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第7話 古の聖歌



階段を急いで駆け上ってきたせいか息が切れて動けない。

ただ確実に、天に伸びた一筋の光は円柱の籠から発せられていた。やはり俺の予想は的中した。


ユグドラシルの街から一切の光が消えた半宵。小さな歌声が、風の如く響いてくる。

____なんて綺麗な歌声なんだろう。

ずっとこのまま、夜が更けるまで聴き入っていたい。


すると突然歌声がやみ、警戒心を露わにした声が響く。

「だ、誰…!?」

「あ、ごめん!驚かせちゃったな。今日お世話になったディオだ。」

「ディオ………。ああ、あの人。何しに来たの?」

何しに…?そういえば何しに来たんだろう。いざ訊かれると困るな……。

適当な口実を考える。


「……ヘルヴェノ伝達が見えたからさ。」

「ヘルヴェノ伝達……?この光のことかしら。」

天に伸びる光が左右に揺れた。

「そうそれ、その光だよ。」

彼女はヘルヴェノ伝達について知らないのか。一般常識だと思っていたが。


「それは、冒険者が離れた仲間にメッセージを伝える為の道具なんだ。」

「冒険者………。あなたも、冒険者だそうね」

「そう。今年からなった、16の代の冒険者さ。」

何故か数秒の間が空き、再び声が聞こえてくる。

「私と同い年なのね。」


「……………!?」

声から察するに、もう少し上かと思ったのだが。

そういえば、年上の人と話すときにガッチガチの敬語になりがちの俺も、この人とは自然に話していた。脳の方は同年代と判断していたのかもしれない。


「さっきの歌は何の歌なんだ?」

「我が王族に代々伝わる歌よ。父から教えてもらったの。」

彼女は軽く歌ってみせる。

シルクのように滑らかで、透き通った歌声は、顔の見えない彼女の姿が見えてくるかのようだった。


「すごい上手だな。誰に教えてもらったんだ?」

「…父親よ。もう死んじゃったけど。」

まずいことを聞いてしまった、と反省するが、籠から聞こえてくる彼女の声調は変わっていない。特に気にしていないようなので胸を撫で下ろした。


「籠の近くに石板があるでしょ、父が建てた物なんだけど。そこに歌詞が書いてあるわ。」

籠の右横にひっそりと佇む石板は、微かに苔が生え始めていた。


“ 天使は謳う自由は不自由だと

自由を求めて散った戦士達 自由を手に入れ堕ちた天使達

なんて無意味なの『自由』って


悪魔は謳う 平等は不平等だと。

選ばれし者 選ばれざる者 平等という名の監獄で

互いに共生していくのか

なんて不合理なのだ『平等』とは


天使と悪魔が生きる世界に神が降りる

逆さになった虚ろな世界で

それでも民は戦い続けるのか”


彼女が歌っていた穏やかなメロディーからは、想像できないような重い歌詞に、首をかしげる。

「本当にコレなのか?」

「ええ、そのはずよ。この世界の起源を書いた神話をテーマにした曲らしいけど。」

「………レノンディ世界始話か」

「そう!あなた、物知りなのね。」

そう言われちゃうと、アカデミーテストのとき、必死で覚えたなんて、かっこ悪くて言えなくなってしまう。


「君は、どう思う?この歌詞について。」

代々伝わる歌詞について、次期女王はどう思うのか。非常に興味がある。


「………私は天使よ」

そう言った彼女の声は、どこか哀しげで、切なさを帯びていた。今まで乱れることのなかった声調が、若干揺らいだように感じた。


きっと色々と、複雑な過去があるのだろう。悩みもあるのだろう。考えがあるのだろう。

激しい衝動に駆られて俺はここにきた。未だにその理由が何だったのかは分からない。でも、はっきりと言える。

ここにきてよかった。ここにきて、なにかが分かった気がする。


運命が、俺を呼んでいる気がしたのだ。


_________________________________________


瞼の先に明るい光が見える。



_______朝か。





昨晩、聖樹から宿舎に帰ると、深夜を通り越し、明け方になっていた。

そのままぐっすり寝てしまったため、きっと今はお昼時くらいだろう。


スクッと上半身を起こすと、黒印が刻まれた右手が目に入る。

………俺はまだ弱い。

彼女に言われたように、もっと強くならないとバトルスキルはもらえない。

このロールの力を完全に引き出せれば、絶対今より強くなれるはずだ。そのためには、この力をもっと知る必要がある。クロン種イフリート。このロールの謎を解き明かさねば。




朝食を済ませ、外に出ようとすると、見覚えのある女性が話しかけてくる。

「ディオさん!!」

短く切り揃えた金色の髪、キラリと輝く碧眼、間違いない。


「マニさんじゃないですか!」

「お久しぶりです、お元気なようで!」

相変わらずの素敵な笑顔を向け、にっこりと微笑んだ。

「おかげさまでなんとかやってます。マニさんはこの街に何をしに来たんですか?」

「いや、あのーキャラバンの用事でちょっと。」

マニの態度から、口外禁止な用件で来ているのだと察し、話題を変える。


「そういえば、聖樹の上でバトルスキルってのを……」

俺が最後まで言い終える前に、マニが声を上げる。

「バトルスキル、とれたんですね!!!あれがあってこその冒険者ですもんね!」



「いや………実はそのー力が足りてないって言われちゃって。まだ取れてないです」

「え?あ、そうでしたか。ま、まぁそのうちもらえますよ!大丈夫!うん………!」

明らかに気を使っているのが分かる。無理に励まされても、逆に悲しくなるだけである。

急に込み上げてきた悔しさに、ガクンと肩を落としてしまう。


「じゃあ、俺はこれで失礼します。またよろしくお願いします。」

「あ、はい。頑張ってくださいね、私はいつも応援しています!」

体を翻し、聖樹に目掛けて歩き始める。



「もっと強くなってやる。」



聖樹聳えるこの街で、俺は、確固たる決意を心に決めた。



_________________________________________



新たに街を訪れた、2人の怪しい影。


「おいおい、本当にこんな街にいんのか?」

「………ああ、間違いない。奴はこの、聖樹街ユグドラシルにいる。」



「ふーん………。んじゃ、摘んどきますか」


これからこの街で起こる惨劇など、誰も知る者はいない。

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