最終章:鬼 4/8 <下された命令、新たなる誓い>
高山へ送られた命令書。
高山は部下達に1日だけの休息を与える。
各々が何をするかを考える中、高山は秀風には、佐久耶へ行くことを、そこで秀風の言葉を伝えて来いと命じる。
秀風は、変わらぬ村で何を思い、何を伝えるのか…
◆下された命令、新たなる誓い
高山の手には既に封を解いた封筒があり、高山は封筒から紙を取り出し再び確認する。中身は…
~命令書~
高山秀樹以下部隊 明後日0600時 生水港にて船に乗ること。
「明後日…我等も|戦場<いくさば>に出るか…」
高山は声を張り上げ、兵を呼び、兵達は高山の前に横に整列した。その列には秀風も含まれている。
「命令だ。明後日0600生水港に向かう。そこに到着している船に乗り、我々も戦場へ向かう。」
『戦場』の言葉に兵達の顔は引きつり、喉を鳴らす者がいた。張り詰めた空気の中、一人の兵が口を開く。
「戦場ですか…場所は分かっているのでしょうか?」
「分からぬ。ただ生水へ来いとの事だけだ。明日が最後となる可能性もある。明日は突然だがお前達に休暇を与える。家が近い者は家に帰り、遠方の者は、電話が通じるようであれば、舎の使用を許すが、長い時間は使えぬ事を肝に銘じることだ。」
各々の兵に少し顔の緩みが見えたが、秀風は黙ったままだった。
「秀風。お前は佐久耶へ行け。恐らくお前が去った時と大きな違いは無いと思うが、お前の目で見てきて、お前の心に刻み、お前の言葉を伝えてこい。」
高山は通訳者を呼ぶと、秀風と佐久耶へ向かうよう話す。通訳者は、何も言わずに嫌な感情を示さず、秀風を見て、
「はい。分かりました。明日、佐久耶さんと一緒に佐久耶へ行ってきます。私も見てみたいです。佐久耶を」
秀風を見て軽く笑みをうかべ、秀風の方に振り向き、
「お願いします。佐久耶さん。」
秀風は少し自分に対する接し方が違うことに途惑いながらも
「こちらこそ。よろしく。佐久耶を案内します。」
秀風は頭を下げ、通訳者へ微笑みながら口にした。
「ほぉ~木地さんの運転で向かわれるのですか?木地さんは運転が苦手と記憶してますが…」
「えっ?まぁ…得意ではないですけど、速くは現地には着くかと」
「なら、私もついていってもよろしいでしょうか?秀風の地の佐久耶は"木花咲耶姫"との関連もありそうですしな」
「坂本さんは…よろしいのですか?確か近くに、ご自宅があると記憶しているのですが」
坂本と呼ばれた男は手を横に振り、笑顔を浮かべながら
「いいのですよ。木花咲耶姫との関連があると思われる場所にむかう方が有意義に感じます。」
翌日、秀風、木地、坂本の三人は秀風が逃げ育った佐久耶へ向い、現地を三人は見た。
既に人がいない閑散と風の音と鳥のさえずりのみが聞こえる村。あの日、香山研究部隊が自国民に行った惨劇が今も残った、物を言わずとも現状が三人に物語っている。
秀風は一歩足を進めると、静かに頭を下げた。二人も続くように頭を下げている。
「…ただいま。帰ってきたよ…」
秀風は頭を上げ、村を見回していた。秀風の目に映るは昔の自分が去る前の景色と現実の景色。
「戦争…侵略…捕虜になる前に自分が行っていた行動…」
坂本が秀風に近づき、軽く叩き同情するような且つ優しい笑みを見せ。
「秀風。どうだ?短期間といえ自分が育った村だ。高山さんの気遣いをどう感じる?」
「そうですね…あの日からの自由で得た、第二の故郷になった所です…もちろん、故郷の姿を忘れることはありませんが、消えてしまう可能性がある第二の故郷に再び来れたこと…ここの皆に自分の素直な言葉を伝える機会をくれた高山さんに感謝してます。」
「そうか、なら行動で感謝を伝えるしか無いな…あの人が求めているのは行動だ。結果じゃ無くて、行動を求めている。口先でも無く目的がハッキリして結果が出る行動を…」
坂本が秀風の横に立ちそう話すと二人の後ろにいた木地が口を開いた。
「だから、秀風さんをここに来させたということですか?坂本さん。」
坂本は村をゆっくり見ながら、当時の惨劇跡を見ながら答えた。
「さぁな…だが、『佐久耶秀風』としては、ここに来る必要はあっただろう。この村があったからこそ、佐久耶秀風は生まれたんだ。それに今日しか来ることが出来ない場所になる可能性も高い。」
坂本は「明日は…」と口にしながらも言うのを止め、村の中に立ち、村を懐かしむ秀風の背を見ていた。
秀風は二人に振り向くと穏やかに微笑みながら
「ここで伝えたいことは伝えました。帰りましょうか。それとも坂本さんが言っていた、木花咲耶姫の地を見に行きますか?」
坂本は秀風の提案にゆっくりと首を振り
「行きたいと思ったが、秀風の表情を見て止めたよ。帰って気持ちを落ち着かせる必要もあるだろうしな。さて、帰りますか木地さん。」
坂本と木地は、秀風の表情に安堵したのか、笑みを浮かべて車へと向かった。秀風は、その二人の背を見て、村を振り向き口を開いた。
「"大事にしろ"と言われたこの命ですが…皆の元に行くことが…私の命の行く先かもしれません…でも、死ぬ為に向かいません。佐久耶秀風として全うして、その結果が死の場合は、私は怒られるでしょうか?」
秀風は答えが返ってこない村に問いかけ、坂本と木地の後を追うように歩みを進めたが、その顔には祖国の出兵時には感じられなかった決意を秀風は感じ、小さな笑みを浮かべ心の中で思った。
"祖国で感じなかった。いや感じても、軽く思っていた…この気持ち…それをこの日本で強く決意として感じるとは…村民のたった一言の言葉が自分をこう思わせるなんて…"
秀風は、この日本で命、人の思いを強く決意した。
祖国でも誓ったはずの決意よりも強い決意を…マイケルがマイケルから秀風に変わり、戦場へ向かう。




