閑話 入学式 〜伊沢時雨〜
〜〜伊沢時雨〜〜
「また式が遅れてる」
「チッ、またワガママ女が何か言って遅らせてんだろ。いい加減にしろよな」
「マジだりぃ」
在校生の俺達は新入生の為の準備に椅子を運んだり色々手伝わされ、準備が終わって座って待つこと2時間。
毎年毎年クソ女の為に長いこと無駄な時間を使わされる。
新入生の男子も入学早々のこの待機時間にイライラしてることだろう。
在校生や教師や入学生の親は体育館で、新入生の男子は教室前の廊下でひたすら女子を待ち。
女子が入場してきたらようやく男子が入場できて式の開始だ。
だから女子の準備が終わるまでずっと待たされる。
在校生の女子はもちろん誰も参加しない。新入生なんて赤の他人を歓迎しようなんて女いないからな。
男は強制参加なのに羨ましい限りだ。
ほんと無駄な時間だ。
「遅いわよ!いつまで待たせる気なの!!」
「もう暫くお待ちください!もう少しで」
「もういいわ!帰るから!!」
子供の入学祝いに来た母親が我慢できず帰るのを見るのも毎年恒例だ。
子供を祝おうとするだけいい母親なんだろうが、途中で帰るならなんの為に来たんだか。
色々な不満を混ぜてハァ〜と重い溜息を吐いた。
「新入生女子、入場!」
教師の声で扉が開き今年入学の女子がようやくお目見えだ。
「はぁ〜」「ようやくか」誰かが呟くその言葉に完全に同意する。
メイが配信で自分の通う高校の名前を上げたとき、俺の通う日之水都高校の名前を聞いたときは歓喜して学校中の女子を探し回った。
それは俺だけじゃなく、在校中の他の生徒や教師もそうだろう。
OBもその話を聞いて探りを入れてくるから困ってる在校生は多い。
けれどメイらしい女子は見付けられなかった。
だからもしかしたら来年進学してくる女子の中にいるんじゃないか?
そう思って俺達は今日のこの日を心待ちにしていた。
でも、いつも通りの待ち時間にメイはいないんじゃないかと思いはじめていた。
だってメイなら長時間他人を待たせるようなことしないと思ったから。
そうして入ってきた女子は5人。
今年入学する女子は7人だと聞いていたから2人来ていないようだ。
何人か来ないのはよくあることだが、後から「なんで私がいないのに式をやったの!? もう一度やり直しなさい!!」なんてアホみたいなことを言う女もいる。
逆に入学したくせに一度も来ないまま退学する女もいるし、登校するかは本人次第だ。
そんなこと男子がやったら退学だろうにな。
5人の女の集団の後に、護衛の男達の集団がゾロゾロとついていく。
女が現れた瞬間周囲がざわつくのはいつものことだが、メイがいるかもしれない今回はいつも以上にざわついている。
高くなった後方席から「花美〜!」「麗華〜!」なんて父親だろう男の声が聞こえるのもいつものことだ。
男子が全員制服を着てるのに対して女子の制服は2人しかいない。
後は派手な服や後ろの邪魔になりそうなでかい帽子を被った女もいて溜息が出る。あの女絶対帽子脱がないだろうな。
ジロジロと見ていてふと違和感を覚えた。
よく見ると、制服を着た女がもう1人の制服を着た女にべったりくっついてる。
女同士はマウントを取り合っていて仲が良いんだか悪いんだか分からないものだが、あの女はあからさまにその女に懐いている。
どちらも黒い髪と目をしていて、抱き着かれている方の女は困ったように眉を下げながらも優しく微笑み、その女の頭を撫でている。
その笑顔を見た瞬間ギュッと胸が締め付けられた。
──あの子がメイだ。
そう思って紫苑を見ると、あいつもこっちを見ていてコクリと頷かれた。
だよな。あんな優しく微笑む女、メイ以外ありえない。
メイはそのまま最前列の席に着くと座り、時々隣の女子と話しながら式の進行を大人しく見守っていた。
その姿を俺はただずっと見詰め続けた。
式が終わると新入生女子、新入生男子、新入生の親の順番に退室する。
メイの後を追いかけたい。けど、在校生の俺達は片付けをやらされる。
教師達がいつもと違い落ち着きなくふわふわしていたし、今も何人もの教師が出て行った。
間違いなくメイを追いかけて。
その姿を見てイライラする。俺達に雑用を押し付けて自分達はメイを付け回すなんて、教師のすることかよって。
残った教師も俺達に指示するがチラチラ体育館の入り口を見ているからメイを気にしてるのが丸わかりだ。
お陰でメイに気付かなかった男子連中も「何かおかしくね?」「メイちゃんいたって誰かが」「え!?マジで!?」「メイって誰?」なんてざわざわしている。
やめろ、メイがいたなんて言うんじゃねーよ!ライバルが増えるだろ!黙ってろよ!
コソコソと出て行こうとした男子が教師に止められる。
いつもなら放置か軽く怒るだけなのに、そんな真面目な顔して怒ってたらメイがいるって言ってるようなもんだろ。
バカな教師の対応に思わず溜息が出た。
しかし、メイが後輩だとするとどうやって接触していけばいいか分からない。
わざわざ何か接点を作らないと普通に話すことすらままならないことがもどかしい。
そもそもメイ相手に普通に話すことができるかも怪しいが。緊張して声が出ないとか、ないよな?
……ありえる。
だって生メイだぞ?声をかけることを考えただけでドキドキするし、想像だけで緊張して汗まで出てくる。
同級生の男子が死ぬほど羨ましい。こんな色々考えなくても同じクラスにいられるんだから。
留年すりゃ同じクラスになれるが、留年するようなバカな男をメイが好きになってくれるか分からない。
少なくとも父親は、そんなせこい手を使うような男絶対に認めないだろうな。
ふと紫苑を見ると、あいつは何か思いついたのか暗く笑っている。
優等生とは思えない笑顔だなとまたしても溜息が出た。




