第5章:帰路と報告 1/2
高山が部下に手を下した翌朝。
二人少ない中で、部下たちは察しながらも高山の前に並ぶ。
◆足りない朝
翌朝、高山は兵を集めた。集まった人数は二人足りない。
兵達は昨夜の銃声と今でも漂っている匂い、救護天幕の煙で察していたが、一人の兵として、高山の前に立っている。
「昨日の任務はご苦労だった。犠牲者が二名出たが、任務は今日で終わる予定だ。」
高山の事務的な感情が無い言葉に兵達は憤りを感じながらも、今日で終わるという気持ちも同時に持っていた。
「神石という存在によって、鬼達がここまで降りてこないことも昨日の報告で分かった。昨日渡した地図で神石の位置は把握していると思う。」
高山は気を引き締め、兵達に発言した。
「今日行うことは、鬼の遭遇位置を洗い出すことだ。これは、ガスの噴出位置を探し出すことに大いに役立つことである。その上、我々の装備だと鬼に対抗出来ないことも分かった。おおよその位置で良い。神石が永久にあるとの補償も無い、そのための位置を知りたい。」
兵達の瞳は、鋭く高山を見ていた。高山は自分達の命を軽く見ているのではと自分達は高山の駒なのかと。
高山は、各々の眼光から読み取り、言い放った。
「お前達が言いたいことは、瞳から分かるぞ。だったら、この任務を終わらせ帰還後に全てを俺にぶつけろ。だがな、俺にも仕事っていうものがある。お前達を好き勝手に使える位置に、俺は居ないことだけは覚えておくことだ。」
高山の発言に更なる苛立ちを覚えた者、理解した者、そして、昨日報告に上がった兵は高山の言葉に何故か重みを感じていた…自分が口にしたこととは言え、最終的な判断を押すような自分と間違いでは無いかの最終確認を取っていたように感じる昨夜の高山の発言。
高山には最初から冷たい雰囲気や寄せ付けない何かがあり、自分達の中でも高山に対する印象を良く思っている者は、最初からいなかったが、それが、昨夜の一件で特に強くなった者がいる事も事実だ。
高山は各々の気持ちを知らずに言葉を並べていく。
「本日で最後となる任だが、遭遇した時はお前達の判断に任せる。今のままでも位置を絞ることは可能だが、更に高める為の本日の作業となる。」
高山は兵達を見続ける。
「遭遇した時に、好きなだけ撃ってもよい。だが、鬼からの攻撃による怪我を負った時は、己等で判断するように、鬼になりたければ鬼になれ!それは、"己自身が鬼となり集落をも襲う可能性がある"事を忘れるな!」
高山の言葉に兵達は、また顔つきが変わっていた…己が鬼となり集落へ襲撃する可能性…あり得る話なのに考えていなかったことだ…高山は続けて話す。
「鬼が神石からそう離れることが出来ないとの報告は確かにある。だが、それは神石による神石で囲まれた範囲内での話でしか無い。神石から離れた位置での鬼が発生した時の事は我等には分からぬ。全ての起こりうる可能性を考え、想定することが指示者では無く兵として必要な事だ。」
高山は兵達に背を向けると、"最後の任となる香山へ向かえ"と一言発した。兵達は"はい!"と形式上の敬礼をし香山へと向かっていった。
兵達が香山へ向かう道中に、一人の老人が寄ってきた。
「兵隊さんたちの気持ちも分からんわけではないが、あの高山さんかの?あの人が行った行為は間違いではないんだ…。この集落でも、どんなに言い聞かせても、必ず馬鹿をする者はいる…昔話などの綺麗な話じゃないからな。」
兵達は歩みを止め、老人の話を聞いていた。老人は、集落の少し先にある場所を指さすとそこには、大きな石が見えた。
「あの石の下には、鬼になりかけた者が寝ておる。我々が、手をくだして殺してしまった者達が眠っている碑…だから、我々は兵隊さん達の気持ちも高山さんの気持ちも分かる。友を失うことや身内を失うこと…ましてや、自らの手で相手の命を絶つ事の悲しさを」
兵達は何も言わずに老人の言うことに耳を傾けていた。
「さすがに高山さんという指示に立つ人の気持ちは理解することは出来ぬが、兵隊さん達は、高山という人を憎むようなことはしないでほしい。近づいて欲しいという訳じゃない。ただ少しだけ冷静になって欲しいって思うだけ」
老人は、そう話すと「兵隊さん達の邪魔をして申し訳ないと」頭を下げ、兵達から去って行った。
兵士たちは、老人の言葉に何も返すことなく、ただ、誰かが帽子のつばを深く下げた。
それが、答えだった。
老人の言葉は、老人たちも自分の命を守るため心を鬼にして身内に手を下した事だった。
この老人の言葉は若き兵達に響いたのか…




