第5話 聖なる大樹に誘われて。
獣車は、ユグドラシルの正面入り口に停められた。
ツルのようなもので作られている城壁は、石やレンガの壁よりはるかに強固だ。ツルがこんなにも硬いのは聖樹の力によるものだとアカデミーで教わった。
数千年も生き続ける聖樹の上には王の一家が住んでいる。
夜だというのに、門番すらいない門をくぐる。街は、キャンドルのような暖かい光で包まれ、幻想的な雰囲気を醸し出している。
獣車の乗客から聞いた情報によると、キャラバンの支部なるものがここにもあるらしい。とりあえず今日はそこで夜を越そう。
…ぐぅぅぅッ_________!
……この空腹をなんとかした後で。
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雑貨屋で売っている「激安簡易栄養食」を喉の奥に押し込み、水で流し込む。そうでもしないととても食べられない。最大限のカロリーと栄養を凝縮してあるため、味は酷い。
ひとまず空腹は抑えられたので、さっそくキャラバンへ向かおうか。情報によれば、この雑貨屋の裏手にあるはずだ。
ラムナの街を、色で表すと「ベージュ」が最も近いだろう。そうなると、この聖樹街は「エメラルドグリーン」といったところか。どの建物も淡緑系の色をしていて、統一感ある風景になっている。
雑貨屋の裏手に回ると、ラムナの街よりはるかに大きいキャラバン施設があった。建物の天辺には紋章入りの旗がはためいている。
施設内からこぼれ出るキャンドルの灯りに誘われるように、俺は扉を開いた。施設内はたくさんの冒険者で賑わいを見せ、盃を交わす者もいれば、狩りの作戦を立てる者もいた。
とりあえず、受付カウンターに向かった。
「ラムナの街からやってきた冒険者なんですが、泊まる場所がなくて困ってるんです。なんか泊まれる場所とかありませんかね?」
「この街は冒険者の聖地と呼ばれ、冒険者に対してのサポートが厚いんです。なので、宿泊施設から朝食まですべて無料でご利用できますよ。」
金髪の男性スタッフがにこやかに答えた。
「無料ですか…!」
案内された114の部屋の鍵を開け中に入る。部屋の中は宿屋同然の設備で、とても無料だとは思えない。
それにしても、まともな部屋で寝るのはいつぶりだろうか。モンスターがゴロゴロいる危険なフィールドでは、まともに寝られなかったが、これなら今夜はぐっすり眠れるはずだ。
ふと見た窓枠のちょうど中央には、"聖樹ユグドラシル"の全体像がすっぽり収まっていた。
なんてラッキーなんだ俺は。こんな絶景ポイントをゲットできたなんて。
あまりの運の良さに、左手のステータスを見てみるが、「LUK(幸運)」の部分は0のままだ。
世界樹は青碧の葉を惜しげなく広げ、街の中央に鎮座している。その周辺には暖かな明かりが灯る。
深々と生えた葉をボーッと見つめていると、樹の上から、僅かな光が伸びていることに気付く。自分でも、気付いたことに驚くぐらい細い光だった。おそらく、こんな光に気付いたのは、俺だけだろう。俺の数少ない取り柄の中に、"視力"がある。昔から、遥か先にあるものまで見れたので、「望遠鏡おとこ」などというあだ名をつけられたこともあった。
そのか細い光は、赤や青、黄色など、樹から様々な色に変わっていった。俺はすぐに確信した。あの光は、間違いない。ヘルヴェノ伝達信号だ。
昔から、狩りのときなどに、遠い仲間へ伝言したいときに用いられているものだが、何故街の中で…………?
羊皮紙を取り出し、光った色をメモしていく。
赤黄青緑白青黄と、どんどん色が移り変わっていく。
「……?特に意味はないようだな。」
きっとだれかのイタズラだろう。
そう分かった途端、大きな睡魔が襲ってきた。
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翌日、無料朝食コーナーに置いてあったロールパンを頬張り、キャラバンを出た。昨日の夜とはまた違った雰囲気をみせる聖樹街は、ひんやり透き通った空気で満たされていた。
今日は、聖樹上にある王邸に行く予定だ。
いつの日かマニが、「王邸は、冒険者の門出の場所」と言っていた。どういう意味か分からないが、行ってみれば全てが分かるはずだ。
聖樹へと続く主街道「星屑通り」へ出ると、大勢の住民が道を行き来していた。道の両サイドには、八百屋や武器屋などの屋台が並んでいる。
あいにく今はお金を持ってないので、屋台で買い物をすることができないが、いつの日か必ずや片っ端から買い尽くしてやろうと心に決め、ズカズカと歩いていった。
聖樹の麓に到着すると、改めて規格外な木の大きさに驚く。この大陸には大きな木が山ほど存在するが、ここまで巨大な木は、ユグドラシルのみであろう。
太い一筋の幹から5本の枝が伸びている。中央の枝の中に、王邸があるらしい。
______早く行ってみたい………!!
天までのびる大樹に誘われるかのように、俺は入り口の階段に足をかけた。




