第6話 籠の中の孤独
「す、すっげーぇぇ!!」
巨大樹の中央にのびる枝、「統治の塔」。枝の中身がくり抜かれ、この街を統治する王家が住む王宮となっている。
全3階からなる王宮のうち、1階のみが、自由見学ができるようだ。しかし、観光客は殆どいなくて、このフロアだけでざっと10人程しか見当たらない。
ここまで上がってくるのに、魔石エレベーターで3分程だった。このエレベーターも、巨大樹の幹の一部をくり抜いて設置したらしいが。聖樹にそんな細工してバチが当たらないのだろうか。
統治の塔の1階は、エントランスのような場所だった。2階へと続く階段は施錠され、警備が敷かれていた。
特にすることもなく、展示されている資料を見ていたとき、何者かに肩を叩かれた。
「君、もしかして新米冒険者?」
ハキハキとした男性の声に振り向くと、金髪の青年が手を後ろに組んで立っていた。
「まぁ新米ですけど。」
「だよね!僕は、レオン。3年前から冒険者やってるんだ。」
だよね!って………。そんなに俺は新米オーラでも出してたか?
「君はなんて名前だい?」
「俺はディオ。ディオ・バルムートだ。」
「ディオ君か。やっぱり君も"気解の儀式"を受けに来たのか?」
聴きなれなれない単語に焦りを感じたが、これ以上ナメられるてはプライドが許さない。この男にそれを悟られぬように、極限まで平静を装ってソレについて聞き返すことにする。
「気解の儀式とは、なんだったかな?」
「え、え、知らないのか…!なんとびっくり!」
俺の知識のなさに驚く奴は何度も見てきたが、こいつのように鳩みたいな顔で驚く奴は初めてだ。恐ろしいほど癪に障る。
「すいませんね、勉強不足なもので。」
「あ、いや、そんなつもりじゃ……。」
こんなことアカデミーのテストじゃ出ないから…と言い訳しつつ男の話に耳をかす。
「気解の儀式とは、バトルスキルを解放させる儀式のことさ。一定の経験を積んだ冒険者なら、解放してもらえるよ。」
「一定の経験…?」
「…と言っても、1、2週間修行すれば誰でも解放してもらえるくらいになるよ。」
「ふーん…なるほどな。」
……バトルスキル。
返事は素っ気なく返したものの、内心すごく興奮している。バトルスキルなんてものがあるなんて知らなかった!
「んで、それは誰から受けれらるんだ?」
「バトルスキルを授ける技は、この王族に代々伝わる秘技でさ。こないだ大皇帝様が亡くなったから、今じゃ娘で次期女王の人がやってるんじゃないかな。」
「…場所は?」
「この塔の西側にある"洗礼の塔"から行けるよ。」
俺は男に軽く会釈をして、早々に背を向けた。
…ワクワクさせてくれるじゃないか!
期待を抱いて、洗礼の塔に向かった。
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洗礼の塔は幹の延長線上にある統治の塔とは違い、樹の左半分にあるため若干傾いていた。統治の塔は観光ように整備されていたものの、この塔…いや、この太い枝にはツタなどが生い茂っていて、殆ど整備の手が回っていないようだ。
内部に入ると、枝の外周に沿って螺旋階段が作られていることが分かった。内部が全てくり抜かれている訳ではなく階段の段差部分だけ削って作られているようだ。
ジメジメ湿った薄暗い階段を上っていく。途中、樹からドロドロした樹液が垂れていたり、小動物が現れたりしたが、無事出口らしき場所まで辿り着いた。
「うわぁ……怖ェェ。。」
塔から出ると、そこは塔から出ている小枝の上だった。どうやらあの階段は、塔から出てる幾つかの枝に行くための通路だったようだ。
暗い階段から急に屋外に出たため日差しが強く感じる。瞼を半開きにしながらゆっくりと歩く。
下を覗くと、広大な聖樹街がミニチュアジオラマのように広がっている。
落ちたことを想像し、身震いする。枝の幅は20m程あるが、柵のようなモノはないため、突風でも吹けば容易く地上まで落下してしまうだろう。本当にこんな場所に女王がいるのか?
もっと安全面を考慮しろよ、などと小言を言いつつ、慎重に歩いて行くと、枝の先の方に、大きな球状のモノがうっすらと見えた。ツタのようなもので作られているようだが。
球状の建築物は、聖樹と一体化しており、こちらからは中が見えない。
「おーい、誰かいるのか?」
風の音と共に、一筋の声が聞こえてくる。
「冒険者の方...?」
声の主は、おそらく球形の物体の中にいるであろうことが分かった。
ハッキリとした、それでいて透き通る声から、中にいる人が若い女性だということが予測できる。恐らく、さっきの男が言っていた「次期女王様」とやらだろう。
「あ、そうです。なんかバトルスキルがもらえるって聞いたんで。」
数秒の沈黙の後、球形の物体からエメラルドグリーンの光が放たれた。そしてそれは、網目のように絡まり合ってゆく。
「手を結界に翳して。」
言われるがままに、両手を前に突き出して、結界に手のひらを翳す。
途端、眩い光が手を包みこんだ。
ロールを授けられたときと似た感覚。全身が焼けるように熱くなっていく___。
___しかし、突然手の平からポツポツという音が鳴り始めて、全身に満ちていた熱が一気に抜けていってしまう。
「.........?」
何か不具合でもあったのだろうか。不安感に駆られていると、女王様の声が再び響く。
「君、まだ弱すぎるよ。これじゃ体が耐えられないわ。」
「え………!?俺が??」
「そうよ。弱すぎる。」
そんなはずはないと、何度も手をかざすが、結果は変わらなかった。
「1週間とかそんぐらい修行すりゃ解放してもらえるって聞いていたのに…。」
「…………ま、才能がないってことよ、もっと強くなってから来て。」
アレだけ修行をしたのにまだ足りなかったのか?突然悔しさが込み上げてきた。
多分俺は、自分の力に自信があったんだろう。クロン種ロールを手に入れて、自分の戦い方もできてきて、同年代じゃトップクラスだとか思ってたのかもしれない。
「自分の実力を過信してたかもな…。」
そう言い残し、その場を去ろうとした。が、俺の良心、または好奇心が、動き始めた足を止めた。
「ところで、君はなんでこんな場所にいるんだ?こんな不自由なところにわざわざ…。」
長い静寂が、空間を支配する。
彼女の口からその理由が語られることはないと判断して、再び足を動かそうとした。その時、凛とした、あるいは哀しげな声が樹上に響いた。
「やっぱり自由って、不自由なものね。」
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幾千の星の中、天高く聳える聖樹は今宵も街を照らしている。
俺はまた、114の部屋の窓から外を覗いていた。
この宿舎は、マイルーム登録をしておけば、最大1週間、同じ部屋を確保できる。朝キャラバンを出るときに登録しておいて正解だった。
「あ、流れ星じゃん。」
お祈りしなきゃ。そんな子供らしい考えが浮かんだが、特に叶えたいこともない。
流星は、聖樹の横を通過し、一瞬で天に消えた。
「…………ん?」
聖樹の上に、微かにカラフルな光が見える。
…またか。
昨日もヘルヴェノ伝達で遊んでいた奴がいた。同じ人物だろう。
光を辿っていくと、左から二番目の枝、洗礼の塔あたりに光源を見つける。
あの場所はおそらく、俺が気解の儀式を受けに行ったあたりだろう。あんな場所で一体誰がやってんだ……。
__!?
いや、いる。俺は今日会ったじゃないか。おそらくあの子だ。いや、それしか考えられない。
謎めいた衝動に駆られ、俺は部屋を飛び出した。




