第3章:捜索と報告
捕虜たちを香山に放ち時を見た高山は部隊を呼び、香山に向かわせる。
日が昇り、香山の稜線から光が差し込むと、高山は静かに動きを見せた。
「全員をここに呼べ。これからのことを伝える。」
招集を受けた兵士たちは、真剣な面持ちで並び立った。
高山は一人ひとりの顔を見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「これから、お前たちには香山に入ってもらう。
目的は、昨日逃した捕虜たちの捜索だ。
見つけても、捕まえるな。確認するだけでいい。」
「はい!」
兵士たちの声が揃う。
高山は続けた。
「この山には、毒ガスがあるとの報告がある。
ガスマスクは用意してある。
皮膚の露出は徹底的に抑えろ。
ガスで死ぬ可能性があることを、肝に銘じておけ。」
「はい!」
「ドラムの動きとロープの状態から見て、
中腹まではガスの影響はないと思われる。
そこまでは、マスクの着用は任意とする。」
高山は、集落の地元民を一瞥し、再び兵士たちに視線を戻す。
「自然が豊かな場所だ。お前たちの田舎と似ているかもしれん。
だが、油断するな。直感を信じろ。
木々にはガスの影響はないようだが、
この山には“鬼と化す香”があると伝えられている。」
香山は、見た目には穏やかで美しい。
山道は険しいが、緑は深く、癒しすら感じるほどだ。
だが、動物の声は一切聞こえない。
木々と植物以外の命を感じられない、静寂に包まれた山だった。
「いいか。己の命を最優先に考えろ。
我が国に必要なお前たちを、ここで失うわけにはいかない。」
兵士たちの表情が引き締まり、高山を見る目が変わった。
「この作業を、単なる捜索だと思うな。
香山での捜索は、命がかかる作業だ。
静寂に包まれた山で、一瞬の気の緩みが命取りになる。
捕虜を見つけても、決して捕まえるな。
お前たちの感覚でいい。見た場所だけを報告しろ。」
「はい!」
「よし。準備が整い次第、入山せよ!」
高山の号令とともに、兵士たちはマスクを手に取り、山へと向かっていった。
高山はその背を見送りながら、卓上に広げた地図に目を落とす。
指先は、山神信仰に基づいて置かれた石の配置をなぞっていた。
地元の長を呼び、石の位置を確認しながら、
霧の発生範囲と捕虜の行動範囲を予測していく。
夕刻が迫る頃、兵士たちが次々と戻り、報告を始めた。
高山は報告された位置と石の配置を照らし合わせ、
捕虜の発見場所と霧の濃度を地図に落としていった。
報告は一貫していた。
「大きな変化は見られないが、肌の色と体格が微妙に変わっているように感じる」
発見数は4名。
高山は、報告を聞きながら、静かに思案を続けていた。
部下の報告で確認できた生存捕虜数と位置を落としていく高山。
高山は次にどうするのかを考えながら夜を迎えていく…




