最終章:鬼 2/8 <逃走者>
高山を訪ねて来た人間。それはかつての逃亡者…
◆逃走者
その時、高山の部屋の扉を叩く軽い音が響き、高山が音に応えると静かに扉が開いた。
「高山さん…高山さんにお会いしたいという人が…」
「俺に会いたい?訪問者か?」
「はい、取調室にいます。」
「?誰だ…まぁ、向かうとしよう。取調を受けているのか?」
高山は疑問に思いながら立ち上がり尋ねる。報告に来た者は、どう伝えるべきか悩みながらも話を続ける。
「取調を受けているわけではないのですが、そこが適切かと…」
高山は部屋出て歩みながらも報告者に問う。
「適切?つまり何かしらの罪を犯したわけではないということか?」
取調室の前に立つ、高山と報告者。高山は扉にあるのぞき窓から相手を確認する。
「あの者…生きていたのか」
高山は取調室の扉のノブに手を掛け扉を開く、中にいた者が高山を見ると、少し緊張が解けたように高山を見た。
その者は香山からいなくなったロープを切った捕虜だった。
「"自由の身"だと言ったと思うが?何故ここに来た?」
高山と共に来た報告者が"相手に訳しよう"としたが、高山は止め、相手を見た。
「おれは、あの山から逃げて近くの村に行った。いつかは海に出ようと思った。だけど、銃の音で隠れてた。村の人と仲良くなって…」
高山を訪ねたのは、あの時の逃げたと思われた一名の元捕虜だった。
既に服装は軍服ではなく、洋服を着ていたがサイズ的にあわないのか、つぎはぎ部分が見える。
「誰が、その服をなおした?なぜ、俺の所に来た?」
「村の人。あわないと言って色々してくれた。優しかった。一緒に色々やった。ふるさとを思い出して楽しかった。」
元捕虜の表情が曇り、怒りがわずかに見え、高山は何が起きたかを察したが、何も言わずに元捕虜の言葉をただ待った。
「ある時、日本の軍人が村に来た。何て言ったかは、よく分からない。村の人は怖そうな顔してた。ただ、おれに隠れろって言った。いのちを大事にしろって。」
高山と共に来た者も察して、じょじょに恐怖で顔が引きつっている。高山はそれでも何も言わずにただじっと元捕虜を見ている。
報告を受けるようにただ元捕虜の言葉に耳を傾け、高山の目は報告を受け内容を処理する指揮官の目をしていた。
「何かが起きた事が分かった。大きな声や小さな声が聞こえて直ぐに出たかった。けど、箪笥を何かがつっかえてたし、抑えてた。やっと外に出れたと思った…」
「Hell(地獄)だったか?思い出したか?」
高山の地獄の言葉に元捕虜だった者は勢いよく立ち上がり、高山を掴み掛かったが、高山は動じずに言葉を発した。
「戦争だ…忘れたか?我が国は既に戻れない位置にいると見ている。国内とはいえ、お前達は他国で他国の者に見せた地獄だ。」
高山は通訳者に目を配り「訳せ」と一言言うと、通訳者は元捕虜に訳し伝えた。
「!!…But would they really kill their own people so easily?(しかし、自国の人間を簡単に手を掛けるのか?)」
「It would just become another piece of history that never sees the light of day... just another incident...(表にでは出てくることがない歴史の一つとなるだけだ…一つの事件としてな…)」
静かに高山は言った…先を見据えたように、涙をこぼし崩れ落ち膝を突く元捕虜を見ながら…しばらく元捕虜を見た後、高山は片膝を突き、元捕虜と視線を合わせるよう姿勢を低くし尋ねた。
「何故、お前は、ここに来た?」
高山の冷徹な言葉…歴史というものは力持つ者によって作られていくという事。
その歴史の中でどう生きるのか…




