第4章:鬼の咆哮 1/2
部隊報告を基に地図を見る高山。
高山は、地図を見ながらあることを考えている。
◆机上
夜。
高山は卓上に蝋燭を灯し、報告箇所と山神の石の配置を再確認していた。
コーヒーを片手に、地図を睨む。
「明日の捜索は、一班の人員を増やすか…
ある程度の範囲は絞れている。
恐らく、今晩中に捕虜たちは“鬼”と化しているはずだ…」
高山はコーヒーを一口含み、静かに呟いた。
「奴らも、いずれは鬼になる予定だった。
国が決めたこととはいえ…非人道的すぎる。
我々を信じていない証拠だな…」
天幕で眠る部下たちの姿を見ながら、
高山は拳を握りしめた。
やるしかない。
だが、憤りは消えない。
無力な自国、技術差を知っているからこそ、
この方法しかないという現実が、胸を締めつける。
【強国日本】――
それをこのような形でしか築けないのか。
技術的な差を埋めることは、本当に不可能なのか。
高山は、地図の上で指を滑らせながら、
明日の作戦を練り続けた。
---
翌朝。
昨日と同じ時間に兵士たちが集められた。
高山は前に立ち、静かに告げた。
「いいか。恐らくだが、昨日お前たちが見た捕虜は“鬼”と化している。」
その言葉に、兵士たちの間にざわつきが走った。
「何を言っているんだ?」という視線。
小さな笑い声。
だが、高山は無視して続けた。
「よって、本日は一班の人数を増やす。
見つけ次第の捕獲は、昨日と同様に考えるな。
襲ってきたら逃げろ。もしくは――発砲を許可する。」
“発砲許可”の言葉に、ざわつきは静まり、
兵士たちの顔に動揺が浮かび始めた。
「昨日の捕虜は、お前たちを“捕獲”しようとしていた。
これは、ここの長との話で確認が取れている。」
兵士たちの表情が変わる。
真剣な面持ち。
だが、その奥には、仲間意識と恐怖が交錯していた。
「いいか。昨日も言ったが、己の命を第一に考えろ。
今日の任務は、昨日以上に危険だ。
仲間意識が、お前たちの命を脅かすことになるかもしれん。」
沈黙が落ちる。
兵士たちは、自分の判断が命を左右することを理解し始めていた。
「お前たちにとっても、最悪な選択を求めるのが俺だ。
仲間を捨てろ。
報告が、己の命を守る唯一の手段だ。
分かったか!?」
「……はい」
その声は弱かった。
迷いが、声に滲んでいた。
高山はそれを感じ取り、声を張った。
「お前たちの行動が、我が国を強くする。
そのための任務だ。
お前たちは、それに値すると認めて選ばれたことを忘れるな!」
「はい!!」
兵士たちの声が、ようやく揃った。
だが、その目には、昨日とは違う影が宿っていた。
高山は、兵士たちの瞳に宿る影に、ある種の不安を感じながらも、声を張った。
「よし、お前たちの行動に期待しているぞ――行け!」
号令と共に、兵たちは山へと足を進めていった。
その背を見送りながら、高山の目には、彼らの姿に哀れみと、確固たる覚悟の揺れが映っていた。
「……まだ、若いな。
選定を間違えたとは思いたくない。
だが、結果を出す者を選んだ。
この経験が、奴らにとってどれほどの成長の糧になるのか――それとも、腐っていくか。」
香山から射してくる朝日を手で遮りながら、
高山は、これからの日本を担う若者たちを見送った。
その瞳には、これから山で起きるであろう悲劇と、
それを任せてしまう己の立場への悔しさが滲んでいた。
そして、もうひとつの悔しさ――
自分が班に入っていないこと。
現場に立てないことへの、奇妙な焦燥。
「俺は……"人"なのだろうか。
班に入っていないことを悔しく思うとは。
俺は部下を思っているのか?それすらも怪しいな……」
高山は、己の感情の差に呆れ、
思わず、苦笑を漏らした。
己が危険な場所にいないこと。その場所へ赴きたいという思い。
そして、部下の事をどう見ているのかを考えながらも己の思考が正常かを考えている高山…




