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第十四章 婚約発表

プロポーズから数日後、皇国では正式に婚約発表の式典が催されることになった。

王侯貴族はもちろん、商人や市民までもが招かれる、皇国では異例の規模の催しだという。

準備に追われる日々の中、私はこれから始まる新しい生活への期待と、少しの不安を抱えていた。

壇上に立つ私の隣には、正装に身を包んだ殿下がいる。

広場を埋め尽くすほどの人々を前に、私は緊張で胸が高鳴っていた。

殿下が朗々とした声で、婚約の発表を告げる。

 

「我が婚約者、セラフィーナ・ローズベルクを、ここに正式に紹介いたします」

 

その瞬間、広場全体が歓声に包まれた。

 

「皇太子殿下、おめでとうございます!」

「セラフィーナ様、お幸せに!」

 

貴族たちだけでなく、商人や市井の人々までもが、心からの祝福の声を送ってくれている。

この半年の間に築いてきた信頼が、こうして形になって返ってくる。

その事実に、胸が熱くなった。

王国にいた頃、これほど多くの人から祝福を受けたことは、一度もなかった。

広場の一角には、市場で出会った織物屋の店主の姿もあった。

 

「セラフィーナ様のおかげで、うちの商売も持ち直しました」

「本当に、おめでとうございます」

 

その言葉に、私は深く頭を下げた。

身分を超えて、こうして多くの人から祝福される日が来るとは、王国にいた頃には想像もできなかった。

歓声の中、私はふと、外交使節として招かれている一団に目を留めた。

その中に、アルドリック殿下の姿がある。

周囲が皆、拍手を送る中、彼だけがひどく静かだった。

表情には、複雑な感情が入り混じっているように見える。

かつての婚約者として、この光景を見る彼の胸中は、私には計り知れないものだったに違いない。

一瞬だけ、目が合った。

けれど彼は、それ以上何も言わず、静かに視線を逸らしてしまった。

その様子に、私は彼がようやく、全てを受け入れたのだと感じた。

式典が終わった後も、その表情が、なぜか頭から離れなかった。

数週間後、王国の父から届いた手紙に、意外な知らせが記されていた。

 

「アルドリック殿下は、王位継承権を一時停止されたそうだ」

「陛下自ら、そう申し渡されたと聞いている」

 

その一文に、私は思わず手を止める。

まさか、そこまでの処分が下されるとは、想像もしていなかった。

 

「お前にはまず、人を見る目を養え」

「陛下はそう仰り、殿下に厳しい処分を下されたそうだ」

 

手紙は、さらに続いていた。

 

「殿下は現在、一から政務を学び直しておられるとのことだ」

「かつての傲慢さは、すっかり鳴りを潜めているらしい」

「城内の評判も、以前とは少しずつ変わってきているそうだ」

 

その知らせを読み、私は複雑な思いに包まれた。

かつての婚約者が、これほど厳しい処分を受けることに、素直に喜べる気持ちにはなれない。

けれど同時に、彼がようやく自分自身と向き合い始めたのだとしたら、それは決して悪いことではないとも思えた。

人は、失って初めて気づくことがある。

彼にとって、それが今なのかもしれない。

 

「彼の成長を、心から願っている」

 

手紙の最後、父はそう締めくくっていた。

私も、静かに同じ思いを抱く。

過去は変えられないけれど、これから先の道は、誰にでも選び直せるはずだ。

かつて傷つけられた記憶は、簡単には消えない。

それでも、彼が本当の意味で変わってくれるのなら、それは王国の民にとっても、決して悪いことではないだろう。

窓の外に目を向けると、婚約発表を祝う旗が、まだ街のあちこちに翻っていた。

色とりどりの旗が風にはためく光景は、まるで街全体が私たちを祝福してくれているかのようだった。

その光景を眺めながら、私は静かに、新しい人生の始まりを噛み締めていた。

過去に区切りをつけ、今はただ、目の前にある幸せを大切にしていきたい。

そんな思いを胸に、私は手紙を静かに閉じた。















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