第1話 俺のロール
戦闘ロールという文字を見て、俺は5秒程フリーズしてしまった。何か特殊なものに当たったようだったが、まさかそれが戦闘ロールだとは思いもしなかった。一体俺にどうしろというのか。
公園に向かって一本道を歩きながら、先程渡された羊皮紙の続きを読むことにした。
"戦闘ロール"というのには、驚いたが、同時にワクワク感も生まれた。俺でも活躍できるようなチートスキルが書かれていると確信しているからだ。
「なになに………」
羊皮紙に書いてあった内容は、以下のようなものだ。
【戦闘ロール】
・右腕のみに大幅なSTR補正。
え?
STR補正……だけ?
スキルとしては、悪くないが…。
数秒前まで抱いていた期待には到底見合わないスキルである。しかも、右腕だけ。
もっとこう、「空を飛べる」とか「邪龍を召喚する」とかそういうのを期待していたのだが。
言葉にできない感情を抑止し、ベンチに腰をかける。
「はぁ………」
ついつい、ため息が漏れる。あれだけ期待させてきたので、どんなロールかとワクワクしていたというのに。
完全に期待を裏切られた俺は、予想以上のショック感に襲われた。
広場には、"16の代"の青年が、ちらほら見受けられるが、どの青年も、満足気な顔に見えてしまう。何故自分だけこんな不幸な気分なんだ。
「俺、本当にやっていけるのかな……」
大きな不安感が、俺に追い打ちをかける。
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日が暮れるまで広場のベンチに座り続け、結局、家に帰ったのは7時頃になってしまった。
「ただいまぁ」
自分でも驚くぐらい、元気のない声だ。
「おかえり〜」
リビングから顔を出した母親が、俺を迎える。普段は鬼のような母も、今は少し気を使っている様子だ。こちらを見つめるだけで、何も声をかけてこない。
一人息子が、数時間前、自分の人生を悟ったのだから、当然の対応だ。
おそらくこのまま何も声をかけられることなく、俺は自分の部屋へ行く。そう思っていたとき、予想外の言葉をかけられる。
「あんた、その右腕…どうしたの?!」
右腕…?ああ、あのSTRが上がった右腕ねぇ。。。
そう思って視線を落とす。
すると、眼前に映ったのは、白い透き通った肌の右腕。ではなく、タトゥーのような紋章の刻まれた右腕だった。
「な、な、何じゃこれーーー!?」
さっきまでは、普通だった…いや、意識して見ていなかったから気付かなかったのか…?まさかこれが、ロールの効果なのだろうか…
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翌日、俺は自分のロールについて詳しく知るために、街の中央区にある"キャラバン"に向かった。
「ここが、キャラバン…」
これまでの人生、戦うこととは無関係な生活を送ってきた俺にとって、キャラバンのような戦闘職専用施設に訪れることになるとは思ってもみなかった。
しかしながら、とても立派な建物だ。綺麗な濃緑色で塗られた外壁は、太陽の光を全面に受けて輝いている。建物の天辺には、キャラバン特有の紋章が描かれた旗が靡いている。冒険者がこぞって登録する理由も、建物を見ただけでも分かる気がする。
3m程の高さがある入り口をくぐり、大きなロビーに出る。
ロビーは、ゴツい甲冑を付けた戦士や、武器を装備した人で賑わっている。ガヤガヤワヤワヤした様子で、いかにも「初心者お断り」感が出ている。
(場違いだったかもな……)そう思ったとき、何者かに右肩を叩かれる。振り向いてみると、眼鏡をかけたロングヘアの女性が立っていた。キリッと引き締まった表情からは、彼女の芯の太さが伺える。青い髪に青い瞳、他でもないフーガ民族の証だ。
「新米さんですか?」
あまりにストレートな質問に、俺はコクコクと頷くほかなかった。
「そうですか。新米レクチャーがありますが、お受けになりますか?」
女性は、機械のような調子で話しかけてくる。おそらく、施設スタッフの方なのだろう。
「お、お願いします。」
「ではこちらへ」
くるりと体を翻し、女性はスタスタ歩いていく。(なんだあの人…)マニュアルがかった女性の口調に少し腹を立てつつ、慌てて後を追いかける。
女性は、東廊下にある部屋のドアをガチャっと開けて中に入っていく。それに続いて、俺も部屋に入る。部屋は、木の長机と椅子のみが置かれた、殺風景な雰囲気だ。一体、新米レクチャーとは、何なのだろう。
女性スタッフが口を開く。
「まず、名前とロールを教えて頂けますか?」
「……ディオ・バルムート……です。」
スタッフなら、自分から名乗るのが普通だろ!とツッコミたい気持ちを何とか抑え、ロールが描かれた羊皮紙を机に出す。
「拝見してもよろしいですか?」
「あ、はい…どうぞ。」
女性スタッフは、藁半紙を拾い上げてじっくりと確認する。その間、何度もウーンとか、ふむふむなどと呟き、数秒後、やっと口を開いた。
「このロールは、"クロン種"と呼ばれる部類のロールですね。」
____クロン種?何だそりゃ。
そんな感情が、顔に出てしまっていたのか、クロン種についての説明が更に続く。
「クロン種は、ロールの中でも珍しい種類のもので、100人に1人と言われています。」
100人に1人と言われると、とても珍しいロールなのだろうが、全くいない割合でもない。この辺の地域は、人口が20万人程なので、この付近だけで2000人いる計算になる。
「クロン種というのは、神や怪物、幻獣、モンスターや虫などの力を受け継ぐスキルを与えられるロールのことです」
10秒程唸り、5,6割の理解には至ったものの、今ひとつ分からない。
理解が追いついていない俺を無視して、彼女は再び口を開く。
「クロン種の方は優先的にキャラバン登録をすることができますが、どう致しますか?」
予想外の展開だ。
キャラバンは、人気故に、登録倍率が非常高い。時期によっては何百人待ちだったりするときもあるらしい。今日は登録が目的でなかったのだが、登録ができるならしておいた方がいいだろう。
しかし、それ以前の問題がある。
「あのー、キャラバンに入ると何かいいことでもあるんですか?」
女性スタッフは驚いた顔をしている。いまどきキャラバンの存在意義を知らない者は少ないのだろう。でも、戦うことに関して無縁の人生を歩んできた俺は、成人するまで知ることなく生きてきてしまったのだ。だからこれを知らずしてキャラバンに入るのは、早とちりというものだ。
「そうですねぇ…。一番の利点は収入を得られるということですかね。他にも冒険者間の交流の場ができたり最新の情報が手に入ったりと、まぁ盛り沢山です」
なるほど。戦闘職を志す者にとっては、必須の施設ということか。キャラバンに入ることが、戦闘職に就くための第一歩なのだろう。
(コレは入る他ないな。)
サインを済ませ、無事キャラバン登録が完了する。
「あのー、今更な気もするんですけど、なんでクロン種だけこんな優遇されるんですか?」
「クロン種は他のロールに比べて、別格の力を持っている場合が多いからです。現に、最前線に立つ冒険者の7割がクロン種です」
7割……。クロン種は、そんなに強いのか……?いや、前線で戦う者達にとって、クロン種というのは最低条件なのか?
「ディオ様の登録手続きは完了しましたので、これから、自由に施設を利用できます。」
「じゃあ、初心者レクチャーってのは、終了ですか?」
「いや、新米登録者の方には専用の係りの者がつきますので、その者から、詳しいレクチャーを受けてください」
そう言うと、女性スタッフは席を立ち、部屋から足早に立ち去っていった。
____もう帰ってもいいのか?それとも、"係りの者"とやらを待つべきなのだろうか。
途方に暮れているとき、ドアが再び開く。
「お待たせしましたー!」
威勢良く入ってきたのは、金髪ショートの元気な女性スタッフだった。
「ディオ・バルムート様ですよね?」
「あ、はい、そうですけど…」
「私、ディオ様の担当スタッフとなりましたマニ・リヒトと申します。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
慌てて上半身を折りたたみ、お辞儀をする。お得意の人見知りが出てしまった。
「さっそくですが、ディオ様のロールについてお話しさせていただきますね」
マニは机に置いてあった羊皮紙を拾い上げる。
「…………なるほど」
なるほどって……。こんな羊皮紙見てなにが分かったっていうんだよ。
「その紙には『右腕のみに大幅なSTR補正。』としか書いてありませんけど?」
そんなディオの言葉をマニは左手で制す。
3分程経過したとき、マニが口を開いた。
「あなたの右腕には、イフリートの力が宿っていますね。」
「……………はい?」




