗華様にお声をかけられることは一度もなかった。
パーティーで一緒の部屋にいたこともあるが、しかしお母様は新しい男を探したり旦那様方に命令するばかりで麗華様を一瞥することもなかった。
あの時の寂しそうにお母様を見詰める麗華様の目を見て、胸が苦しくなったことを思い出した。
旦那様方が今日は麗華様の誕生日だと、今年で◯歳になったと報告したときも「そう」で終わり。
「そんなことより」と他の話をされて悲しそうに俯く麗華様を見てお母様と会わせない方がいいとそれからは一切会わせていない。同じ家に住んでるのに。
……4歳から15歳になるまでの11年間ずっとお側で支えてきたが、お母様と麗華様がまともに話をされているところを見たことがない。
そんなおかしな状態を、当たり前だと思い込んでいた。
倒れそうになる気持ちのまま他の面々へ顔を向けると、誰もが青褪めた顔をしていた。
きっと私も同じ顔をしているだろう。
何を言うことも、何をすることもできない私達の目の前で藤岡花美は麗華様方を抱き締めて言った。
「いるよ!うちのお母さんがそうだもん!子供を可愛がるお母さんはいるよ!
私だって2人のこと大好きだもん!」
その言葉を聞いて驚き、そして納得した。
この藤岡花美という異端者は、母親から愛されたからこそ生まれたのだと。
母親から愛されたからこそ、こうして他者を慈しむことができるのだと。
「あぁもう疲れたわ。あの2人の相手をするのも大変ね」
女子寮の部屋へと戻り、リビングでソファに座り紅茶を飲む麗華様を見る。
その口角は上がっており、先程までの楽しかった時間を思い出しているのだと分かる。
令嬢として厳しく躾られた麗華様は素直に感情を表現できない。
それでもこんなに嬉しそうにしている姿を見られるようになったのは、悔しいが藤岡花美と出会ってからだ。
それがふと寂しそうな目をされたので、思わず冗談めかして言った。
「素敵なお母様ができましたね」
「っっっ!何言ってるの貴方!! バカじゃないの!」
麗華様はすくっと立ち上がると私の目の前まで来て暴言雑言めちゃくちゃ怒られた。
正直怖かったがしかし、麗華様のその顔は終始真っ赤だった。
愛しい麗華様が幸せなら私はそれでいいのです。
きっとこれからも麗華様は藤岡花美と一緒におられるでしょう。
それが麗華様の幸せなら、ほんのちょっとの嫉妬は隠してお友達と交流できるようサポートいたしますよ。




